表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/124

006 クロウリー様、こちらへ! 奴とまともにやり合っては、勝ち目がありません!

 クロウリーは即座に解除呪文を唱えて、護謨球を造り出した創造魔法を解除する。

 魔法が解除されると、護謨球は一瞬で光の粒子群となって四散し、空気に溶け込む様に消滅する。


 続けて、創造魔法の呪文を超高速詠唱し、クロウリーは鋼鉄製の障壁を造り出そうとする。

 しかし、上を見上げ、惣左衛門の姿を確認したクロウリーは、自分の創造魔法が、間に合わない事を悟る。


 宙に舞った惣左衛門は、炎のセフィルに身を包みながら、衆議院本会議場の天井まで飛ばされていた。

 惣左衛門は、天井を足場として跳躍し、クロウリーに向って突撃しようとしていたのだ。


 惣左衛門とクロウリーの距離は、十数メートル。

 惣左衛門なら一瞬で間合いを詰め、鋼鉄製の障壁が完成する前に、クロウリーを仕留める事が出来る状況である。


(やられる!)


 クロウリーは、敗北を覚悟する。

 しかし、クロウリーの命運は、まだ尽きてはいなかった。

 突如、クロウリーの後方から飛来した水の奔流が、あたかも龍であるかの様な動きを見せながら、惣左衛門に襲いかかったのだ。


 そんな動きを見せるのだから、当然の様に普通の水では無く、魔法の水……水のセフィルの奔流である。

 創造魔法で作り出された水の龍が、惣左衛門に襲い掛かった、水の奔流の正体。


 水の龍……水のセフィルの奔流は、惣左衛門の纏う炎のセフィルと激突する。

 炎のセフィルは水のセフィルに打ち消され、消え去ってしまうが、水のセフィルは炎のセフィルに蒸発させられて、大量の水蒸気に変化する。


 水の龍の直撃を受けた惣左衛門は、空中でバランスを失い、落下する。

 炎の魔法も、炎が水の龍にかき消されてしまった為、自動的に解除された。


 炎のセフィルは消滅したが、水のセフィルは蒸発し、形状を水蒸気に変化させただけで、消滅した訳では無い。

 水蒸気となったセフィルも、水のセフィルである事には、変わり無いのだ。


 水蒸気という形で、水のセフィルが残ったという事は、水の龍……つまりは水のセフィルによる攻撃が、惣左衛門の炎のセフィルに、打ち勝った事を意味している。

 もっとも、水のセフィルは炎のセフィルに対し、相性が良いので、当然と言えなくもないのだが。


「クロウリー様、こちらへ! 奴とまともにやり合っては、勝ち目がありません!」


「その声は……カリプソだな?」


 クロウリーは、信頼する部下の名前を呼ぶ。

 すると、マニッシュなダークスーツに身を包んだ長身の魔女が、クロウリーの前に姿を現す。


「今の攻撃は、お前がやったのか?」


 姿を現した魔女……カリプソは、領いた。

 黒い仮面を被った、ショートヘアーのカリプソの外見は、魔女と言うより、男装の麗人と言った方が相応しい。


 作戦の失敗時に備え、退路を確保する為、衆議院本会議場を離れていたカリプソは、惣左衛門の襲来を知り、急いで衆議院本会議場に駆け付けた。

 そして、クロウリーの危機を目にしたカリプソは、水の龍を作り出す創造魔法を即座に発動し、助けに入ったのである。


「炎を水で打ち消した結果として、大量の水蒸気が発生しました。この場は間もなく、水蒸気で埋め尽され、視覚が効かなくなります。今の内に、撤退しましょう」


 惣左衛門の雷撃隼爪脚を、クロウリーが護謨級で防ごうとする場面を目にした時点で、次に惣左衛門が纏魔を行うのは、炎のセフィルになるだろうと、カリプソは先を読んだ。

 その上で、カリプソは膨大な魔力を投じて創造魔法を発動、炎のセフィルに対して相性が良い、水の龍を作り出していた。


 惣左衛門の魔力は強力なので、身に纏う炎のセフィルだけでも、水の龍の素材となる大量の水を、一気に水蒸気にする事が出来る。

 炎のセフィルを打ち消すだけでなく、打ち消した結果、水のセフィルが大量の水蒸気となる事を、カリプソは狙ったのである。


 撤退用の煙幕として利用する前提で、カリプソは故意に、大量の水蒸気を発生させた訳だ。


「見事だ、水蒸気で視界を潰す事まで、計算の内か……」


 クロウリーは、自分を上回る戦闘センスを持つカリプソの顔を見ながら、感心した風な顔で呟く。

 もっとも、カリプソは顔の上半分を、彼女のマジックブースターである、黒い仮面で隠しているので、顔を見るとは言っても、左側にホクロがある口元と、目の周りしか見えないのだが。


「確かに、今の我等の戦力では、この場で奴とやり合っても、勝てる確率は低い。奴の強さは、次元が違い過ぎる」


 忌々しそうに、クロウリーは言葉を吐き捨てる。

 勝てる確率が低い戦いを続ける程、クロウリーは馬鹿では無い。

 十分な戦力を揃えもせずに、惣左衛門と正面切って戦っても、クロウリー達に勝ち目が無いのは、これまでの戦いで、既に分かり切っていた事なのである。


「総員、撤退!」


 クロウリーは部下達に、撤退命令を下す。

 高温の水蒸気は、既に衆議院本会議場の五割程の空間を埋め尽くし、人々の視界を、乳白色に塗り潰しつつあった。

 水蒸気は、カリプソの狙い通り、事実上の煙幕となったのだ。


 銀の星教団のメンバー達は、クロウリーに率いられ、出入り口に向って走り出す。

 出入り口付近は、通気性が良いせいか、水蒸気の濃度は薄い。

 銀の星教団のメンバー達は、水蒸気に視覚を潰される事無くスムーズに撤退、カリプソが整えた退路を利用し、国会議事堂を後にする。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ