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059 所詮は奴も、ただのテロリストか……

「惣さんも、穢気……少し溜まってますよ」


 左腕を上に上げたせいで、惣左衛門の左脇の下が露になった為、そこに穢気が溜まっているのに、榊は気付いたのだ。

 榊は右手の人差し指で、惣左衛門の左脇下の経穴を突いて、穢気吸いを行う。


「朝から戦いっ放しで、自分で抜く暇がなくてな。助かるよ」


「こっちこそ、肩の重いのが治りました」


 惣左衛門の穢気を吸出しながら、榊は懐かしげに続ける。


「――若い頃は良く、こうやって穢気を吸い出し合いましたよね」


「お互い、上手く気が練れなかったからな」


 榊と柊、そして惣左衛門の三人は十代の頃、共に修行をする事が多かった。

 十代前半などは、まだ気の扱いが下手だったせいで、頻繁に身体に溜まってしまった穢気を、三人は穢気吸いで吸い出し合っていた。


 その頃の記憶が、榊と惣左衛門に甦ったのである。

 懐かしくも遠い、青春時代の思い出が。大人になってからは、殆ど気を練り損なわなくなったのだが、今日は二人共、朝から連戦続きで疲労してしまい、そのせいで少しだけだが、穢気を溜め込んでしまっていた。


「お互い、若い頃の話を懐かしむ様な年に、なっちゃいましたね」


 自嘲気味に、榊は苦笑いを浮かべる。


「見た目だけなら、今でも若いぞ」


 フォローの言葉をかける惣左衛門に、榊は右手首にはめられた、プラチナのブレスレットのマジックオーナメント、ケセドの腕輪を見せる。


「これを外せば、おばさんですよ」


「そうか? 魔法少女になる前だって、実際の歳よりも、十歳以上若く見えたぜ」


「お世辞じゃなければ、嬉しいんですけどね」


「お前に世辞を言って、何になる? ただの事実だ」


 実際、魔法少女になる前の榊は、本来の年齢である四十代中頃よりも、十歳以上若く見えた。

 気を操れる鬼宮一族は、普通の人間に比べて老化が遅い傾向があるので、大抵は実年齢よりも若々しい。


「若く見られるのが事実なら、嬉しいんですけど、お世辞を言う必要がない相手扱いされるのは、余り良い気分がしないな」


「世辞を言われて、喜ぶタイプじゃないだろ」


「そうですけど、お世辞を言う必要が無い相手として扱われるのも、それはそれで嬉しくないんですよ。軽く扱われてる気がして」


「――たまにだけど、面倒臭い女になるよね、お前」


 半目の呆れ顔で、惣左衛門は呟く。


「面倒臭くない女なんて、この世にいません」


 楽しげな笑みを浮かべ、榊が言い切った直後、惣左衛門の無線機が、黒電話のベル風の着信音を響かせ始める。


「また救援の依頼かな? 今日は何件あるんだか」


 惣左衛門は愚痴りつつ、ブルーの専用無線機を取り出すと、無線通信の相手と話し始める。


「――鬼宮惣左衛門だけど?」


 無線通信相手と会話を始めた、惣左衛門の表情が強張る。

 幼い頃からの付き合いである、榊ですら、滅多に見た事が無い、明らかな動揺の表情を、惣左衛門が露にしたのだ。


「護送班が到着次第、彩多摩に向かう! とりあえず、今現在入手出来てる情報は、全部送ってくれ!」


 惣左衛門の表情を見て、不安を覚えた榊は、無線通信の終了を待てず、問いかける。


「どうしたんです?」


「一刀斎が、誘拐された……」


 鈍器で頭を殴られた様な、激しいショックを受けながら、惣左衛門は榊に答える。


「一刀斎君が? 一体誰に?」


「確認は取れていないが、一刀斎が通ってる中学の、音楽教師らしい」


 無線通信の相手である、規格外犯罪対策局のICの女性オペレーターは、一刀斎が数分前に凪澤中学校で拉致され、車で誘拐された事を、惣左衛門に告げたのだ。

 容疑者が凪澤中学校の音楽教師、北村藤那である可能性が高い事も。


「何でまた、音楽教師が? 魔法主義革命家団体の、構成員か協力者だったんですか?」


「その可能性が高いとは思うんだが、現時点で確証は無いそうだ」


「一刀斎君と犯人の行方は、分かってるんですか?」


「警備隊が信号を出しながら追跡中で、大よその位置は分かるそうだが、凪澤中学校を出て、西に向かって走っているらしい」


 惣左衛門が答えた直後、無線機に送られて来た情報が、モニターに表示される。

 規格外犯罪対策局が犯人の最有力候補だと考えている、藤那に関する情報であり、顔写真も含まれていた。


 藤那の顔写真の画像を、惣左衛門はモニターに表示させる。

 小さなモニターの中で微笑んでいる、藤那の唇の左下にあるホクロを見て、惣左衛門は気付く。写真の人物が、誰かに良く似ている事に。


「こいつは……カリプソじゃないのか?」


 惣左衛門は思わず、驚きの声を上げつつ、藤那の画像を凝視。

 特徴ある口元だけでなく、仮面越しにではあるが、何度も合わせた事がある目を、惣左衛門は確認する。


「間違いない、こいつはカリプソだ」


 信じられないと言わんばかりの口調で、惣左衛門は言葉を続ける。


「あのカリプソが、シュタイナー協定を破ってまで、一刀斎を攫ったのか? しかも、カリプソの正体が、一刀斎が通ってる中学の、音楽教師だったなんて……」


 藤那とカリプソが、同一人物である可能性が高いと考えた惣左衛門は、その考えを女性オペレーターに告げる。

 そして、右手でセフィロトの首輪を弄りながら、惣左衛門は吐き捨てる様に呟く。


「所詮は奴も、ただのテロリストか……」


 一刀斎を攫うという、卑劣なな手段を使った敵の事を、敵でありながらフェアな相手だと評価していた、自分自身の甘さを、惣左衛門は痛感しながらも自嘲する。


「惣さん……」


 心配そうに惣左衛門を見詰め、榊は呟く。

 そして、自分に気合を入れるかの様に、表情を引き締めてから、榊は惣左衛門に声をかける。


「ここは私に任せて、惣さんは一刀斎君を追跡して下さい!」




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