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057 こんなに気が効く女なのに、何で貰い手無いのかねぇ?

「――これで全員、処置終了か」


 浜辺に並べられた、十五人の魔法使い達を見下ろしながら、げんなりとした口調で、惣左衛門は呟く。

 十五人の魔法使い達とは、レキウユンを含めた、世界を照らす自由団の特殊部隊の魔法使い達である。


 レキウユンを倒した後、西の空に飛び立った惣左衛門は、程無く逃亡中の魔法使いを発見した。

 惣左衛門の推測通り、索敵範囲から逃れた魔法使い達は、西と南の空を飛んで、逃亡中だったのである。


 まずは西の空……茨木県の都市部上空で空中戦を繰り広げ、惣左衛門は次々と魔法使い達を撃墜した。

 続けて、海濤海岸から南の方向の空に向かって飛んだ惣左衛門は、海や浜辺の上空で、次々と魔法使い達を発見し、片っ端から撃墜。


 十分程度の時間で、索敵範囲の外に逃げた七人の魔法使い達全てを、惣左衛門は仕留め終えてしまったのだ。

 その後、惣左衛門は榊と共に、倒した辺りに放置した魔法使い達を回収、十五人の世界を照らす自由団の魔法使い達を、海濤海岸の浜辺に集めた。


 全員が意識を失っているだけで、身体に深刻なダメージを負っていないのを確認した後、惣左衛門は榊と手分けして、全員に逃亡を防ぐ処置を施した(気の流れを徹底的に乱した)。

 げんなりとした口調で、惣左衛門が呟いたのは、その直後という訳である。


 現時点で、規格外犯罪対策局から惣左衛門に、新たなる指示は出ていない。

 故に、世界を照らす自由団の魔法使い達を、護送する任務の者達が到着するまで、ここで魔法使い達の身柄を抑え続けるのが、惣左衛門と榊の任務なのだ。


「惣さんが来てくれて、助かりましたよ。来てくれなかったら、原発やられてました」


 全員が意識を失っているのを確認し終えた榊が、惣左衛門に歩み寄りながら、ポケットから黄色い缶飲料と、小箱を取り出す。


「――これ、どうぞ」


 黄色い缶飲料と小箱を、榊は惣左衛門に差し出す。

 魔法使い達を回収している途中、コンビニエンスストアを見付けた榊は、カロリーフレンドを買って来ていたのだ。


 栄養をバランス良く摂取出来るカロリーフレンドには、缶飲料タイプと、ショートブレッド風の物が存在する。

 黄色い缶飲料はコーヒー味の缶飲料タイプであり、小箱の方は、チーズ味のショートブレッドタイプの物である。


 惣左衛門は若い頃から今に至るまで、空腹時や疲労した時、食事を取る暇が無かったりする場合、カロリーフレンドを愛用している。

 カロリーフレンドの味は色々なのだが、惣左衛門が好んでいるのは、このコーヒー味とチーズ味なのだ。


「有り難う、相変わらず気が効くな」


 礼を言いつつ、惣左衛門は目の前に立ち止まった榊から、カロリーフレンドを受け取る。


「惣さんにしては珍しく、疲れた顔してましたから、魔法使い連中を回収する途中で、買っておきました」


 榊は別のポケットから、自分の分のカロリーフレンドを取り出す。


「今日は朝からテロ続きで、日本中飛び回って戦ってたからな。昼飯を食う暇もなくて、腹も減ってたんで、助かるよ」


 近くに落ちていた松の木の幹を椅子代わりにして、惣左衛門は座り込む。

 先程の戦いで、防風林から飛ばされて来た、松の木の残骸だ。


「こんなに気が効く女なのに、何で貰い手無いのかねぇ?」


 そう言うと、惣左衛門は喉の乾きも覚えていたので、缶飲料の方を開け、甘ったるいミルクコーヒー風の液体を飲み始める。

 小箱の方は、膝の上に置いた上で。


「放っておいて下さい、結婚とか……私は向いてないんで、どうでもいいんです」


 少しばかり不貞腐れた風な口調で、言葉を返しつつ、榊は惣左衛門の左隣に座る。

 そして、惣左衛門と同じコーヒー味の、カロリーフレンドの缶飲料を開けると、飲み始める。


 二人の会話から分かる通り、榊は独身なのだ。

 鬼宮一族は整った顔立ちの者が多く、榊も見た目には恵まれているのだが、不思議と昔から、全くと言っていい程、男っ気が無い。


 榊は十代の頃から、男性というより恋愛自体に、「興味が無い」というスタンスを崩さず、そのまま四十路に足を踏み入れてしまったのである。

 男性からのアプローチ自体は多かったのだが、榊本人に全く相手にする気がなく、結婚どころか交際に至った例すらないらしい。


 ちなみに、恋愛や結婚と縁遠い榊なのだが、娘が一人いる。

 実子ではなく、親友とその夫が事故死した後、その娘を養子として引き取り、育てているのだ。


「――そういえば、一刀斎君対策の、ジャージの評判はどうでした?」


 チーズ味のショートブレッド風のカロリーフレンドを、ミルクコーヒー味の液体で、異の中に流し込み終えた惣左衛門に、榊が問いかける。


「話がすぐに、他に移っちまってね、良く分からなかった」


 既に完全に自己修復を終えている、フォーマルスタイルのスカート部分の裾を、惣左衛門はつまむ。


「まぁ、これよりはマシだろうがね」


 一刀斎の話題が出て来たせいで、惣左衛門は一刀斎に関する、別の情報を思い出す。

 昨夜、ベッドで眠りに就く前、佐織から聞いた話を。




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