055 魔法使い達を追撃すべく、飛行魔法を発動し終えたばかりだった惣左衛門に、炎のセフィルを身に纏ったレキウユンが襲い掛かる形で、両者の戦いは始った
榊が二人目の魔法使いを狙い、追撃を開始した頃、既に惣左衛門とレキウユンは、戦闘を開始していた。
戦場となっているのは、松の木の残骸だらけの防風林。
魔法使い達を追撃すべく、飛行魔法を発動し終えたばかりだった惣左衛門に、炎のセフィルを身に纏ったレキウユンが襲い掛かる形で、両者の戦いは始った。
炎のセフィルを多数の火球として放つ、レキウユンの猛攻は、惣左衛門に魔法を切り替える隙を与えなかった。
強力な攻撃力を見せ付けたレキウユンを放置し、他の魔法使いの追撃に向かう訳にはいかないので、惣左衛門は飛行魔法のまま、レキウユンとの戦闘を開始。
膨大な炎のセフィルを身に纏っていたレキウユンを相手に、飛行魔法のアーマーアビリティと武術のみで、纏魔すら無しに戦う事になった。
身に纏う炎のセフィルの一部を、ビー玉程の大きさの火球に変えて、レキウユンは惣左衛門に向けて放つ。
小さな火球だが、一発で戦車すら火達磨にする程の威力が有り、惣左衛門のアーマーアビリティであっても、何発も耐えられはしない。
銃器を手にしてはいないのだが、右手を拳銃の様な形にした上で、人差し指の先から、レキウユンは火球を放つ。
海兵隊員時代に、銃器による戦闘訓練を積んだ影響のせいで、銃器で狙い撃つ感じの方が、レキウユンはセフィルで敵を狙い易いのだ。
拳銃を連射する様に、レキウユンが次々と放つ火球を、惣左衛門は素早い動きで回避しつつ、レキウユンとの間合いを詰める。
流れ弾となった火球が、魔法駆動巨像同士の戦いによる破壊を免れていた、駐車場の自動車を直撃し、火達磨にして爆破、爆発音が大気を震わせる。
辺りには一般人はいないし、海濤原子力発電所に届く程の射程距離も無い。
流れ弾が引き起こした爆発は派手だが、駐車場と防風林の外には、被害を及ぼさない戦いだ。
最初は百メートル以上、間合いが開いている状態で、レキウユンの攻撃は始ったのだが、既に二十メートルを切っている。
レキウユンの火球攻撃の射線を、早くも惣左衛門は見切っているので、スムーズに間合いを詰められるのである。
隼打ちや隼突き……隼爪脚などの、敵との間合いを一瞬で詰めて、攻撃する技の間合いに、惣左衛門はレキウユンを捉えている(隼突きは、肘打ちではなく突きを放つ技)。
だが、足場が悪く、松の木の残骸だらけなので、隼打ちや隼突きなどの、超高速で地を駆けて間合いを詰める技は、使い難い状況。
故に、惣左衛門は隼爪脚を選択。
地を蹴って跳躍し、一跳びでレキウユンとの間合いを、低い軌道を描くジャンプで詰めると、獲物に襲い掛かる隼の爪の様な鋭い蹴り……隼爪脚を放つ。
レキウユンは惣左衛門を撃ち落すべく、宙に舞った惣左衛門を右手で狙うが、隼爪脚の異常な速さに、迎撃が間に合わない。
惣左衛門の右足先は、レキウユンの右胸を直撃する。
強烈な隼爪脚を食らい、レキウユンの身体は後方に十メートル程吹っ飛ばされるが、すぐに立ち上がり、ファイティングポーズを取る。
アーマーエフェクトにも、ある程度は打撃の威力を高める効果はあるのだが、レベルAの魔力を持つ魔法使いの纏魔の守りを、一撃で崩すのは、惣左衛門の隼爪脚でも無理である。
ファイティングポーズを取った、レキウユンの両手には、刃渡り二十センチ程の、ダガー風のナイフが握られていた。
魔法武器ではなく、レキウユンがボディーアーマーに鞘を装備し持ち歩いている、二本のナイフを鞘から抜いたのだ。
ナイフは強力な炎のセフィルを纏い、ファンタジー系の映像作品に出て来る感じの、炎を纏う剣の如き状態になっている。
攻撃部位であるナイフには、集中的に炎のセフィルが集められているので、纏魔状態の全身よりも、炎の光は数段強い。
レキウユンが吹き飛ばされて、ファイティングポーズを取るまでの間に、惣左衛門はレキウユンとの間合いを詰めていた。
故に、即座に激しい、近接戦闘が始る。
まずは体格とナイフのせいで、リーチに勝るレキウユンが、先手を取る。
海兵隊仕込みのナイフ技術で、惣左衛門を攻め立てる。
連続で放たれる鋭い刺突の合間に、様々な角度から斬る攻撃が仕込まれる、レキウユンのナイフ攻撃技術は高度であり、おまけに炎のセフィルの熱攻撃能力が上乗せされている。
大抵の人間であれば、あっという間に刺殺されて身体を刻まれ、炎のセフィルに焼かれてしまうだろう。
レキウユンの炎のナイフは、惣左衛門が身に纏うワンピースの、スカートの左裾辺りを掠め、切り裂き……焼いてしまう。
掠めるだけで、惣左衛門の飛行魔法のアーマーアビリティを破り、滅多な事では破損すらしないフォーマルスタイルの着衣を、切って焼く程の攻撃力が、レキウユンの炎のナイフにはあるのだ。
大きく跳び退いて距離を取った惣左衛門は、燃えたスカートの裾を、左手の手刀で自ら切り落とし、燃え広がるのを止める。