052 鳳凰だろうが所詮は鳥! 地上での近接戦闘で、鳥が女神に勝てる訳が無いだろう!
「ええい! 放せっ!」
鳳凰に持ち運ばれているのに気付いたレキウユンは、鋭い声を発しつつ、両腕を頭上に上げて、鳳凰に対する攻撃を開始。
コロッサス・オブ・リバティは自由の女神像と同様に、右手には松明を、左手には銘板を持っているのだが、どちらも本物ではなく、鋼のセフィル製の打撃用武器として利用出来る(銘板の方は、小型の盾にもなる)。
コロッサス・オブ・リバティは松明と銘板で、鳳凰を何度も殴り付けるが、鳳凰にダメージを与える事は出来ない。
青い羽根に覆われた鳳凰の身体は、金属感のあるコロッサス・オブ・リバティよりも、弱そうに見えるのだが、見た目とは違い、鳳凰の方が遙かに防御力が高いのである。
ただ、重たく巨大なコロッサス・オブ・リバティが、空中で両腕を振り回せば、その凄い反動のせいで、鳳凰も上手くは飛び続けられない。
空中でバランスを崩し、鳳凰はコロッサス・オブ・リバティを、落下させてしまう。
だが、コロッサス・オブ・リバティが落とされたのは、海濤海岸であった。
金属が軋む音を響かせ、浜辺を衝撃で揺らし、砂礫を舞い上げながら、コロッサス・オブ・リバティは浜辺に降り立った。
惣左衛門は海の沖の方まで運んでから、コロッサス・オブ・リバティを落としたかったのだが、その手前で落としてしまった。
だが、海濤海岸までコロッサス・オブ・リバティを運べたのなら、一応は目的を果たせたと言える。
海濤海岸であれば、鳳凰でコロッサス・オブ・リバティに攻撃を仕掛けても、海濤原子力発電所に危険を及ぼさない程度に、一応は距離が離れているので。
「原発から最低限の距離は取ったが、派手な攻撃は控えた方が良さそうだな」
鳳凰の操縦室で、惣左衛門は呟く。
魔法駆動巨像による攻撃も、属性を持つセフィルによる攻撃の対象を、一応は限定出来るのだが、その巨大さ故に、加減が難しい。
何せ、地上百数十メートル辺りで羽ばたくだけでも、駐車場の自動車を吹き飛ばしてしまう程度に、魔法駆動巨像が周囲に与えてしまう影響は大きい。
海濤海岸にコロッサス・オブ・リバティを移動させたとはいえ、鳳凰が強力な攻撃を使えば、海濤原子力発電所に被害を及ぼしかねないのだ。
鳳凰が得意とする攻撃は、口から放つ超高熱の火炎と、全身に超高熱の火炎を纏い、高速飛行した上での体当たりである。
だが、火炎による攻撃や、高速飛行による体当たりに類する超強力な攻撃を、今回は使用出来ない。
火炎……火のセフィルによる攻撃対象を絞っても、火炎で焼かれて破壊された、コロッサス・オブ・リバティの残骸が、遠くまで吹き飛んで、被害を出してしまう可能性が高い。
体当たりの方も、やはり破片を遠くまで吹き飛ばしてしまう危険性がある。
破壊したコロッサス・オブ・リバティの破片を、遠くまで飛ばさずに済む攻撃手段となると、嘴や足の爪による、地味な近接攻撃が主軸となる。
見た目と違った頑丈な、翼による打撃という攻撃手段もあるのだが、これは暴風を引き起こし、かなり広い範囲に、意図しない被害を引き起こしかねないので、惣左衛門としては、これも使用を控えたい場面だ。
先程、コロッサス・オブ・リバティを運ぶ際、羽ばたきだけで自動車を大量に吹き飛ばしてしまったのに、惣左衛門は気付いていた。
鳳凰の羽ばたきで、海濤海岸から海濤原子力発電所まで、何かを吹き飛ばしてしまい、被害を発生させる可能性は低いとはいえ、この辺りを飛び回りながら戦うのも、避けた方が良さそうだと、惣左衛門は判断。
「ここは……嘴と爪を主軸に、地上で格闘戦するしかないか」
空中戦向きの鳳凰は、地上戦には向かないのだが、出来ない訳でもない。
海濤原子力発電所に及ぼしかねない危険性を考慮し、惣左衛門は鳳凰で地上戦を行う決意を固める。
鳳凰は海濤原子力発電所がある方向を背にして、コロッサス・オブ・リバティの前の浜辺に、羽ばたきながら着陸する。
羽ばたきの強さは加減したのだが、それでも砂礫や防風林の木々の枝葉が、鳳凰の羽ばたきで吹き飛ばされてしまう。
「馬鹿め! いくら最強の魔法駆動巨像の鳳凰であっても、それは空中戦や広域戦の場合の話だ!」
惣左衛門が鳳凰で現れたので、冷や汗に額と頬を濡らしていたレキウユンは、鳳凰が浜辺に降り立ったのを目にして、安堵の表情を浮かべつつ、喜びの声を上げる。
ちなみに、魔法駆動巨像の操縦室で大声を上げると、その声は拡声器を使ったかの様な大声となり、外部にも伝わる(操縦者の意志次第で、伝わらない様にも出来る)。
「鳳凰だろうが所詮は鳥! 地上での近接戦闘で、鳥が女神に勝てる訳が無いだろう!」
レキウユンの言う通り、鳳凰は最強の魔法駆動巨像と言われているのだが、得意とするのは空中戦や、広い戦場を飛び回って戦う広域戦であり、地上における近接戦闘は得意ではない。
魔法駆動巨像の中では中型で軽量、人型の物に比べればリーチも短く、武器を持つ事も出来ないので、地上での近接戦闘には向かない魔法駆動巨像なのだ。
まともに戦えば、惣左衛門が操る鳳凰相手に、世界を照らす自由団のコロッサス・オブ・リバティには、勝ち目など無い。
だが、地上での近接戦闘であれば勝てると、自身の格闘戦能力に自信があるレキウユンは、考えたのである。