051 行け、我等が自由の女神! 進化と発展の敵である魔法少女は、既に倒した!
「レキウユン様、黒大蛇にとどめを!」
椅子に座っている若い男が、中央の椅子に座る男……レキウユンに、声をかける。
若い男だけでなく、椅子に座っている者達は皆、迷彩模様の歩兵風の戦闘服姿である。
世界を照らす自由団の魔法使い達は、迷彩模様の歩兵風の戦闘服を、戦闘時には身に纏うのだ。
この戦闘服は、魔力が解放された人間が着れば、強力な防御能力を持つ素材で出来ている為、軍用とそっくりの見た目だが、軍人が身に纏う戦闘服より、遙かに防御能力は高く、通常兵器では傷付ける事すら出来ない。
「放っておけ! 時間と魔力の無駄だ! 奴にはもう、何も出来やしない!」
レキウユンはコロッサス・オブ・リバティを立ち上がらせると、海濤原子力発電所の方に向け、言葉を続ける。
「邪魔にもならぬ者の相手をするより、目的を果たす方を優先すべきだ!」
コロッサス・オブ・リバティの鋼鉄の巨体が、再び歩いて侵攻を始める。
大地を揺らしながら、松林を踏み潰し、とうとう自動車が並ぶ駐車場に、足を踏みいれようとする。
駐車場からは、海濤原子力発電所の敷地内。コロッサス・オブ・リバティは、海濤原子力発電所から三百メートル程の距離まで近付き、既に行く手を阻むものは見当たらない。
「行け、我等が自由の女神! 進化と発展の敵である魔法少女は、既に倒した!」
既に作戦の成功を確信している、レキウユンの口調は威勢が良い。
「次は、醜悪なる科学文明の象徴、原子力発電所を叩き潰すのだ!」
レキウユンの意志通りに、コロッサス・オブ・リバティは足を進める。
駐車場の自動車を踏み潰し、アスファルトをひび割れさせながら、海濤原子力発電所に向かって突き進む。
創造魔法を解除し、榊は黒大蛇を消滅させる。
そして、何か策が無いかと頭を巡らせるのだが、既に榊には、コロッサス・オブ・リバティの侵攻を止める手立ては無い。
榊は絶望の色を宿した瞳で、コロッサス・オブ・リバティを、見上げる事しか出来ない。
だが、そんな榊の瞳が、突如……空から舞い降りた鳥の姿を視認して、希望の色に輝き始める。
その直後、コロッサス・オブ・リバティは、いきなり先に進めなくなる。
ちゃんと足を動かしているのに、コロッサス・オブ・リバティは先に進めないのだ。
先に進めない理由は、コロッサス・オブ・リバティの足が、地面に着いていないから。
コロッサス・オブ・リバティの巨体が宙に浮いてしまったせいで、歩こうとしても歩けないのである。
コロッサス・オブ・リバティに飛行能力は無いので、自ら空を飛んでいる訳ではない。
見た目程に重くは無いとはいえ、余裕で大型旅客機程の重量がある。
宙に舞い上がったのは、コロッサス・オブ・リバティだけではない。
突如、駐車場で暴風が吹き荒び始めたので、駐車場に並ぶ自動車は、風に吹き飛ばされる木の葉の様に、宙に舞い上がってしまっている。
「何だ? 何が起こった?」
驚き混乱しながら、レキウユンは頭上を見上げる。
暴風の音が聞こえて来るのは頭上、暴風はコロッサス・オブ・リバティの上から、吹いているのだ。
「こ、これは……まさか!」
レキウユンの目に映ったのは、少し前に榊が目にしたのと同じ鳥。
ただの鳥ではない、広げて羽ばたく翼の全幅が、六十メートルには達するだろう、青い巨鳥である。
ほんの少し前、空から舞い降りて来た巨鳥は、コロッサス・オブ・リバティの背後から迫り、人間でいえば僧帽筋に相当する、首筋の盛り上がってる辺りを、がっしりと足の爪で掴んだ。
そして、ゆっくりとコロッサス・オブ・リバティを、空中に持ち上げてしまったのだ。
無論、こんな巨大な鳥が、普通の鳥である訳がない。
一見すると、金属製風には見えず、大きさと色が普通ではない事を除けば、隼を思わせる外見をしているのだが、創造魔法により作り出された、魔法駆動巨像の一種である。
「鬼宮惣左衛門の鳳凰だ!」
レキウユンと同様に、頭上を見上げた、世界を照らす自由団の魔法使いが、驚きの声を上げた。
その魔法使いの言葉通り、コロッサス・オブ・リバティを爪で掴み、持ち上げている巨鳥は、惣左衛門の魔法駆動巨像、鳳凰なのだ。
一年程前、中国から伝わった古文書に記されていた、鳳凰を出現させる鳳凰顕現法という魔法の呪文が解析された。
レベルSの魔力所有者が、単独でしか使用出来ない魔法であり、尚且つ魔法少女側しか、呪文を保有していない為、惣左衛門専用の魔法となっている。
古文書には、中国の伝説に伝わる風な、様々な鳥の要素を併せ持つ、鳳凰を出現させる魔法だと記されていたのだが、惣左衛門が使用した結果、作り出されたのは、青い隼と表現するのが相応しい、巨鳥であった。
惣左衛門の受け継ぐ鬼伝無縛流に、隼の名を持つ技が多い事と、惣左衛門の魔法少女としてのイメージカラーが青である事が、作り出された鳳凰の姿に、影響を与えたらしいというのが、魔法の研究者達による推測である。
最強の魔法駆動巨像の一つと言われる、鳳凰の戦闘能力は絶大ではあるのだが、惣左衛門ですら魔力の消費量の凄まじさから、短時間しか出現させる事は出来ず、一度出現させれば、数時間は出現させる事は出来ない。
大抵の魔法駆動巨像であれば、惣左衛門の場合は魔法駆動巨像を使わずとも倒せてしまうので、鳳凰を使う事は少ない。
だが、今回……惣左衛門は、鳳凰を使った。
何故なら、少し前に、この辺りの上空に飛来した惣左衛門は、黒大蛇が破損させられた光景を、視認していたからだ。
榊の黒大蛇が太刀打ち出来ないコロッサス・オブ・リバティが、海濤原子力発電所に迫っていたので、短時間で確実に倒す必要があると考え、惣左衛門は鳳凰の使用を決断。
惣左衛門は飛行魔法を空中で解除すると、落下しながら、創造魔法の鳳凰顕現法を発動して、鳳凰を作り出した。
鳳凰も頭部内に、黒大蛇などと同じタイプの操縦室があり、乗り込む場合は操縦室の椅子に座り、惣左衛門は鳳凰を操る。
惣左衛門は鳳凰を操り、コロッサス・オブ・リバティに向かって急降下。
海濤原子力発電所の近くで、攻撃を仕掛けるのは、危険な状況を引き起こしかねないと、惣左衛門は考えた。
そこで、まずはコロッサス・オブ・リバティを、鳳凰の爪で捕まえた上で、海濤海岸辺りまで移動させる事にしたのだ。