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050 ――こんな馬鹿みたいな手があるなんて!

 コロッサス・オブ・リバティの進行方向である東側、一キロ程先には、灰色のブロックを積み重ねた感じの、素っ気無いデザインの建物がある。

 紅白に塗り分けられた煙突を持つ、その建物こそが、海濤原子力発電所である。


 海濤海岸と海濤原子力発電所の間には、防風林である松林と、駐車場が広がっている。

 原子力発電所は簡単に運転を止められないので、テロの危機が迫っている現在も稼働中、かなりの職員達が残っている為、駐車場には車も残されている。


 退避勧告を行い、避難する時間を与えた上で、攻撃した場合なら、職員を巻き込んだ所で、シュタイナー協定違反にはならない。

 コロッサス・オブ・リバティを操る魔法使い達は、海濤原子力発電所を攻撃する前には、退避勧告を行い、避難する時間を与えるつもりである。


 榊は海濤海岸で、コロッサス・オブ・リバティを足止めすべく、必死で黒大蛇を操るのだが、唯一の有効な手段といえる足元攻めも、繰り返し続ければ、相手も学習してしまう。

 コロッサス・オブ・リバティを操る魔法使いは、足元攻めを事実上無効化する策に、とうとう気付いてしまった。


 コロッサス・オブ・リバティは三度、海濤海岸で転倒させられたのだが、この三度目……コロッサス・オブ・リバティは立ち上がらなかった。

 倒れた状態のまま、頭を北に向けて、東側に向かって転がり始めたのである。


 転がり始めたコロッサス・オブ・リバティは、そもそも足を使って移動していない為、榊が黒大蛇で足元を攻撃しても、足止めは出来ない。

 海濤海岸から防風林に、転がりながら移動するコロッサス・オブ・リバティを目にした榊は、黒大蛇の頭部内で、驚きと口惜しさが入り混じった風な表情を浮かべ、声を上げる。


「――こんな馬鹿みたいな手があるなんて!」


 黒大蛇の頭部内には、榊が乗り込み操る為の操縦室があり、操縦室には椅子が一つ存在し、その周囲……全方向には、頭部から見える周囲の光景が、映し出されている。

 榊は椅子に座り、あたかも自分の身体が巨大な蛇になったかの様な感覚で、思った通りに黒大蛇を動かせるのだ。


 防風林の松の木を倒して潰しながら、回転して移動しつつ、海濤原子力発電所に向かって突き進む、コロッサス・オブ・リバティの姿が、榊の目に映る。


「まるで、巨大な延べ棒ね……」


 榊は黒大蛇を素早く移動させ、コロッサス・オブ・リバティの前に回り込ませる。

 そして、黒大蛇の体当たりにより、コロッサス・オブ・リバティの回転と侵攻を、止めようとする。


 激しい金属音が空気を震わせ、黒大蛇の巨体は衝撃に震えて軋む。

 だが、重量とパワーに差が有り過ぎて、体当たりは通じず、あっさりと回転に巻き込まれ、黒大蛇は踏み潰されてしまう。


 黒大蛇を乗り越えたせいで、多少はコースがずれたが、コロッサス・オブ・リバティは即座にコースを修正。

 海濤原子力発電所を目指して、木々を薙ぎ倒しながら転がり続ける。


 強烈な体当たりの後、コロッサス・オブ・リバティに踏み潰されたせいで、黒大蛇の蛇腹構造の一部が、壊滅的な破損を受けてしまった。

 結果、黒大蛇はまともに動けず、松林の残骸の上で、のたうち回る事しか出来なくなってしまう。


「駄目だ! もう、手がない!」


 榊は絶望的な表情で、悲痛な声を上げる。

 黒大蛇が動かなければ、榊にはコロッサス・オブ・リバティの侵攻を、止めようがないのだ。


 破壊された魔法駆動巨像を修復したり、魔法の再発動により、魔法駆動巨像を新たに作り直すのは、単独の魔法使いでは不可能に近い。

 榊には黒大蛇を修復するのも、作り直すのも無理なのである。


 しつこい攻撃を繰り返して来た黒大蛇が、追撃して来ないのを訝しげに思い、コロッサス・オブ・リバティを操っていた魔法使いは、コロッサス・オブ・リバティの回転を止める。

 そして、コロッサス・オブ・リバティの上体だけを起して、後方を向かせ、黒大蛇の様子を確認する。


 コロッサス・オブ・リバティの方も、頭部内に魔法使いが乗り込む操縦室があり、操縦室の周囲には、頭部から見える周囲の光景が、映し出されている。

 十五人分の椅子が存在する操縦室であり、一つだけ高くなっている、中央の椅子に座る魔法使いが、身長百メートルの巨人になったかの様な感覚で、思い通りにコロッサス・オブ・リバティを操れる様になっている。


「鬼宮の双子の弱い方の黒大蛇、どうやら動けなくなった様だな!」


 中央の椅子に座る、迷彩模様の戦闘服にボディーアーマー、ヘルメットにブーツという、歩兵風の服装に身を包んだ、三十前後に見える男が、喜びの声を上げる。

 ショートヘアーで鋭い目付きの、鍛え上げられた身体を持つ、背の高い白人の男だ。


 鬼宮の双子の弱い方とは、榊に対する、日本の魔法主義革命家団体の魔法使い達による、蔑称である。

 榊は記憶映像化能力など、幾つかの珍しい特殊な魔法を使えるし、日本の魔法少女の中では、トップクラスの魔法戦闘能力値なのだが、双子の柊には劣っている為、「鬼宮の双子の弱い方」呼ばわりされてしまうのだ。




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