005 我がセフィルよ、我が身を守る護謨球となれ!
クロウリーも、黙って惣左衛門の攻撃を、食らいはしない。
惣左衛門が現象魔法の発動を宣言し、雷という言葉を口にした直後、クロウリーは即座に、創造魔法に属する魔法の呪文を、超高速詠唱し姑めたのだ。
無論、惣左衛門の雷撃系の攻撃を防御する為に。
創造魔法とは、セフィルを原料として、セフィル製の物体を創造する……造り出してしまう魔法の事なのだ。
現象魔法よりも高度な技術を要し、呪文も桁違いに長く、魔力の消費量も高い。
呪文が異常に長い、創造魔法の呪紋を詠唱するには、数分の時間を要するのが普通である。
だが、超高速詠唱法を修得している上級魔法使い達や、クロウリーの様な教主クラスの大魔法使いは、数秒で創造魔法の詠唱を終える事が出来る。
しかも、単純な物体であれば、一秒もかけずに。
クロウリーは一秒もかからずに、創造魔法の超高速詠唱を終える。
直後、コンクリート片や木片が散らばっているクロウリーの足下に、円形の創造魔法陣が出現し、野球ボール程の大きさのセフィルの塊が、クロウリーの胸元に現れる。
使用する魔力の必須量が多ければ多い程、作り出されるセフィルの光球は大きくなり、光が強くなる。
「我がセフィルよ、我が身を守る護謨球となれ!」
母国語の日本語で叫びながら、クロウリーは素早い動きで、セフィルの塊を右手で掴むと、創造魔法陣に投げ付ける。
直後、創造魔法陣の中から、黒い粒子群が大量に噴出する。
黒い粒子群は、セフィルで作られた護謨……護謨のセフィルの粒子群。
護謨の粒子群はクロウリーを包み込みながら融合し、半径三メートル程の大きさの、巨大な護謨球……ゴムボールを、一瞬の内に作り出してしまう。
クロウリーは雷撃と打撃から身を守る為に、厚みが一メートル近くある、ゴムのセフィルで出来た巨大なボールを、創造魔法によって造り出して、バリヤーの様に自分の周りに展開したのだ。
もっと強力な防御用の物体を作り出す事も出来るのだが、そういった物体を作るには、クロウリーですら、ある程度の時間を要するので、今回の攻撃には間に合わない。
そこで、単純で即座に造り出せる護謨球を、クロウリーは造り出したのだ。
役目を終えた創造魔法陣は、砕け散って消滅する。
直後、惣左衛門の蹴り足が、護謨球を直撃する。
だが、護謨……ゴムは電気に対する絶縁効果がある上に、衝撃を吸収する能力が高い。
護謨球の表面はグニャリと凹み、跳び蹴りの強烈な衝撃を受け止めただけでなく、絶縁効果によって、雷のセフィルを完全に遮断してしまう。
雷撃隼爪脚は護謨球によって、完全に防御されたのだ。
雷撃隼爪脚を受け止めた護謨球は、惣左衛門の身体をトランポリンの様に跳ね返し、吹っ飛ばす。
惣左衛門はトランポリンの選手の様に、高く宙に舞う。
「カリース!」
惣左衛門は魔法の解除コマンド……カリースを宣言し、雷の魔法を解除する。
複数の魔法を同時に使う事は、魔法少女にも魔法使いにも不可能なので、雷の魔法を解除しなければ、他の魔法に切り替える事は出来ない。
魔法の解除は、魔法少女なら解除コマンドで、魔法使いなら解除呪文によって行うのが普通である。
しかし、魔法使いや魔法少女が魔法を解除しなくても、魔法が効力を失うと、魔法は自動的に解除されるので、そういった場合は、解除呪文や解除コマンドは必要無い。
先程、クロウリーが使った風の魔法も、舞い上がった粉塵を吹き飛ばした直後、自動的に解除された。
粉塵を吹き飛ばすという仕事を果たした事により、最初に投入されたセフィルを、全て使い果たしたからである。
エネルギー源であるセフィルを消費し尽くせば、魔法は自動的に解除されるのだ。
他にも、魔法が他の魔法に打ち消されたり、他の魔法と衝突して相殺したり、魔法で発生させた現象や、魔法で造り出した物体が、魔法使いから離れ過ぎた場合なども、魔法は効力を失い、自動的に解除される。
「ゲフェクト! 我がセフィルよ、炎となりて、我が身を包め!」
宙を舞う惣左衛門の足下に出現した現象魔法陣に、セフィロトの首輪の目から、セフィルの光線が放たれる。
直後、現象魔法陣の中から、炎のセフィルが噴き出し、惣左衛門の身体を包み込む。
炎のセフィルを使い、纏魔の状態となった惣左衛門の身体は、雷のセフィルによる纏魔の時と同様に、身に纏うセフィルによりダメージを受ける事は無い。
惣左衛門の声を聞いて、魔法を雷から炎に切り替えた事に気付き、クロウリーは舌打ちをする。
護謨球の素材であるゴムのセフィルは、雷のセフィルに対し、絶対的な防御能力を持つが、炎のセフィルによる熱攻撃に弱い。
惣左衛門の炎系の攻撃を防ぐ為には、耐熱性の高い障壁に、切り替えなくてはならない。