049 科学文明を敵視する魔法主義革命家団体が、発電所を襲うのは、珍しい事では無い
陽光に煌く紺碧の海を前にした、潮風が吹き寄せる薄灰色の浜辺に、耳を劈く様な、金属の衝突音が鳴り響いている。
寂れた浜辺には、余りにも似つかわしくない轟音だ。
その喧しい音を立てているのは、金属製の二体の巨像。
古びた銅像の様な色合いの、身の丈百メートルに達するだろう、自由の女神に良く似た巨像と、全長二十メートル程の、本物の蛇の様な柔軟な動きを見せる、蛇の巨像である。
自由の女神風の巨像は、本物の三倍程の大きさがあり、ロボットアニメに出て来る、巨大ロボットの様だ。
金属製の巨大な蛇の方も、いわゆる蛇腹構造を利用し、柔軟な動きを実現している、蛇型の巨大ロボットにしか見えない。
この自由の女神風の巨像も、巨大な金属製の蛇も、蓬莱仙幇の玄武と同じく、創造魔法で作り出される、魔法武器の一種……魔法駆動巨像である。
色こそ違うのだが、どちらも主な素材は、鋼のセフィルだ。
三十分程前、茨木県沖の海で、自由の女神に似た魔法駆動巨像が、付近を航行する漁船により発見された。
自由の女神に似た魔法駆動巨像は、コロッサス・オブ・リバティ(Colossus of liberty)の名で知られ、幾つかの魔法主義革命家団体によって、過去にテロ活動に使用された例がある。
日本において使用例があるのは、構成員数五百人程と推測される中規模魔法主義革命家団体、「世界を照らす自由団」のみ。
故に、世界を照らす自由団が、テロ活動を行う為、警戒の緩い海底を、コロッサス・オブ・リバティで移動しているのだと、規格外犯罪対策局は判断(地上や海上、空よりも、海底の警戒と監視は緩い)。
コロッサス・オブ・リバティの進行ルートから、世界を照らす自由団の狙いは、茨木県那華郡海濤村の海濤海岸付近にある、海濤原子力発電所だと推測された。
科学文明を敵視する魔法主義革命家団体が、発電所を襲うのは、珍しい事では無い。
魔法主義革命家団体は、自然環境の破壊を善しとしないのだが、化石燃料や核燃料の漏洩が引き起こす汚染を、完全に浄化してしまう魔法を、既に保有している。
それ故、自然環境を殆ど破壊せずに、発電所や関連施設だけを破壊出来てしまう為、原子力発電所の襲撃ですら、躊躇いはしないのだ。
コロッサス・オブ・リバティで、警戒と監視の目が緩い海中を移動し、海濤海岸から上陸、海濤原子力発電所を襲撃し破壊する……。
このテロ作戦は、海面から出てしまった、コロッサス・オブ・リバティの頭部を、付近を航行中だった漁船に発見される形で、露呈する事になった(大き過ぎたが為に、コロッサス・オブ・リバティは陸に近付くにつれて、海中に姿を隠し切れなくなり、海面から頭部が出てしまった)。
漁船の漁師から通報を受けた規格外犯罪対策局は、鬼宮榊を海濤海岸に急行させた。
海濤村と同じ茨木県にある、つくば市でのテロ事件を鎮圧した直後であった榊は、手が空いている魔法少女の中では、海濤海岸に最も近い位置にいたのだ。
コロッサス・オブ・リバティが、海濤海岸から一海里(1852メートル)程まで近付いた頃、榊は海濤海岸に到着。
榊はコロッサス・オブ・リバティの足止めをすべく、即座に魔法駆動巨像……黒大蛇を、創造魔法で作り出した。
榊は一人で魔法駆動巨像を作り出せる、数少ない魔法少女の一人なのだが、黒大蛇でコロッサス・オブ・リバティを倒すのは、不可能だと判断。
足止めに専念し、援軍を待つ事にしたのである。
魔法駆動巨像は大抵、武術に通じた魔法少女や魔法使いが、何処かに乗り込んで、思い通りに操る。
動かすだけであれば、乗り込まずとも外部から操れるのだが、魔法駆動巨像を操る際、魔法少女や魔法使い自身の防御が疎かになりがちなので、乗り込む場合が多い。
世界を照らす自由団のコロッサス・オブ・リバティと、榊操る黒大蛇は、海濤海岸沖の海で戦闘を開始。
コロッサス・オブ・リバティも黒大蛇も、飛び道具の類を持ってはいないので、戦い方は必然的に、その巨体とパワーを生かした接近戦となる。
榊は徹底して海中で、コロッサス・オブ・リバティの足元を攻め続け、その足止めに専念した。
だが、大きさとパワーの差は、如何ともし難く、数分前に榊と黒大蛇は、コロッサス・オブ・リバティの海濤海岸上陸を許してしまった。
結果、海濤海岸の浜辺において、巨大ロボット同士の戦いを思わせる、コロッサス・オブ・リバティと黒大蛇の戦いが、繰り広げられているのだ。
上陸を許した後も、榊と黒大蛇は徹底的に、コロッサス・オブ・リバティの足元を攻め続け、足止めに専念し続けている。
黒大蛇は足首に絡み付き、コロッサス・オブ・リバティを転倒させる事は出来た。
だが、地震の如き地響きを発生させながら転倒しても、コロッサス・オブ・リバティの巨体は、傷一つ負いはしない。
内部に乗り込んでいる魔法使い達も、ある程度の衝撃を身に受けるだけで、殆どダメージを負わない。
それ故、すぐさまコロッサス・オブ・リバティは立ち上がり、侵攻を再開してしまう。