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047 魔法教典、破壊終了……と!

 左手に握っていた偃月刀の柄を、常勝真人は両手で握る。

 左手で柄の下の方を、右手で柄の上の方を握り、身構えた常勝真人の目に、一瞬で体勢を立て直し、地を蹴って突進して来る、惣左衛門の姿が映る。


 地面と水平に寝かせた大刀で、正面を掃う様に、横一文字に斬る技……大刀平斬刀だいとうへいざんとうで、常勝真人は惣左衛門を迎撃しようとする。

 だが、偃月刀で正面を掃い始めた直後、常勝真人は胸の中央辺りに激痛を覚える。


 目にも留まらぬ速さで、一瞬の内に懐に飛び込んで来た惣左衛門の左肘が、偃月刀の柄を折った上で、常勝真人の鳩尾に突き刺さったのだ。

 一刀斎が風太郎相手に使った隼打ちと同じ技だが、速さのレベルが根本的に違い、魔法武器を扱える程度に、武術にも通じている常勝真人ですら、視認出来ぬ程。


 纏魔により放たれた超高速の肘打ちは、常勝真人が身に纏っていた風のセフィル……魔甲を、一撃で完全に消滅させる。

 一撃で殺してしまわない様に、惣左衛門は隼打ちの威力を、魔甲を破った上で、死なずに気絶する程度に、加減していたのである。


 意識を失った常勝真人は、その場に崩れ落ち、仰向けに倒れる。

 白目を剥いている常勝真人は、当分は目を覚まさないだろう。


「――最後、槍を投げたのは、悪くは無かったが、それでも魔法戦闘能力値が千以上ってのは、有り得ないな。せいぜい五百前後だろう」


 感想を漏らしながら、惣左衛門はしゃがみ込み、常勝真人の懐を調べる。

 魔法主義革命家団体の教主であれば、大抵は携帯している筈の物を、探し始めたのだ。


 程無く、完全密閉されている、懐のポケットの中から、一冊の黒い表紙の古びた本を、惣左衛門は見付け出す。

 中国の古文書風の綴じられ方をしている、「蓬莱玄経ほうらいげんきょう」と表紙に記された、新書程の大きさの本である。


 この蓬莱玄経こそが、常勝真人が保有する魔法教典だ(ちなみにピン音では、蓬莱玄経ホンライシェンチンとなる)。

 魔法教典がなければ、教化活動は出来ないし、他の団体の魔法使いに奪われてしまう危険性もある為、教主は大抵、魔法教典を携帯している。


 目当ての魔法教典を見付け出し、手に取った惣左衛門は、普段の癖で、すぐに手刀で真っ二つに切り裂こうとするが、寸前で思い留まる。

 玄武の上で蓬莱玄経を切断して破壊すると、その時点で蓬莱仙幇の魔法使い達は、全て魔法を使う力を失い、ただの人間に戻る。


 つまり、蓬莱仙幇の魔法使い達が、創造魔法で作り出している玄武も、魔法が解除されて消滅してしまうのだ。

 そうなれば、惣左衛門も水没してしまうし、蓬莱玄経の紙片などが海中に没して、失われてしまう可能性が高い。


 魔法少女が魔法教典を破壊した場合、その残骸は可能な限り完全な形で、回収しなければならない。

 規格外犯罪対策局の関連機関が、魔法の研究の為に使用するので。


 魔法教典を破壊した場合、水没する様なシチュエーションを、惣左衛門は経験した事が無かったので、つい普段通りに気楽に魔法教典を、切り裂こうとしてしまったのだ。


「タンカーの上でにするか……」


 惣左衛門は蓬莱玄経をワンピースのポケットに仕舞うと、常勝真人を軽々と抱え上げ、立ち上がる(魔法少女のフォーマルスタイルのポケットから、魔法少女の意志に反し、物が落ちる事は無い)。

 そして、ガス・ホライズンに向かって駆け出すと、惣左衛門は玄武の端で跳躍。


 宙に舞った惣左衛門は、まだ残されていた風のセフィルを、後ろ斜め下方向に噴射して推力を得て、ガス・ホライズンの舳先に向かって急上昇。

 惣左衛門は一跳びで、甲板の上に降り立つ。


 惣左衛門は海風を避けられそうな、ガスタンクとガスタンクの間に移動すると、常勝真人を甲板に下ろす。

 続けて、ポケットから取り出した蓬莱玄経を左手に持つと、惣左衛門は手刀にした右手で、あっさりと真っ二つに切り裂き、破壊し終えてしまう。


 真っ二つにした蓬莱玄経を、ポケットから取り出した、透明な袋に入れた上で、ポケットに仕舞いながら、惣左衛門は独白する。


「魔法教典、破壊終了……と!」


 魔法教典を破壊すれば、その魔法教典により魔力を開放されていた魔法使い達は、魔力の解放状態が終わり、魔法が使えなくなるだけでなく、魔法主義思想からも解放される。

 魔法が使えなくなるので、創造魔法で作り出された物も、消滅してしまう。


 ガス・ホライズンの前後で、眩いばかりの金色の光が発生。

 惣左衛門がガス・ホライズンの前方に目をやると、膨大な量の金色に光り輝く粒子群が、大気中にばらまかれ、溶ける様に消え始めていた。


 玄武を作り出していた魔法使い達が、魔法を使えなくなり、玄武が分解消失したのだ。

 その際、玄武を構成していた膨大な量のセフィルが、大気中にばらまかれたのである。


 当然、玄武を作り出していた、甲羅の中にいた数十人の魔法使い達……いや、元魔法使い達は、海に放り出されてしまった。

 まさに阿鼻叫喚といった感じの悲鳴が、ガス・ホライズンの前後から響いて来る。


 悲鳴がしたのは、ガス・ホライズンの前後だけではない。

 仲間を救助する為、ボートを作り出して海に出ていた元魔法使い達も、魔法を使えなくなりボートが消滅、海に放り出され、悲鳴を上げていたので。




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