045 鬼宮惣左衛門! 最強無敵の称号と共に、俺の魔法で砕け散れ!
「チャンシャンだのチンレンだの、何を言いたいのか良く分からんが、パンダの名前か何かか?」
惚けた風な口調で問いかける惣左衛門に、常勝真人は不愉快そうに、大声で言い返す。
「パンダの名前ではない! 貴様を倒す、魔法使いの名前だ!」
「何もパンダみたいな名前を、わざわざ付けなくても良いだろうに」
「パンダに常勝や真人なんて名前を付けるかよ! パンダは別に戦わないし、仙人とか偉い人につける名前なんだよ、真人ってのは!」
怒鳴ってから、自分が惣左衛門のペースに乗せられつつあるのに、常勝真人は気付く。
「貴様と話していると、調子が狂う! さっさと戦うぞ!」
「こっちも後が閊えてるんでね、その方が有難い」
そう言うと、舳先辺りの甲板で、惣左衛門は身構える。
左前の半身の構えで、右腕を常勝真人から見て死角となる、身体の後ろに回すと、風のセフィルを右腕に集める。
常勝真人は近くに浮いている、派手な装飾が施されてる槍の柄を、右手で掴む。
そして、オーケストラの指揮者が指揮棒を振るう様に動かし、その槍頭を惣左衛門に向けて、常勝真人は言い放つ。
「鬼宮惣左衛門! 最強無敵の称号と共に、俺の魔法で砕け散れ!」
百本は防御の為に手元に残したので、九百本の様々な長柄の武器が、一斉に尖端を惣左衛門に向け、襲い掛かり始める。
戦国時代を舞台とした映画の合戦のシーンで、膨大な数の矢が、一斉に放たれた時と似た光景だが、敵を狙って飛ぶのは矢ではなく、槍や戟……偃月刀などの、中国武術における長柄の武器だ(長器械という)。
先程、惣左衛門は逃げ回っていた、多数の武器による攻撃だが、逃げ回っていたのは、攻撃を見切る為。
既に自動追尾でないのは分かっているし、動きも見切り終えているので、惣左衛門は逃げ回る必要が無い。
食らったとしても、アーマーアビリティとは違い、纏魔なら数十発程度であれば、防ぎ切れるだろうが、わざわざ攻撃を受ける程、今の惣左衛門は暇では無い。
さっさと常勝真人を倒し、このテロを鎮圧したいので、惣左衛門は防御や回避ではなく、攻撃を選ぶ。
「吹き飛ばせ!」
巨大な壁の様に押し寄せて来る、膨大な数の武器に向けて、惣左衛門は風のセフィルを集めた右腕で、腕に捻りを加えた動きの、螺旋掌打を放つ。
同時に、右腕に集めた膨大な風のセフィルを、螺旋掌打の動きに合わせて放出する。
すると、惣左衛門から見て、右回りの回転運動を与えられながら、膨大な量の風のセフィルが、押し寄せる武器に向かって飛んで行く。
あたかも、横倒しになった竜巻の様に、唸りを上げ、渦巻きながら。
現象魔法で発生させたセフィルは、基本的には出現させた魔法使いの意志によって、操作する事が可能。
だが、意志や思考による操作と同様の動きを、纏魔状態の体術により、セフィルに与えれば、セフィルを放つ攻撃の威力が、飛躍的に高まるのだ。
こういった、意志と動きを同調させてセフィルを放ち、威力を高める攻撃方法を、心身同調放撃という。
心身同調放撃が存在する為、身体を動かさずとも、現象魔法で発生させたセフィルを、放つ事は出来るのだが、纏魔を使う魔法少女や魔法使いは、セフィルを放って攻撃する場合、身体を動かす場合が多い。
ちなみに、牡丹が先程、炎のセフィル放った際も、心身同調放撃は行われていた。
横に広がり、炎の壁となる様に、意志と右腕の動きを同調させた上で、炎のセフィルを放っていたのである。
襲い来る九百の武器と、渦巻く風のセフィルの暴風が、ガス・ホライズンと玄武の中間辺りで衝突。
大抵の魔法武器には、属性があるのだが、惣左衛門が推測した通り、千仗乱舞の魔法武器は風属性、風のセフィルの力で、空を飛ぶ魔法武器だった。
膨大な魔力を投じられた、風のセフィル同士が衝突する。
同族性のセフィルの攻撃同士が衝突した場合、攻撃に投じられたセフィルの多い方が、基本的には勝利する。
常勝真人は、短時間のチャージで放つという条件であれば、一撃の攻撃に使用出来る限界と言える量のセフィルを、全ての武器にチャージしていた。
その上で、九割の武器を、攻撃に回したのだ。
惣左衛門も、短時間のチャージで纏魔を行う場合、最大といえる量のセフィルを、風のセフィルに換えていた。
その上で、九割を攻撃として放っていた。
どちらも、より長い時間……魔力をチャージすれば、より強力な攻撃も放てるが、時間がかかってしまうので、近くに強力な敵がいる戦闘中に使うのは、現実的ではない。
両者共に、短時間にチャージできる魔力や風のセフィルの、九割を投じた攻撃であり、条件面では揃っていると言える状況。
この場合、事実上……両者の基本的な魔力量が、勝負を決めてしまう。
そして、その勝負は、呆気なく着いてしまった……惣左衛門の圧勝という形で。
九百もの武器は、惣左衛門の放った風のセフィルの暴風に巻き込まれ、海の彼方に吹き飛ばされてしまった。
単に吹き飛ばされるだけでなく、渦巻く暴風の力に、殆どの武器が圧し折られて砕け散り、吹き飛ばされながらセフィルの粒子群と化し、跡形も無く消え去ってしまったのだ。