044 魔法戦闘能力値が千以上って、本当かねぇ? 他所の国の数値は、当てにならない場合があるからなぁ
(あいつが、蓬莱仙幇の教主、常勝真人か)
ティナからの連絡を受けた規格外犯罪対策局は、ティナから齎された情報から、襲撃して来た魔法主義革命家団体を、蓬莱仙幇と判断。
ティナとの連絡は途切れた為、ティナ達には伝え損ねていたのだが、救援を命じた惣左衛門には、蓬莱仙幇に関する情報を伝えていた。
中国の新興団体である為、規格外犯罪対策局どころか、中国の同種の組織も、蓬莱仙幇に関する正確で詳細な情報を得てはいなかった。
それ故、惣左衛門が規格外犯罪対策局から得ていた情報も、かなり大雑把な情報だけである。
玄武を「亀」呼ばわりしていた牡丹達と違い、惣左衛門が「玄武」という、正確な名称を知っていたのも、規格外犯罪対策局から得た情報の中に、玄武についての情報が含まれていたから。
教主である常勝真人に関する情報も、同じ理由で惣左衛門は知っていた(常勝真人は姓名に分かれていない、一つの言葉としての名称なので、表記は全て常勝真人となる)。
中国側からの情報によれば、魔力はS級、魔法戦闘能力値は千以上。
最大で千もの長柄の魔法武器を作り出し、自在に操り敵を攻撃する、千仗乱舞という創造魔法の使い手であり、中国武術の技術も高いという(中国語の発音、ピン音では、千仗乱舞は(チンチャンラーウー)と発音)。
ちなみに、規格外犯罪対策局や惣左衛門は、中国語の正確な発音……ピン音を、まともに扱えない。
その為、「常勝真人」にしろ「千仗乱舞」にしろ、漢字表記を日本語風に発音している。
(魔法戦闘能力値が千以上って、本当かねぇ? 他所の国の数値は、当てにならない場合があるからなぁ)
基本的に、魔法主義革命家団体に対処する世界中の組織は、魔法戦闘能力値の算出基準を揃えているのだが、それでも人間の分析官や組織による差異は出てしまう。
そのせいか、海外の団体が出す魔法戦闘能力値は、規格外犯罪対策局のものと、大きなズレがある様な気が、惣左衛門にはしてしまうのだ。
他国の団体と共同で起されたテロに対処したり、他国の政府から救援の要請を受け、海外の魔法主義革命家団体と戦うのは、惣左衛門にとって珍しい事ではない。
そういった場合、他国の政府機関から、敵魔法使いに関するデータを受け取るのだが、魔法戦闘能力値に関しては、余り当てにならないというのが、惣左衛門の認識であった。
(ま、さっさとやるしかないか。今日は妙にテロが多いから、時間をかけてられないんだ)
小規模なものが多いが、今日は日本中で、魔法主義革命家団体によるテロ活動が、頻発していた。
かっては日本最大の魔法主義革命家団体であり、今でも日本最強の魔法使いという評価は揺るがないクロウリーが、蒼天の二つ星作戦の失敗により、完全に追い詰められた状況を目にして、多くの魔法主義革命家団体が奮起。
クロウリーと銀の星教団が追い込まれても、日本の魔法主義革命運動が潰えた訳ではないとアピールすべく、一斉に活動を活性化させたらしいというのが、規格外犯罪対策局の推測だ(蓬莱仙幇のテロが同じ日になったのは、単なる偶然)。
時間をかけて計画されたテロは少数であり、即席かつ安易なテロが殆どではあったのだが、魔法少女が総がかりでも、対処に困る程の状況なのだ。
惣左衛門は朝から日本中を飛び回り、今日だけで八件ものテロ活動を鎮圧していた。
それでも、規格外犯罪対策局のICには、最高戦力である惣左衛門への救援以来が殺到しているので、可能な限りテロの鎮圧には時間をかけないで欲しいと、規格外犯罪対策局から指示を受けていたのである。
「鬼宮惣左衛門! 隠れているのは分かっている!」
常勝真人はガス・ホライズンに向けて、大声で呼びかける。
他の者達の様に、鬼惣(グィゾン!)とは呼ばず、ややイントネーションが不自然ではあるが、流暢といえる日本語で。
「臆病者の謗りを受けたくないのなら、姿を現し、正々堂々と俺と戦え!」
(身を隠し損なったか? いや、敵が身を潜めたのだから、そのまま自分を狙いに来ると推測し、かまをかけているだけか?)
惣左衛門は自問するが、答を確かめようが無い。
(ま、どちらにしろ……完全に警戒されてる以上、奇襲は無理だな)
身を起して姿を露にした惣左衛門は、舳先に立つと、常勝真人に大声で言い放つ。
「日本語上手いじゃないか!」
「日本に留学していた事があるからな!」
海上で救助を続ける、仲間の魔法使い達を、左手の親指で指し示しつつ、常勝真人は続ける。
「あれだけの数の部下を、随分とあっさり倒してくれたものだ! さすがは世界最強の、魔法の使い手と言われるだけの事はある!」
惣左衛門を魔法少女ではなく、魔法の使い手と、常勝真人が表現をしたのは、魔法少女だけでなく、魔法主義革命家の魔法使いまで含めて、惣左衛門が最強だと言われているからだ。
「だが、貴様の最強無敵の伝説は、今……ここに終わりを告げる! この常勝にして真人である、この俺の手によって!」
常勝真人は魔法使いとしての真名であり、本名ではない。
常勝は日本語で読んだ場合の意味通りだが、真人の方には、道を究めて奥義を得た人という意味があり、伝説の仙人の名に使われたりもする言葉だ。
この二つの言葉を組み合わせた、常に勝ち続ける道を究めた者という意味合いの真名が、常勝真人なのである。
二つの言葉をピン音で発音した為、惣左衛門には意味が通じなかったのだが。