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042 Surrender! If you surrender, we will let you rescue!

「前の方の亀から、何か凄いの出て来たみたいっスけど、あれ惣左衛門さんに任せちゃって、大丈夫なんスか?」


 後部甲板の上で、牡丹に問いかけたティナに続き、楪も問いかける。


「幾ら惣左衛門さんでも、あの攻撃を食らったら、まずいのでは?」


「大丈夫さ」


 牡丹は即答すると、空を逃げ回る惣左衛門を追い駆ける、多数の武器の動きを一瞥した上で、言葉を続ける。


「――数は多いが、動きに切れがない。あれでは幾ら数を揃えようが、小僧にはかすりもせんよ」


 答を返し終えた牡丹は、船尾の手摺に右足をかけつつ、ガス・ホライズンの後方三十メートル辺りの海上に浮いている、玄武を見下ろす。

 甲羅の一部がドアの様に開き、三十人程の道袍姿の魔法使い達が、甲羅の上に姿を現しているのを、牡丹は視認。


 玄武を維持するのに必要な、最低限の魔法使いだけを残し、残りの魔法使い達は、海に墜落した仲間達を救助する為、甲羅の上に姿を現したのだ。

 魔法使い達は、玄武の甲羅の上で、大き目の筋斗雲を作り出し、海上へと乗り出そうとしていた。


 機動性や速度に問題が有り過ぎる程、大きな筋斗雲を作り出しているのを見れば、それが波間を漂う魔法使い達の救助の為だと、牡丹達にも分かる。

 そして、海上には多数の魔法使い達が、戦闘服の一部を膨らませ、その膨らんだ部分の浮力を利用して漂っていた。


 水上でのテロを得意とする、蓬莱仙幇の魔法使い達が着ている功夫服や道袍には、海などに放り出された際、自動的に膨らむ救命胴衣機能がある。

 故に、惣左衛門に倒された魔法使い達は皆、水没せずに海面を漂っているのだ。


「仲間の救助に出ようって連中に襲い掛かるのは、テロリスト共相手とは言え、多少は気が引けるねぇ」


 牡丹は困り顔で、言葉を続ける。


「――降伏勧告をしたい所だが、誰か中国語喋れるかい?」


 ティナと楪は、首を横に振る。


「英語なら通じるかもしれないね、英語で降伏勧告しとくれよ」


 牡丹に頼まれたティナは、気まずそうに言葉を返す。


「英語苦手なんスよ」


「その見た目で英語苦手とか、詐欺じゃないか!」


「見た目がこうでも、親の代から日本人っスから! ウチは兄弟姉妹全員、学校の英語の成績ボロボロっスから!」


「それ、堂々と言える事じゃないだろう!」


 仲間二人の会話を聞いていた楪は、呆れ顔で溜息を吐く。


「私が英語で、降伏を勧告します……受け入れるとは、思えませんが」


 そう言うと、楪は息を大きく吸い込んでから、玄武に向かって大声を上げる。


「Surrender! If you surrender, we will let you rescue!」


 楪は「降伏しろ! 降伏すれば、我々はお前達に救助を許す!」という意味合いの言葉を、玄武にいる蓬莱仙幇の魔法使い達に、発したのだった。

 英語での降伏勧告を、魔法使い達に行ったのである。


 蓬莱仙幇の魔法使い達は、降伏勧告を耳にして、牡丹達の存在に気付く。

 英語が得意な者は、多くはなかったのだが、「Surrender! 」の意味くらいは分かる者達が多かったので、降伏勧告であるのは、魔法使い達には伝わった。


 だが、降伏勧告であるのが伝わった上で、魔法使い達の中の一部が、筋斗雲を作るのを中断し、現象魔法を発動。

 炎や稲妻などの攻撃を、牡丹達に向けて放って来た。


 迫り来る魔法攻撃に対し、牡丹は右腕で前方を払いながら、右掌から炎のセフィルを放出する。

 大きな噴射音と共に、横に広がる様に放たれた、炎のセフィルの火勢は圧倒的であり、飛来して来た魔法使い達による魔法攻撃の全てを、一撃で飲み込んで打ち消してしまう。


「決裂だ! 行くよ!」


 降伏勧告が受け入れられなかったので、牡丹は船尾の手摺を踏み台として、玄武に向かって跳躍。

 後方斜め下に炎のセフィルを噴射し、跳躍力を飛躍的に伸ばすと、牡丹は余裕で三十メートル以上の距離を跳躍、玄武へと降下して行く。


 ティナと楪も、それぞれ光と水のセフィルを噴射し、牡丹の後を追って長距離ジャンプを行い、玄武へと乗り込む。


「甲羅の上にいる連中より、中にいる連中の方が厄介だ! 中にいる連中とやるまで、魔力は温存しとくんだよ!」


 牡丹は指示を出しながら、ティナと楪に指示を出す。

 甲羅の中にいるだろう、巨大な玄武を作り出している、上級魔法使い達の厄介さを、牡丹は見抜いているのだ。


「了解!」


 楪は言葉を返しながら、牡丹と共に魔法使い達に向かって突撃。


「了解っス!」


 ティナは二人とは違い、その場で二丁拳銃を構えながら、魔法使い達を狙う。

 そして、立て続けに銃声を響かせつつ、魔法使い達に対する狙撃を開始。


 ガス・ホライズンの後方を塞いでいた、巨大な玄武の甲羅の上で、三人の魔法少女と、数十人の魔法使い達の戦いは、こうして幕を開けたのだ。




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