041 あたし達は、後ろの化け亀を沈めるよ! 支度しな!
「――私達も出ますか?」
既に四つの筋斗雲を撃墜し、五つ目の筋斗雲に襲い掛かっていた惣左衛門を見上げながら、楪は牡丹に問いかける。
「止めとこう、邪魔になるだけさ」
ガス・ホライズンの後ろにいる玄武を指差しながら、牡丹は続ける。
「あたし達は、後ろの化け亀を沈めるよ! 支度しな!」
楪とティナが頷いたのを視認すると、牡丹は現象魔法を発動し、炎のセフィルで纏魔を行う(魔法少女によっては、炎ではなく火のセフィルというのだが、同様の存在)。
膨大な液化天然ガスを運ぶLNGタンカーの上で、身体を炎に包む牡丹の行為は、正気の沙汰とは思えない様にも見える。
だが、牡丹はガス・ホライズンを攻撃対象としていないので、引火による火災や爆発などの心配は無いのだ。
無論、味方の魔法少女達や、ガス・ホライズンの乗員達も、攻撃対象から外してあるので、焼いてしまったりはしない。
牡丹とは違い、楪とティナは、纏魔は行わない。
どちらも魔法武器を作り出し、強力な攻撃手段としつつ、魔法武器の属性のセフィルを身に纏い、防御能力を強化して戦うのが、基本的な戦闘スタイルだ。
ちなみに、属性のセフィルを身に纏い、防御能力を強化する事を、魔法装甲……もしくは魔甲と呼ぶ。
纏魔程の防御能力が無く、アーマーアビリティと違って属性が存在するので、それらと呼び分けているのである。
魔甲は中国で最初に確認され、定義された。
それ故、中国語の名称が世界に広まったのだが、シンプルな魔甲の方が、魔法装甲よりも広く普及している。
楪は創造魔法により、紺色の鞘に収められた日本刀の魔法武器を作り出す。
魔法武器の名は村雨、水属性の魔法武器なので、楪は水のセフィルを身に纏い、全身が濡れた感じの見た目となる。
「――水も滴る、良い女……ってね」
村雨を作り出す度に、この決まり文句を、柊は口にする。
決まり文句を口にしつつ、村雨を収めた鞘を、楪はスカートのベルトに佩くのだ。
ティナも創造魔法により、愛用する魔法武器である、二丁の拳銃を作り出す。
創造魔方陣から出現した、二丁の拳銃を両手に握り、ティナがベルトの左右に触れさせると、二つのホルスターが出現し、二丁の拳銃を収めて、ベルトにぶら下がる。
右の拳銃がピースメーカー、左の拳銃がドラグーン、どちらも見た目は回転式の拳銃だが、通常の弾丸を撃つのではない。
ピースメーカーとドラグーンは光属性の魔法武器なので、破壊光線を放つビーム銃であり、どちらもティナの魔力が切れぬ限り、撃ち続ける事が可能。
魔法武器は創造魔法で作り出す際、創造魔方陣に投じたセフィルを使い切ると、基本的には消滅してしまうのだが、消滅する前にセフィルを補充し、使い続けられる魔法武器も存在する。
ティナの二丁拳銃は、その補充が可能なタイプなのだ。
ピースメーカーの方は、程々の威力の破壊光線を、サブマシンガンの様に連射出来る、連射性能に優れた魔法銃。
ドラグーンの方は、連射は出来ないが威力に優れた魔法銃である。
光属性の魔法武器なので、装備したティナの身体は、光のセフィルを纏い、日中でも仄かに、身体が光っている様に見える。
ティナは二丁拳銃をホルスターから抜いて、トリガーガードに通した指で、器用に拳銃をクルクルと回転させる、ガンスピンというガンプレイ……魅せ技を披露。
続いて、銃身を交差させて十字架を作ると、ティナも決まり文句を口にする。
「アーメン! 魔法使い共、祈って……棺桶を用意するっスよ!」
ティナが決まり文句を口にした直後、ガス・ホライズンの前方で、異変が起こる。
突如、前方の玄武の辺りから、膨大な数の槍や大刀……戟などの長柄の武器が、空に向かって急上昇を始めたのだ。
多数の武器は対空ミサイルの様に、空を舞う惣左衛門に向かって襲い掛かる。
明らかに普通の武器ではなく、魔法武器の類である。
アーマーアビリティがある飛行魔法を使っているとはいえ、魔法武器の直撃を受ければ、さすがに耐え切れるものではない。
多数の武器が一つでも直撃すれば、惣左衛門といえど、深刻なダメージを身体に負ってしまいかねない。
「――それじゃ、行くとしようかね!」
多数の魔法武器に襲われている、惣左衛門の姿を目にしても、牡丹は気にもとめず、後部甲板に跳び下りる。
身に纏う炎のセフィルを、ロケット噴射の様に下向けに噴射し、落下速度を落としながら。
纏魔や魔甲の使用時は、身に纏うセフィルを噴射する事により、飛べはしないものの、数十メートルのジャンプを行ったり、普通なら墜落死する様な高所から、安全に跳び下りたりも出来るのだ。
魔甲を使用している楪は水のセフィルを、ティナは光のセフィルを、それぞれ下向きに噴射し、牡丹に続いて後部甲板に跳び下りる。