039 ――ようやく来たか、小僧!
「――ようやく来たか、小僧!」
牡丹の言う「小僧」とは、救援として送られた魔法少女の事だ。
飛行魔法を使い、超音速で飛べる唯一の人間……魔法少女こそが、牡丹達が待ち望んでいた救援なのである。
魔法少女側だけでなく、玄武に乗っている蓬莱仙幇側の、索敵魔法を使っていた魔法使いにも、高速で飛来する何者かの存在は、探知されていた。
蓬莱仙幇側の魔法使いが拡声器を使い、西の空から飛来する敵に対する迎撃命令を、中国語で発する。
滞空しつつ、一刻不落を攻撃していた、九百を超える数の魔法使い達が、ざわめきながら一斉に、西の空を向く。
魔法使い達の目に、猛スピードで迫り来る、青い閃光の如き青装束の魔法少女の姿が映る。
「鬼惣(グィゾン!)!」
多数の魔法使い達の口から、同じ言葉が発せられる。
その言葉は、中国の魔法主義革命家達にも、世界最強の魔法少女として恐れられている、日本の魔法少女……鬼宮惣左衛門の略称だ。
援軍の魔法少女は、惣左衛門だったのである。
愛智県名古屋市での、小規模魔法主義革命家団体のテロ活動を鎮圧直後、規格外犯罪対策局のICから連絡を受けた惣左衛門は、浦賀水道を目指して超音速で、東に向かって飛び始めた。
超音速飛行を続けた惣左衛門は、ガス・ホライズンと二匹の玄武を視認し、減速を開始。
ガス・ホライズンを守る一刻不落への空襲を続ける、九百を越える魔法使いの大群に向かって、突撃して来たのだ。
急接近して来る惣左衛門に向け、魔法使い達が次々と、稲妻や炎……暴風などを放ち、迎撃を開始。
まさに雨霰といった感じの魔法攻撃が、惣左衛門に襲い掛かる。
だが、押し寄せる膨大な魔法攻撃を、惣左衛門はアクロバティックな飛行で、片っ端から平然とかわしてしまう。
敵艦隊の対空砲火の雨を物ともせず、平然とかわして敵艦の懐に入る、凄腕のパイロットが操る戦闘機の様に、惣左衛門は一発の攻撃魔法も食らわずに、魔法使いの大群の中に飛び込むのに成功。
惣左衛門は次々と魔法使い達に襲い掛かると、四肢を使った打撃技だけで、次々と倒してしまう。
筋斗雲に乗る魔法使い達を、回し蹴りによる一撃で薙ぎ払ったかと思うと、直後に襲い掛かって来た、功夫服姿の魔法使いによる、剣による斬撃をかわし、カウンターの掌打を叩き込んで仕留める。
続いて、剣に乗って突撃して来る、功夫服姿の魔法使いに向かって突進すると、剣をかわして擦れ違い様に、肘打ちを鳩尾に叩き込んで気絶させる。
そのまま、進行方向を飛んでいた筋斗雲に襲い掛かり、乗っている魔法使い達を、目にも留まらぬ早業の連続突きで、これまた気絶状態に追い込んでしまう……。
この様に、惣左衛門は次々と、魔法使い達を打撃技だけで、撃墜し続ける。
筋斗雲に乗っている魔法使いの中には、創造魔法による防御障壁を展開する者達もいるのだが、惣左衛門の打撃技に、あっさりと防御障壁を破壊された挙句、直接打撃を食らって撃墜される。
飛行魔法を使用中の惣左衛門は、創造魔法を使っている事になる。
つまり、現象魔法を利用する纏魔を、惣左衛門は使う事が出来ない。
そんな惣左衛門が、何故……魔法使いが作り出した防御障壁を、打撃技で打ち破れるのか?
その理由は、惣左衛門の飛行魔法は、アーマーアビリティを持つタイプだからだ。
飛行中に鳥と衝突して、飛行機が危険に曝されるバードストライクの様に、高速飛行中に何かと衝突するのは、魔法少女や魔法使いにとって、とても危険な事だ。
それ故、何等かの物体と衝突しても、深刻なダメージを受けたり、墜落したりしない様に、魔法少女や魔法使いは飛行時、纏魔程では無いのだが、セフィルの鎧でも着ているかの様に、防御能力が強化される。
この飛行時に防御能力が強化される能力こそが、アーマーアビリティである。
アメリカの魔法少女で初めて発見された為、アーマーアビリティという英語名が定着している(天遁剣法の「セフィルによる身体の防御」とは、このアーマーアビリティの事)。
飛行速度が速い飛行魔法の使い手程、強力なアーマーアビリティがなければ、危険過ぎて高速飛行が出来ない。
それ故なのだろうか、飛行魔法の最高飛行速度と、アーマーアビリティの防御能力の高さは、正比例の関係にある。
つまり、最高速の飛行能力を持つ惣左衛門の飛行魔法は、最高の防御能力を誇るアーマーアビリティを持っている訳だ。
だからこそ、蒼天の二つ星作戦を阻止した時、高速飛行したまま国会議事堂に衝突しても、惣左衛門は無傷だったのである(ちなみに、一定以上の速度で飛び始めると、アーマーアビリティは発動し、その後は発動したままになる)。
本来は飛行時の魔法少女や魔法使いの身体を、防御能力を引き上げて守る為のアーマーアビリティを、惣左衛門は空中戦の攻撃にも利用する。
アーマーアビリティ発動状態になった惣左衛門は、セフィルの鎧を身に纏ったかの様に、強度が引き上げられた身体の部位を使い、敵を打撃技で仕留めてしまうのだ。