038 あたしゃ機械が苦手なんだ! こんな訳の分からないボタンだらけの機械なんて、使える訳が無いだろう!
カウガールファッションの魔法少女が手にしている、携帯電話風の無線機を睨みながら、女学生風の服装の魔法少女は、言葉を吐き捨てる。
「ほんと肝心な時に、当てにならない機械だねぇ。だから使いたくないんだよ!」
「殆ど使ってないじゃないですか、他の人に使わせてばかりで」
呆れ顔で言い放ったのは、セーラー服姿の魔法少女。
「あたしゃ機械が苦手なんだ! こんな訳の分からないボタンだらけの機械なんて、使える訳が無いだろう!」
女学生風の服装の魔法少女は、不愉快そうに言葉を続ける。
「最近はテレビのリモコンだって、ボタン多過ぎて訳が分からないんだから!」
「牡丹って名前なのに、ボタン苦手なんスね、牡丹婆さ……姉さん」
カウガール風の魔法少女は、慌てて言い直す。
「――聞こえてるよ、ティナ! 婆さん呼ばわりは止めとくれ!」
女学生風の服装の魔法少女……鬼宮牡丹は、カウガール風の魔法少女である麿新ティナを睨みながら、そう言い放つ。
「索敵魔法で探してみるっス」
気まずさを誤魔化すかの様に、ティナは無線機をベストの内ポケットに仕舞いながら、言葉を続ける。
「まぁ、索敵といっても、今回は敵を探す訳じゃないっスけど」
そして、能力魔法の発動コマンドを、ティナは宣言。
「ノウビリティ! 我がセフィルよ、索敵能力を得る為の、力となるっス!」
惣左衛門とは微妙に異なる言葉で、索敵能力……つまり索敵魔法を指定しながら、ティナはマジックオーナメントである、左手首にはめているブレスレットに、セフィルをチャージする。
星の紋章が掘られたシルバーのブレスレットで、名はシルバースターという。
ティナの足元に、十字の形をした、金色の能力魔法陣が現れる。
セフィルがチャージされ、金色の光を放ち始めたシルバースターの星の紋章から、セフィルの光線が能力魔法陣に向けて放たれる。
能力魔法陣は金色に輝きながら縮小し、ティナの胸元に小さな十字となって吸着し、輝きだす。
これで、ティナは索敵能力を得たのだ。
「索敵準備!」
ティナが宣言すると、惣左衛門の時と同様に、周囲の状況が3DCGの様な立体映像となり、ティナの前に出現する。
中央部分……海の真ん中に、ティナがいるガス・ホライズンが、小さな模型の様に再現され、その前後には玄武が再現されている。
「索敵範囲は最大範囲! 索敵対象は、飛行魔法使用中の人間全てっス!」
探そうとしているのは敵ではないのだが、索敵魔法という事になっているので、ティナは索敵という言葉を使用する。
索敵範囲を最大にしたので、立体映像のガス・ホライズンと玄武は、豆粒の様に小さくなり、代わりに立体映像として再現される範囲が、十倍程に拡大する。
ティナの索敵魔法の最大索敵範囲は、半径二キロなので、立体映像となるのは、その範囲のみ。
惣左衛門に比べると、かなり索敵能力は劣る。
牡丹やセーラー服姿の魔法少女の索敵能力は、そんなティナよりも低い。
それ故、遠距離から高速で飛来する魔法少女を、索敵魔法で捉える役目は、ティナが担当する。
「この辺りにいるのは、敵の魔法使いばかりで、西から飛んで来るのは、いないっスね」
立体映像を見ながらの、残念そうなティナの呟きを聞いた牡丹は、セーラー服姿の魔法少女に問いかける。
「それで、楪……手筈は整ったのかい?」
セーラー服姿の魔法少女、釈迦郡楪は、後部甲板の方を指差しつつ、牡丹の問いに答える。
「既に乗員二十二名全員、耐火救命艇に乗艇済みです。一刻不落の展開時間が切れ次第、何時でも運び出せます」
楪が指差す、狭い後部甲板には、球形のガスタンクは無いのだが、赤いカプセルの様な耐火救命艇が装備されている。
ブリッジの屋根の上を離れている間、この耐火救命艇の中に、楪はガス・ホライズンの全乗員を集めた上で、耐火救命艇を海に自由降下させる装置から外しておいたのだ。
一刻不落の展開時間が尽きるまで、救援の魔法少女が現れなかった場合、牡丹達はガス・ホライズンを放棄した上で、全乗員を乗せた耐火救命艇を飛行魔法で運びつつ、蓬莱仙幇から逃げるつもりだったのである。
牡丹と楪が耐火救命艇を飛行魔法で運び、遠距離攻撃に優れるティナは、耐火救命艇の上に乗り、蓬莱仙幇の魔法使い達が追撃して来た場合、迎撃を担当するという算段だった。
「――だったら、あたし達も後部甲板に下りようかねぇ。そろそろ一刻不落が消える頃合だ」
「どうやら、その必要はなさそうっス」
牡丹の言葉に異を唱えたティナは、立体映像の左端……つまり西の空の辺りを、注視していた。
立体映像には、西から猛スピードで飛来する光点が、映し出されている。
立体映像内での、光点の移動ペースが落ちているので、西から飛来した者が、減速し始めているのが、ティナには分かる。
西から飛来した者が、減速した上でも、音速に近い速度を出しているのが、立体映像内での移動ペースから、ティナには推測出来る(音速は秒速三百四十メートル程)。
減速した状態でも、音速に近いという事は、西から飛来した者は、ティナの索敵範囲に入る直前まで、超音速で飛んでいた可能性が高い。
飛行魔法で超音速を出せるのは、世界に一人しかいないので、それが誰なのかは、ティナにとっては明らかだった。
ティナの言葉と立体映像から、誰が飛んで来ているのかは、牡丹と楪にも分かる。
三人の魔法少女達は、待ち侘びた救援の到着を知り、安堵の表情を浮かべる。