036 複数の国の魔法主義革命家団体が、共同作戦を展開するのも、かなり珍しいケースといえる
中国向けの化石燃料を運んでいるガス・ホライズンを、魔法主義革命家団体が襲撃する情報を掴みながら、規格外犯罪対策局の情報部が、蓬莱仙幇による襲撃を予測出来なかったのには、理由がある。
実は、本拠地を置かない国の、領土領海領空におけるテロ活動は控えるのが、魔法主義革命家団体にとっての、暗黙のルールとなっているのだ。
余程の事が無い限り、魔法主義革命家団体同士は争わないので、他所の国の団体にとっての縄張りを荒らす様な真似は、控えるのが常識なのである(争う程の問題が起これば、相手が滅ぶまで戦いを止めないが)。
それ故、中国に本拠地を置く蓬莱仙幇が、日本の領海内でテロ活動を行う事態を、規格外犯罪対策局の情報部は、想定し損ねてしまった。
蓬莱仙幇が常識に外れた、今回の様なテロを行ったのは、繰り返される蓬莱仙幇のテロ対策に、中国の魔法少女管轄当局が本腰を入れ、領海内警備を徹底強化したせいだった。
中国領海内でのテロは困難なので、当面……中国領海内でのタンカー襲撃は控えるべきだと、常勝真人は判断した。
そんな常勝真人は、日本向けと中国向けの液化天然ガスを運ぶ、ガス・ホライズンに目を付けた。
日本向けと中国向けの液化天然ガスを運ぶガス・ホライズン相手であれば、日本の魔法主義革命家団体と共同で行動を起こすのなら、暗黙のルールを破らずに済む事に、常勝真人は気付いたのだ。
活動の場とする国が異なる、複数の魔法主義革命家団体が、共同作戦を展開する場合、そのどちらかの国の領土領海領空であるのなら、他国の団体の縄張り荒しを控える暗黙のルールに、引っかからない事になる。
故に、日本の魔法主義革命家団体と共同作戦を取れば、蓬莱仙幇は日本の領海で、暗黙のルールを破らずに、ガス・ホライズンを襲える事になるのだった。
複数の国の魔法主義革命家団体が、共同作戦を展開するのも、かなり珍しいケースといえる。
それ故、規格外犯罪対策局の情報部は、日本側の魔法主義革命家団体による、単独のテロ作戦だと、想定してしまったのである。
ちなみに、蓬莱仙幇の手引きのみを担当し、実際の襲撃には参加しなかった、日本側の魔法主義革命家団体は、荒法師。
構成員数が五十人前後と推測される、小規模の団体だ。
情報部の判断から、荒法師による襲撃を想定していた規格外犯罪対策局は、危険物である液化天然ガスの存在を考慮し、荒法師を相手にするだけなら、過剰といえるだけの魔法少女戦力を、ガス・ホライズンに配した。
防御能力に関しては、日本の魔法少女の中では最高の力を持つ魔法少女に、ガス・ホライズンを完全に守らせた上で、比較的強力な攻撃能力を持つ二人の魔法少女を、攻撃担当とする狙いで、合わせて三人の魔法少女を、ガス・ホライズンに乗船させたのである。
ところが、実際に襲撃して来たのは、小規模団体の荒法師ではなく、中国の中規模団体である蓬莱仙幇の、全戦力に近い数の魔法使い達。
巨大な玄武を二匹も作り出す、総数千名程の大部隊によるテロに対処するには、ガス・ホライズンに配された三人だけでは、戦力が足りないにも程があった。
ガス・ホライズンの動きを止めた蓬莱仙幇は、集団で玄武を作り出し動かしている、数十人の魔法使い達を除き、残りの九百人以上の魔法使い達を、玄武の甲羅の外に出した。
玄武の外に出た、黒い功夫服や道袍を着た、蓬莱仙幇の魔法使い達は、飛行能力を得られる能力魔法を発動、空母から飛び立つ戦闘機の様に、一斉に玄武の甲羅から飛び立った(ちなみに道袍とは、上着を二重に着て、袴を穿いた、仙人や道士の服の事)。
ちなみに、飛行能力を得る能力魔法……飛行魔法といっても、様々な種類がある。
惣左衛門が使用する様な、そのままの姿で空を飛ぶ、普通の飛行魔法が多いのだが、空を飛ぶ何かを出現させ、それを利用して飛ぶ飛行魔法もあるのだ。
中国系の魔法使いや魔法少女達は、空を飛ぶ何かを出現させ、それを利用して飛ぶ、飛行魔法を使う者達が多い。
主に二種類の飛行魔法が使用されるのだが、纏魔を使える程度に、武術の技量が有る者達は、空を飛ぶ剣に乗る天遁剣法を、そうでない者達は、空を飛ぶ雲……筋斗雲に乗る、筋斗雲法という飛行魔法を使う場合が多い。
天遁剣法は、剣に乗り空を飛ぶだけでなく、乗った剣で体当たりをして攻撃したり、剣を手にして攻撃したりと、空を飛びながら剣で攻撃出来る利点もある。
しかも、天遁剣法は使用時、纏魔程ではないが、魔法武器を使用する時の様に、セフィルによる身体の防御も行われる為、空中戦に向く飛行魔法なのである。
筋斗雲法の方は、大きさを有る程度操作出来る筋斗雲に、多数の人を乗せたり、物を載せたり出来る利点がある。
天遁剣法にも筋斗雲法にも、普通の飛行魔法には無い利点があるのだが、どちらも機動性においては、普通の飛行魔法に劣るという欠点もある。
蓬莱仙幇の魔法使い達は空を飛び、ガス・ホライズンに乗り込もうとしたのだが、魔法少女が展開した、巨大な硝子球の如き防御結界に遮られた。
故に、まずは防御結界を破るべく、蓬莱仙幇の魔法使い達は、防御結界に向けて攻撃を開始。
天遁剣法で空に舞っていた、功夫服を身に纏う蓬莱仙幇の魔法使い達は、ガス・ホライズンを包み込む防御結界に対し、空中で剣を使い攻撃を行う。
体当たりする者達もいれば、剣を手にして斬りかかる者達もいる。
筋斗雲法で飛ぶ、道袍姿の魔法使い達は、一人が筋斗雲を大きくした上で、筋斗雲法を解除した数人の魔法使い達を、筋斗雲に乗せた。
一人が筋斗雲を操作し、残りの四人が現象魔法による、炎や雷、水や風など、様々な属性の魔法攻撃を行う形で、防御結界への攻撃を行う。
二匹の玄武から飛び立った、空を飛ぶ魔法使い達に、ガス・ホライズンが空中から攻撃を受けている光景は、まるで二隻の航空母艦から飛び立った、戦闘機による空襲を受けているかの様だ。
戦争を思わせる程の、かなり凄まじい攻撃が、既に十分間に渡って続いているのだが、蓬莱仙幇側は防御結界を破れずにいる。