003 炎は……消える前に一瞬だけ、激しく燃え盛るって言うよなぁ、クロウリー! 銀の星教団も、炎と同じなのかい?
「我がセフィルよ、風となり我に従え!」
クロウリーは胸元の光球を右手で摘むと、現象魔法陣に叩き付ける。
すると、現象魔法陣の中から強い風が噴出し、クロウリーの周囲が台風の暴風域に入ったかの様に、空気の流れが荒れ狂う状態になる。
現象魔法陣によって、セフィルに風の属性が与えられ、強烈な魔法の風……風のセフィルが発生したのだ。
風のセフィルを発生させ終わると、役目を終えた現象魔法陣は、砕け散って消滅する。
風のセフィルは、出現させた魔法使いの意志によって、操作する事が出来る。
クロウリーは風のセフィルを操作して、粉塵を天井の穴から、空に向かって吹き飛ばす。
粉塵を吹き飛ばした魔法の風と共に、大量の空気が流出した為、一時的に衆議院本会議場内の気圧が下がる。
気圧が下がった結果、会議場内のドアが内側に開き、外の空気が流れ込んで来たので、気圧はすぐに元通りに戻る。
元に戻ったのは、気圧だけでは無い。
煙の様な粉塵が消え去ったので、衆議院本会議場にいる人々の視界も、元に戻った。
「やはり、貴様か!」
クロウリーは忌々しそうに、言葉を吐き捨てる。
嫌な予感は、当たっていたのだ。
クロウリーの視界には、崩れ落ちた天井の瓦礫が散らばったままの、衆議院本会議場の中央に立っている、一人の少女の姿が映っていた。
少女は全身を、青系の色でコーディネートしている。
丈の短いブルーのワンピースを着て、濃紺のオーバーニーソックスを履いているだけでなく、ポニーテールに整えられた、髪の色まで紺色なのだ。
目に似た紋様が中央辺りにある革製の首輪と、髪をまとめる大きめのリボンだけが黒色であり、アクセントとなっていた。
外見上の年齢は十代中頃、顔立ちは整い過ぎている程なのだが、目つきが鋭く愛想が無い。
身長は百六十センチ程度で、引き締まった身体を持つ、やや尖った感じの雰囲気を漂わせている少女である。
「悪いな! ちょっとスピード出し過ぎたせいで、減速に失敗して、天井ぶち抜いちまったよ」
気まずそうな表情で、少女は頭を掻く。
「怪我人がいるなら、魔法で治療するが……怪我した奴とかいるか?」
周囲を見回しながら、少女は問いかける。
「全員、無事です……一応」
天井の崩落後、周囲を見回して議員達や閣僚達の無事を確認していた、四十路であろう体格の良い衆議院議員の男が、少女に答を返した。
落下して来た破片群は、かなり細かく破砕されていたので、派手に天井が吹っ飛んだ割りには、深刻な怪我を負った者はいなかったのだ。
「そいつは良かった。助けに来たってのに犠牲者出してたら、洒落にならないからな」
安堵した様に呟いてから、少女は目線をクロウリーに移す。
「――それにしても、部下の殆どを囮にした、日本最大級のテーマパーク襲撃を陽動作戦として、その隙に国会議事堂を襲撃するとは……恐れ入ったよ。随分と派手な真似を、してくれるじゃないか」
少女は不敵な笑みを浮かべながら、クロウリーに話し掛ける。
「炎は……消える前に一瞬だけ、激しく燃え盛るって言うよなぁ、クロウリー! 銀の星教団も、炎と同じなのかい?」
「――魔法少女、鬼宮惣左衛門! どうして貴様が、ここにいる?」
クロウリーの開いに、ブルーのワンピース姿の少女……魔法少女の鬼宮惣左衛門は、平然と答えを返す。
「愚問だな。グローバルスタジオジャパンでのテロを鎮圧した後、襲撃した連中を魔法で尋問して、本当の狙いである国会議事堂襲撃の情報を、手に入れたに決まってるだろう?」
不敵な笑みを浮かべたまま、惣左衛門は続ける。
「あれだけ大規模なテロを起こしながら、唯一……洗脳が出来る、魔法教典を持ったお前の姿が無いんだ。誰だって陽動作戦だって気付くさ!」
「まだ、グローバルスタジオジャパンでの戦闘が姑まってから、三十五分程しか経っていないというのに……鎮圧されたというのか?」
驚きの表情を浮かべて訊ねるクロウリーに、惣左衛門は肩を竦めてみせながら、涼しい顔で言い放つ。
「あの程度の連中を片付けるのに、二十分もかかるかよ」
グローバルスタジオジャパンでの戦闘は、実質十五分程度で終了したのだ。
戦闘終了直後、魔法による尋問……対象人物からの情報収集を得意とする、惣左衛門の仲間の魔法少女が、身柄を拘束したルドラの部下達から、国会議事堂襲撃の情報を引き出すのに成功。
魔法少女達は即座に、国会議事堂がある東京へと向かったのだが、超音速で飛行する能力を持つのは、惣左衛門のみ。
故に、音速の数倍の速度で飛び続けた惣左衛門は、他の魔法少女達に先んじて、国会議事堂に辿り着いたのだ。
他の魔法少女達は現在、国会議事堂に向っている途中なのである。