026 魔法主義革命を成し遂げ、世界と人類を、究極の段階へと進化させる為、我等……銀の星教団、あえてシュタイナー協定破りの汚名を、被ろうではないか!
「しかし、幾ら魔法少女の家族とはいえ、民間人を人質に取った上での交渉は、シュタイナー協定違反では?」
魔法使いの一人が、カリプソの発言に抗議する。
シュタイナー協定……世界各国の魔法主義革命家団体が、魔法主義革命を実現する為の戦いに際して、守るべきだと決めた紳士協定では、非戦闘員に対する攻撃や、教化目的以外の拉致監禁、民間人を人質に取り、交渉手段とする事などは、全て禁止されているのだ。
惣左衛門の家族を人質に取った上で、惣左衛門にマジックオーナメントを外す……つまり、魔法少女を辞める事を要求するのは、明確なシュタイナー協定違反なのである。
「紳士協定を守れるのは……紳士足り得るのは、余裕のある時だけさ。今の我々に、そんな余裕があるのか?」
カリプソの言葉に、抗議していた魔法使いも、言葉を失う。
「――カリプソの意見には、一理ある。しかし、魔法少女の家族は、かなり厳重に警備されている。家族を人質に取る事ですら、今の我々にとって、容易な事では無いぞ」
クロウリーの言う通り、魔法少女達の家族は、厳重に警備されている。
シュタイナー協定があるせいで、魔法少女達の家族の安全が脅かされる例は、余り無いのだが、念の為、厳重な警備体制がしかれているのである。
無論、家族の生活を邪魔したり、プライバシーを侵害したりしない様に。
家族一人一人に、十人近くの警備隊員達が、忍者の様に付き従って、守っているだけでなく、家族の行動範囲には、膨大な数の監視防犯機器が、密かに設置してあり、不審者が家族に近付けぬ様に、常時監視しているのだ。
以前ならともかく、現在の銀の星教団にとって、惣左衛門の家族を人質にとるのは、容易な事では無い。
セフィルを使う魔法使いなら、警備隊員を蹴散らす事など、容易である。
しかし、警備隊員達は倒される前に、手際良く魔法少女の家族を逃し、魔法少女を呼ぶだろう。
警備隊員達の使命は、魔法少女の家族を襲撃して来る、魔法使い達を撃退する事では無く、家族に迫る危機を察知し、安全に逃がす事なのだ。
戦闘における強さという意味では、魔法使い達の方が上手であっても、警備隊員達を出し抜いて、魔法少女の家族を誘拐するのは、極めて困難な事なのである。
「私には、警備隊を出し抜く策があります」
静かではあるが、自信に満ちた口調で、カリプソは続ける。
「実は、鬼宮惣左衛門の家族の一人が、警備隊の監視体制から外れる場所に、私は出入りする事が出来るのです」
少しの間考えてから、クロウリーは決断する。
「――分かった。カリプソ、お前に全てを任せる」
「有り難うございます。必ずや鬼宮惣左衛門の家族を、捕らえて御覧にいれましょう」
「それにしても、シュタイナー協定の遵守を、最も重視していたお前が、自らシュタイナー協定破りを主張するとはな……。意外だったよ」
銀の星教団は、魔法主義革命家団体の中でも、殆どシュタイナー協定を破らない団体として、知られていた。
その銀の星教団の中でも、カリプソが一番、シュタイナー協定の遵守に、気を使っていたのだ。
「――父が鬼宮惣左衛門に倒され、魔法拘置所に送られました。父は今、魔法拘置所で薬漬けにされ、眠らされています……」
怒りと口惜しさの感情を、押し殺し切れないのか、微妙に震えている声で、カリプソは続ける。
「我々が魔法教典を失い、魔力と魔法を失えば、裁判を受けて罪に服する為に、父は睡眠処理を解かれるのでしょうが、薬物処理による後遺症が残る可能性があります……」
魔法拘置所において薬物処理が施され、強制的に長期間、睡眠状態にされた魔法使いの中には、魔法ですら完全には治療出来ない程の、何等かの機能不全系の後遺症を、背負ってしまう者もいる。
相当に強力な薬物を、投与せざるを得ないせいである。
「父は罪人として裁かれるだけで無く、酷い後遺症を背負う事になるのかもしれません。父を倒して魔法拘置所に送った、鬼宮惣左衛門の事を、私は許せないのです……」
「復讐か……。ルドラ……いや、お前の父には、済まない事をした」
クロウリーは、カリプソを慰めるように、カリプソの肩に手を置く。
カリプソの父とは、四天王の一人の、ルドラだったのだ。
「惣左衛門の存在を排除しなければ、魔法主義革命の達成は有り得ない。惣左衛門を排除する事には、我等……魔法主義者にとって、シュタイナー協定破りの汚名を被るだけの価値がある筈だ」
部下達だけでなく、自分にも言い聞かせる様に、クロウリーは言葉を紡ぎ出す。
「魔法主義革命を成し遂げ、世界と人類を、究極の段階へと進化させる為、我等……銀の星教団、あえてシュタイナー協定破りの汚名を、被ろうではないか!」
クロウリーの言葉に、六人の部下達が無言で頷く。
銀の星教団の残存勢力は、これまでは禁じ手としていた、惣左衛門の家族を標的としたテロ活動を実行する、決意と覚悟を固めたのだ……。
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