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025 問題なのは、その強すぎる惣左衛門を、片付ける方法が無いという事だ……

「これだけか……残ったのは」


 クロウリーは、己の不甲斐無さを責めながら、呟いた。

 目の前には、カリプソを含めて、六人の部下が並んでいる。


 会議室風の応接セットが置かれていて、クロウリーも部下達も、椅子に腰掛けているのだが、ここが普通の部屋ではないのは、壁や天井を見れば分かる。

 照明に照らし出されている壁や天井は、建物などに使用される建材ではなく、ただの岩壁や岩盤の天井なのだ。


 ここは、銀の星教団の、秘密のアジトの一つ。

 かなりの広さがある地下空洞の一部を、会議室の様に整え、クロウリー達はアジトとして利用しているのである。


 国会議事堂からの逃亡後、惣左衛門の追撃から逃れ、秘密の地下アジトに逃げ込めたのは、クロウリーとカリプソと、二人に随行していた五人の中級魔法使い達だけだった。

 グローバルスタジオジャパンに投入した、主力部隊に所属する百四十名の魔法使いと、国会議事堂を襲撃した、十八人のクロウリー直属の魔法使い達は、全て魔法少女達によって身柄を拘束され、魔法拘置所へと送られたのだ。


 百五十八名の魔法使い達は、魔法拘置所において薬物処理が施され、睡眠状態に置かれた事が、既にニュースで報道されていた。

 銀の星教団が、事実上の壊滅状態にあるのは、誰の目にも明らかだった。


「堕ちたものだな……。かっては単独でも、日本における魔法主義革命を実現可能な程に、勢力を拡大していた銀の星教団の……」


 目の前にいる、黒装束に身を包んだ部下達の数を、再度確認しながら、クロウリーは自嘲するかの様に、言葉を続ける。


「最後の七人という訳だ……我々がな」


 惣左衛門との抗争が本格化し始めた一年前までは、銀の星教団には、五千人を超える魔法使いがいたのだ。

 それが、惣左衛門を中心とした魔法少女達との、一年に渡る激闘を通じて、大幅に勢力を削がれてしまったのである。


 壊滅の一歩手前まで追い込まれた銀の星教団は、起死回生を狙い、全ての残存勢力を投入し、蒼天の二つ星作戦を決行した。

 しかし、その蒼天の二つ星作戦も、惣左衛門によって打ち砕かれてしまったのだ。


「鬼宮惣左衛門め、奴さえいなければ……」


 口惜しげに、クロウリーは嘆く。

 そんなクロウリーの姿を見た、部下である魔法使いの一人が、不安そうにクロウリーに訊ねる。


「クロウリー様、我々は今後、どうすればいいのでしょうか?」


「教化活動を続けて同志を増やし、再起を計るしか無いのだが……」


 教化活動とは、人々を魔法主義思想に洗脳……教化する活動である。

 教化された人間は、魔力が弱ければ、非戦闘的活動により、魔法主義革命家団体を助ける協力者となり、魔力の強い人間は魔法使いとして、銀の星教団に加わる事になるのだ。


 無論、魔法主義革命家団体にとって重要なのは、魔法使いの同志なのだが、魔法使いになれる程の魔力を持つ人間は、数が少ない。

 確率的には、一人の魔法使いを同志にする為には、百人の人間を教化しなければならない事になる。


「しかし、鬼宮惣左衛門が存在する限り、大規模な教化活動は当然、教化活動を続ける事すら、難しいでしょうね……」


 冷静な口調で、カリプソが呟いた。

 銀の星教団が五千人以上の魔法使いを擁する、大規模な魔法主義革命家団体となれたのは、惣左衛門が魔法少女になる以前に、大規模教化活動に成功していたからだった。


 惣左衛門が魔法少女になって以来、教化活動は困難を極めていた。

 以前は人が大量に集まる場を襲撃し、派手な大規模教化活動を、魔法主義革命家団体は行えていたのだが、それが困難になったせいである。


 何せ、派手な大規模教化活動を行えば、超音速飛行能力を持つ惣左衛門が、多数の人間達の教化を終える前に、駆け付けてしまうのだ。

 大規模教化活動を成功させる事が、惣左衛門の出現により、日本では著しく困難な状況となってしまったのも、当たり前と言える。


 故に、小規模の教化活動を地道に行うしかなくなってしまった為、銀の星教団だけでなく、殆どの魔法主義革命家団体にとって、魔法使いの同志を増やす事自体が、著しく困難な状況となっていた。

 つまり、カリプソの認識は正しいのである。


「その通りだ……。鬼宮惣左衛門を片付けない限り、我々……いや、魔法主義者達が何を仕掛けようが、全てが無駄に終わる事は、確実だろうな」


 一同は領き、クワウリーに同意する。


「問題なのは、その強すぎる惣左衛門を、片付ける方法が無いという事だ……」


 クロウリーは、白髪混じりの頭を抱え込んだ。

 皆が沈黙し、アジトの中が重苦しい空気に満たされる。


「――私に一つ、考えがあります」


 重苦しい沈黙を破ったのは、仮面の魔女カリプソだった。


「鬼宮惣左衛門の家族を誘拐し、人質に取った上で、奴にマジックオーナメントを外させましょう。その上で鬼宮惣左衛門の存在を、完全に排除すべきです」


 マジックオーナメントは一度外してしまうと、同じ人間が再び装着しても、魔法少女にはなれない。

 他のマジックオーナメントを装着すれば、再び魔法少女になれるのだが、最低でも一年間はインターバルを取らなければ、他のマジックオーナメントを装着する事は出来ない。


 つまり、セフィロトの首輪を外させてしまえば、惣左衛門は一年間、魔法を使えなくなるのである。

 マジックオーナメントだけでなく、魔法教典であっても、その期間内の惣左衛門を、魔法が使える様には出来ない。


 魔法少女は魔法教典に触れても、何の影響も受けないのだが、その状態はマジックオーナメントを外してからも一年間、継続するのだ。

 つまり、魔法少女ではなくなった後の一年間、惣左衛門は魔法教典に触れても、魔力を解放されはしないし、教化……洗脳もされないのである。




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