022 馬鹿を言うな! 家族より大事なものが、ある筈が無いだろうが!
「惣ちゃんが魔法少女になる前は、日本でも魔法主義革命が成功しそうになってたのを、みんな忘れちゃってるのね」
少し不満そうに、佐織は続ける。
「惣ちゃんが、日本の魔法主義革命家連中を、徹底的に叩いたからこそ、日本は崩壊を免れて、皆が安心して暮らせてるのに……」
不満気な佐織に、惣左衛門は言葉を返す。
「まあ、それだけ平和になったって事さ」
「平和になったなら、親父が女の格好してまで、戦う必要無いじゃんか!」
一刀斎は不満気に、惣左衛門に食って掛かる。
「親父は息子の事よりも、平和になったら感謝する事も忘れて、変態扱いするような連中を守る事の方が、大事なのかよ?」
「馬鹿を言うな! 家族より大事なものが、ある筈が無いだろうが!」
惣左衛門の語気が、急に強くなったので、一刀斎は少し気圧され、たじろぐ。
「――さっきも言った通り、現状の七割程度まで、魔法主義革命家連中の勢力を削いでおけば、俺が魔法少女を辞めても、魔法少女側の戦力的優勢を維持出来るようになる。だから、あと少しだけ待ってくれ」
多少、語気を強め過ぎたと思った惣左衛門は、意識して口調を普通に戻す。
「あと少しって、どの位だよ?」
セフィロトの首輪を指先で弄りつつ、少し考えてから、惣左衛門は口を開く。
「少なくとも、銀の星教団だけは片付けておきたいし、他にも幾つか、今の内に潰しておいた方が良い、新興の魔法主義革命家団体があるから、長引けば半年位かな?」
惣左衛門の返答を耳にして、一刀斎は呆れ顔で肩を竦めてみせる。
「あと半年も、俺は変態女装親父の息子扱いされるのかよ、冗談じゃねぇ!」
「――レベルS以上の魔力を持つ、魔法少女適格者が見つかって、俺の代わりに魔法少女になってくれれば、俺も引退を早められるんだけど、そんな人材がいないらしくてね……」
マジックオーナメントは通常、レベルB以上の魔力を持つ人間なら、装着する事が可能である。
しかし、レベルS以上の魔力を持つ人間でなければ装着出来ない、特殊なマジックオーナメントが、少数……存在するのだ。
惣左衛門が装着しているセフィロトの首輪は、その少数しか存在しない、レベルS以上の魔力を持つ人間専用の、マジックオーナメントである(日本政府が所有する、レベルS専用のは、セフィロトの首輪のみ)。
それ故、惣左衛門に代わる、レベルS以上の魔力を持つ人間が発見されない限り、戦力という意味では、惣左衛門の後を継ぐ事は出来ない。
もっとも、魔力が同等のレベルS以上であっても、武術の能力も高くなければ、惣左衛門が抜けた穴を埋めるのは、不可能に近いので、レベルS以上の魔力というのは、惣左衛門の後を継ぐ為には、最低限クリアしなければならない条件でしかないのだが。
「――いるわよ、そんな人材」
平然とした口調で言い放った佐織に、惣左衛門だけでなく、一刀斎と伊織までもが、同じ言葉で問いかける。
「どこに?」
「ここに……」
平然と言い放つ佐織に指差され、一刀斎は呆気にとられて、間抜けな表情を浮かべる。
「惣ちゃんに一番近いのは、いっちゃんだもん。外見も武術の才能も、口が減らない性格も、いっちゃんは惣ちゃんから受け継いでるんだから、きっと魔力の才能も、受け継いでると思うよ」
「そうだね、アニキなら鬼伝無縛流の有段者だから、普通の人より戦闘センスもある筈だし……魔法少女に向いてるんじゃないかな」
伊織も気楽な口調で、佐織に同意する。
「いっちゃんなら、凄く強い魔法少女になれるって、実は前から、思ってたのよね……。今度、魔力検査受けてみたら?」
魔力検査を行える施設のキャパシティの限界から、魔力検査は年間、三百万人程度にしか行われていない。
日本政府としては、施設の数を増やしたいところなのだが、魔力検査を行う為に必須となる、魔術道具の数が足りない為、増やせないのである。
故に、魔力検査を受ける事は、国民の義務となっているにもかかわらず、殆どの国民は、魔力検査を受けていないのが、実情なのだ。
そして、魔力検査を受ける人間は、基本的に抽選で選ばれるのだが、数少ない希望者や、強力な魔力を持つ可能性が高い、魔法少女の親族は、優先的に検査される事になっている。
惣左衛門が魔法少女になった結果、鬼宮一族の高校生以上の人間は全員、魔力検査を受ける羽目になった。
検査を受けたのが、高校生以上の人間だけだったのは、義務教育下の人間は、魔力検査義務が免除されているからである。
それ故、中学生の一刀斎も小学生の伊織も、魔力検査は受けていない。
義務が免除されているだけなので、本人が望み、保護者が許諾すれば、義務教育下の子供でも、魔力検査を受けられるし、レベルB以上の魔力所有者と判明すれば、魔法少女となる義務を背負う事になる。
もっとも、これまで十五歳以下の魔法少女適格者は、発見されていないのだが。
ちなみに、魔力検査は人間の魔力を、Sから強い順に、SABCDEの六段階に分ける。
魔法少女どころか魔法使いにすらなれない、僅かな魔力しか持たない人間は、一番低いレベルEと判定される(殆どの人間の魔力は、このレベルE)。
魔法使いになれるのは、レベルD以上であり、魔法少女となれるのは、レベルB以上である。
本来は、レベルAが最高の魔力として設定されていたのだが、明らかにレベルAの範囲を超える魔力所有者が、僅かに確認され始めたので、レベルSが後付けされたのだ。