021 お前の親父は、女のままでいたいから、任期を過ぎても魔法少女を続けてる、変態なんだって言われてるんだぜ!
レベルB以上の魔力を持つ魔法少女適格者と、マジックオーナメントを揃えない限り、国家は魔法少女を得られない。
つまり、魔法少女によって、魔法主義革命を止める事は出来ないのだ。
しかも、全ての人間を魔法主義思想に洗脳しつつ、レベルD以上の魔力所有者を、幾らでも魔法使いに変えられる魔法教典と違い、マジックオーナメントは一つにつき一人の人間を、魔法少女に変える事しか出来ない。
それ故、魔法使いに比べると、魔法少女の数は増やし難いので、魔法少女は世界的に数が不足しているのである。
その結果、魔法少女が存在しなかったり、数が足りなかったりした、幾つかの中小規模の国家や、ロシアなどの大国において、魔法主義革命は成功し、魔法主義国となってしまったのだ。
そういった魔法主義国の経済状態は、何れも短期間に崩壊する事になった。
崩壊の主な原因は、エネルギーの不足である。
科学文明と高度産業化社会を放棄した魔法主義国は、人間の生み出す魔力のみをエネルギー源として、産業を成立させて社会を運営する、魔法主義社会の実現を目指した。
つまり、魔法主義社会を成立させる為には、莫大な量のセフィルと、それを扱う大量の魔法使いが、必要だったのだ。
だが、魔法使いになれる程の魔力……レベルD以上の魔力を持つ人間は、百人に一人しか存在しなかった。
殆どの人間の魔力は、百万人分を集めた所で、魔法に役立てる事は困難なレベルでしかなく、使い物になる魔法使いの数は、余りにも少な過ぎたのである。
セフィルは確かに高次のエネルギーであり、セフィルを源泉とした、魔法が発生させる現象や造り出す物体、得る事が出来る能力は、この世界の通常の現象や物質、能力などに対し、完全に優越するので、両者が衝突した際は、セフィルの方が完勝する。
しかし、セフィルのエネルギーとしての本質……実際に仕事を為す量という意味においては、この世界のエネルギーに対し、セフィルが絶対的に優越するという訳では無い。
現代の産業社会は、化石燃料や核燃料、各種再生エネルギーなどの、莫大なエネルギーを消費する事によって、成り立っている。
この莫大なエネルギー量を代替するには、世界中の人間が生み出す魔力を、優越する高次エネルギーであるセフィルに変換しても、エネルギーとしての総量が足りな過ぎた。
それ程、莫大な量のエネルギーを、人類は消費しているのである。
少数の魔法使い達の魔力と魔法だけでは、科学文明と高度産業化社会が実現した、豊かな社会を維持する事は不可能であり、現代の国々が抱えた莫大な人口を養う事すら、困難だった。
魔法主義という名の政治体制が、致命的な欠陥品であるのは、魔法主義国化した各国の、余りにも明確な経済的破綻によって、既に明らかになっているのだ。
それにも関わらず、そういった魔法主義国では、魔法使い達が魔法の力によって、独裁政権を維持している。
彼等は今だに、魔法主義という政治体制や政治的イデオロギーの欠陥を、認めようとはしていない。
「魔法少女がいないと困るなんて事、誰だって分かってるさ! 分かってたって、からかわれるんだよ! 親父が、女の格好なんかしてるとな!」
「仕方が無いだろ、女の格好に……魔法少女にならないと、魔法を使って魔法使い連中と戦えないんだから」
「だったら、戦うのを止めればいいだろ! 親父は魔法少女としての任期、とっくに務め終わったんだし!」
規格外犯罪処理専任特種公務員……いわゆる魔法少女の最短任期は、一年間。
魔法少女となって一年半が経っている惣左衛門は、既に任期を務め終わっている。
「一年の任期を過ぎても、魔法少女を続けてる人なんて、殆どいないじゃないか! 任期が終わったら、辞めるのが普通なんだよ!」
一刀斎の言う通り、殆どの魔法少女達は、一年の任期を務め終わると引退してしまうので、惣左衛門の様に一年半も続ける例は、鬼宮一族を除けば稀なのだ。
「お前の親父は、女のままでいたいから、任期を過ぎても魔法少女を続けてる、変態なんだって言われてるんだぜ!」
「女のままでいたいからなんて、阿呆な理由で、魔法少女を続ける訳が無いだろうが」
エキサイトする一刀斎を諭す様な口調で、惣左衛門は続ける。
「今、俺が魔法少女を引退したら、魔法少女と魔法主義革命家団体の勢力の状況が逆転して、魔法少女側が劣勢になる可能性があるから、引退出来ないんだよ」
「パパが魔法少女を引退すると、日本の魔法少女戦力が三十パーセント以上、ダウンするんだって」
惣左衛門の発言を擁護する様に、テレビで得た知識を、伊織が披露した。
テレビの受け売りなのだが、伊織の発言は正鵠を射ている。
日本では、常時百人前後の魔法少女達が活動しているが、世界最強と言われる惣左衛門の、戦闘力と存在感は、圧倒的なのだ。
惣左衛門の存在が消えたら、現在は衰退に向っている、日本の魔法主義革命家達が息を吹き返す事は、確実だった。
惣左衛門だけでなく、榊と柊の二人も、惣左衛門に次ぐ重要な戦力と看做され、引退し損なっている状況である。
牡丹の場合は、若返った身体での生活が楽しいという理由で、自ら望んで続けていたりもするのだが。