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018 魔法少女の……女の子の身体になって、家の中を裸で歩き回ってる、四十過ぎの二人の子持ち男の方が、俺より遥かに変態度数が高いだろうが!

「――ちょっ……兄貴、絞め技は……止めてよ!」


 鬼落しをかけられた伊織は、苦しそうに懇願する。

 伊織は抵抗しようと、腕や脚を動かそうとするが、自由に動かないのだ。


「蹴り飛ばせ、伊織!」


 突如、厳しいトーンの少女風の声による、伊織へのアドバイスが、辺りに響き渡った。


襟下桎穴きんかしつけつを突き損なってるから、脚の動きは完全には封じられていない。強めに力を入れれば、蹴れる筈だ!」


 アドバイスに従い、伊織は右脚に力を込めて、鋭い膝蹴りを放つ。

 伊織の右膝が、一刀斎の顔面に襲い掛かる。


 一刀斎は慌てて鬼落しを解くと、後ろに跳び退いて、膝蹴りを回避しようとする。

 だが、伊織が膝蹴りから前蹴りに変化させ、蹴りのリーチが急に伸びたので、足先を回避し切れず、一刀斎は顔面を防御した右腕の前腕を、伊織に蹴り飛ばされてしまう。


 一刀斎は舌打ちをしながら、衝撃に痺れる右前腕の蹴られた辺りを、左手でさする。


「ホントだ、蹴れた!」


 伊織は嬉しそうに、何度か蹴りを放つ動きをして見せる。

 兄の一刀斎同様、幼い頃から惣左衛門に鍛えられているので、蹴りの動きはさまになっている。


 聞こえて来たアドバイスの通り、一刀斎は襟下桎穴を突き損なっていたので、伊織の足の動きは、まともに縛られてはいなかった。

 故に、伊織が力を入れれば、蹴る事が出来る状態だったのである。


 中途半端に脚の動きが封じられていた為、伊織の蹴りの威力は中途半端であり、蹴られた一刀斎も、腕が痺れただけで、大した痛みを覚えはしなかったのだが。


「相変わらず、お前は経穴の突き方が雑だな。慣れない内は、速く突く事よりも、正確に突く事を優先しろと、何度も言っているだろう」


 先程、伊織にアドバイスしたのと同じ声が、再び聞こえて来た。

 呆れた風な口調で、その声の主は言葉を続ける。


「幾ら鬼伝無縛流が、速さに重きをおいているとはいえ、雑な動きで速さだけを求めれば、自滅するだけだ。速さを追い求めるのは、まともに技を使いこなせる様になった後で良い」


「今のは別に、本気で絞め落そうとしてた訳じゃないから、適当に突いただけだって! 本気でやれば、襟下桎穴を突き損なったりなんて……え?」


 ばつの悪さを誤魔化す為、強い口調で言い放ちながら、少女風の声の主がいる方向を向いて、その姿を目にした一刀斎は、驚きの余り絶句してしまう。

 少女風の声の主が、父親の惣左衛門であるのは、一刀斎には分かっていた。


 故に、少女風の声の主が惣左衛門であった事に、一刀斎は驚いた訳ではない。

 目に映った惣左衛門が、首にセフィロトの首輪を締め、肩にバスタオルを掛けただけの、胸も股間も露出したままの、殆ど裸に近い姿だったので、一刀斎は驚いたのである。


 一刀斎と同じ、褐色気味の滑らかな肌に包まれた、惣左衛門の均整のとれた肢体は、程良く引き締まっている。

 胸は小振りだが形は良く、先端は透明感のある桃色である。


 肩の上に乗っていた水滴が、胸の谷間を通り、床の上に転がり落ちる。

 きめの細かい肌が、蓮の葉の様に水を弾いているのだ。


 水滴を目で追ったせいで、惣左衛門の胸と下腹部を見てしまった一刀斎は、形容し難い恥ずかしさと気まずさを感じる。

 父親の裸を見て、恥ずかしさと気まずさを感じなければならない状況に、一刀斎は腹を立てる。


「風呂から上がって、裸で家の中歩き回るの、止めろって言っただろ!」


 裸の惣左衛門の、胸や下半身を見るのが恥ずかしかった一刀斎は、惣左衛門から目を逸らしながら、強い口調で抗議する。


「自分の家の中で裸で歩こうが、別に構わんだろうが」


 バスタオルで、まだ水分を十分に含んでいる、髪の毛を拭きながら、惣左衛門は素っ気無い口調で、一刀斎に言葉を返す。


「親父が良くても、俺が良く無いんだよ!」


「何が良く無いんだ?」


「え? それは、その……」


 顔を赤らめて、言いよどむ一刀斎を目にした伊織が、からかう様な口調で口を挟む。


「兄貴は、パパの裸を見るのが、恥ずかしいんだよ!」


 呆れ顔で、惣左衛門は言い放つ。


「父親の裸を見て恥ずかしがるとは、お前は変態か!」


「魔法少女の……女の子の身体になって、家の中を裸で歩き回ってる、四十過ぎの二人の子持ち男の方が、俺より遥かに変態度数が高いだろうが!」


 一刀斎は語気を荒げて、惣左衛門に食ってかかり続ける。


「変態に変態呼ばわりされたくねえよ!」


「――お前、親を変態呼ばわりして、ただで済むと思ってるのか?」


 惣左衛門は一瞬で、一刀斎の眼前に移動。

 まさに目にも留まらぬ早業で、一刀斎の鎖骨に右手を伸ばすと、鬼落しを決めてしまう。


 一刀斎の頚動脈を、人差し指と親指で挟んで圧迫しながら、惣左衛門は言い放つ。


「こうやって、ちゃんと襟下桎穴と襟下梏穴を突いた上で、頚動脈を圧迫すれば、相手に抵抗されて、技を外されたりはしないんだ」


 一刀斎は両手両足を動かそうとするが、どれだけ力を込めても、枷を嵌められたかの様に、手足はまともに動かない。

 襟下桎穴と襟下梏穴を完全に突かれたせいで、腕と脚の動きを短時間ではあるが、完全に封じられてしまったのだ。


「経穴は正確に突かなければ、相手の気の流れを乱せず、著しく効果が落ちる。まずは徹底して正確に突く事を優先し、確実に正確に突ける様になってから、徐々に速さを上げるんだ……覚えておけ!」


「わかった、わかっ……たから、外して……く……れ」


 途切れ途切れに呟いた直後、鬼落しに絞め落されてしまい、一刀斎は気を失った。



    ×    ×    ×




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