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119 父親程では無いにせよ、息子の方も相当な化物の様だな。まだ年端もいかぬ子供とは思えない、技の切れだ

 背中で感じた熱気のせいで、背後からのタックルを察していた一刀斎は、ひらりと宙に舞う。

 後方宙返りで炎のタックルをかわしながら、そのまま男の魔法使いの、後頭部を蹴りとばす。


 後方宙返り……とんぼ返りで、相手の後頭部やうなじなどの、防御し難い急所を狙う蜻蛉蹴り(とんぼげり)の一撃を、一刀斎は男の魔法使いに見舞ったのだ。

 蹴り足となった左足から、蜻蛉蹴りの衝撃と共に、男の後頭部に襲い掛かった雷のセフィルは、稲妻となって全身に流れる。


 金色の稲妻を身に受けた男の魔法使いは、全身を震わせながら絶叫したかと思うと、その場に崩れ落ちる様に倒れ込む。

 こちらも、レベルBの魔力保有者であり、纏魔で身を守っていても、完全に一刀斎に出力負けしてしまっていた。


雷撃蜻蛉蹴らいげきとんぼげりになるのか? 何か語呂が悪いな」


 倒した男の魔法使いを一瞥し、一刀斎は呟くと、周りを見回し、魔法使い達の様子を確認。

 慌てふためきながらも、炎や雷……水や風など、様々な属性の魔法を発動させ、現象を引き起こしながら身構えている、残りの二十三人の魔法使い達の位置と、ダークスーツ姿の魔法使い達の数を、一刀斎は把握する。


(警戒した方が良い、ダークスーツ姿の魔法使いは、残り五人だけか……)


 心の中で呟きながら、一刀斎は比較的近くにいた、ローブ姿の三人の魔法使いに向かって突進。

 十メートル近くの間合いを一瞬で詰めると、若い女の魔法使いの鳩尾に、左肘で隼打ちを決める。


 魔法による攻撃を放ついとますら与えず、一刀斎は左の後ろ蹴りと右の掌打で、隼打ちで仕留めた女魔法使いの左右にいた、二人の男の魔法使いを攻撃。

 この二人も一撃で沈め、あっという間に三人を片付ける。


 その後も、少し離れた場所にいる魔法使い達との間合いを、隼打ちで詰めた上で仕留め、その近くにいる魔法使い達を、別の打撃技で倒すという流れを、一刀斎は何度も繰り返した。

 魔法使い達の反撃など、一度たりとも身に受ける事すら無く。


 雷のセフィルにより威力を上乗せした、一刀斎の強力な打撃技と、素早過ぎる動きの前に、ゲドの使途の魔法使い達は、為す術が無い。

 戦い始めてから五分もかからずに、二十九人の魔法使い達は、意識を失った状態で、草の絨毯の上に転がされる羽目になった。


 残された最後の一人は、ゲドの使途の教主であるゲベルガル。

 三十歳前後と思われる、精悍で目付きの鋭い、ダークスーツ姿の男だ。


 既に雷の現象魔法を発動済みのゲベルガルは、全身に雷のセフィルを纏っているので、ダークスーツ姿ではあるが、その姿は金色に輝いている。


「父親程では無いにせよ、息子の方も相当な化物の様だな。まだ年端もいかぬ子供とは思えない、技の切れだ」


 ゲベルガルは一刀斎を見据えながら、余裕有る口調で言葉を続ける。


「――とはいえ、まだまだ未熟! 部下達には通じても、この私に通じる技量ではない!」


「そう思うんだったら、試してみな!」


 一刀斎は言い放つと、ゲベルガルとの間合いを詰めるべく、隼打ちの初期動作に入る。

 だが、その直後……異変が起こり、ゲベルガルを隼打ちで狙い難くなったので、一刀斎は驚いて、隼打ちの初期動作を解除し、防御の構えを取る。


 起こった異変とは、ゲベルガルの姿の増加である。

 一人である筈のゲベルガルの姿が、二人に分裂するかの様に増えたので、隼打ちで狙いを定め難くなったのだ。


 増加は更に続き、二人になったゲベルガルが四人に、四人になったゲベルガルが八人に、八人になったゲベルガルが十六人に、十六人になったゲベルガルが三十二人……といった風に、ゲベルガルは分裂しながら増え続け、三十二人まで増え続けたのである。

 三十二人まで増え続けたゲベルガルは、半径十五メートル程の円陣を作る形で、一刀斎を取り囲んだ。


「分身したのか!」


 ゲベルガルが姿を増やした理由を、一刀斎は察する。

 習志野まで飛んで来る途中、一刀斎は無線機で規格外犯罪対策局から通信を受け、ゲドの使途についての説明を受けていた。


 その際、ゲドの使途の教主が、実体の無い立体映像の如き、自分の分身を多数出現させて、相手を惑わす戦法を得意とする魔法使いなのを、一刀斎は知らされていた。

 その戦法を由来として、ゲベルガルが「幻惑のゲベルガル」の異名で呼ばれている事も。


(纏魔した状態で分身し、敵を惑わして戦うのか。規格外犯罪対策局の人が、言ってた通りだ)


 雷の現象魔法を使い、雷のセフィルを身に纏ったまま、多数の分身を作り出したゲベルガルを見て、一刀斎は心の中で呟く。

 人知れずクロウリーが、魔法の二重発動に成功していたとはいえ、その例外を除けば、一人の魔法使いは、一度に一つしか魔法を使う事が出来ないので、ゲベルガルの分身は、彼自身の魔法によるものではない。


 ゲベルガルが出現させる分身は、所有する魔法教典、ゲドの書自体が持つ特殊な機能により、作り出されているのだ。

 神山DZPMで安全なルートを作り出したり、周囲のセフィル反応を消してしまう、特殊な機能を持っていたムルティ・ムンディの様に、魔法教典や魔法書自体が、特殊な機能を持っている場合がある。


 ゲドの書も、特殊な機能を持っている魔法教典の一つであり、その機能こそが、分身能力。

 所有者が望めば、ゲドの使徒は所有者の分身を幾らでも作り出してくれるのだ(分身の数の制限は無いのだが、所有者の魔力量の影響を受けるので、大抵の魔法使いの場合は、三十二体が現実的)。


 分身は所有者の思い通りに動かせる上、分身自体はゲドの書の機能が作り出すので、所有者は自身の魔法を使う事が出来る。

 故に、ゲベルガルは雷の魔法で纏魔を行いながら、多数の分身を作り出し、敵を幻惑して戦えるのである。




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