118 攻め方が単純だな、戦い慣れてないや……こいつら
「――じゃ、さっさと片付けるか」
全身に雷のセフィルを纏った一刀斎は、初めての魔法戦闘の実戦に、緊張を覚えながらも、魔法使い達に向かって突撃を開始。
陸上の短距離走の選手ですら、唖然とする程の速さで、草に覆われたフィールドを疾走する。
眩い程の光を放つ稲妻や、燃え盛る火球が、一刀斎に襲い掛かる。
十数人の魔法使い達が、現象魔法を使い、一刀斎に一斉攻撃を開始したのだ。
(攻め方が単純だな、戦い慣れてないや……こいつら)
一撃で重装甲の戦車すら破壊する、稲妻や火球による攻撃を、易々とかわしながら、一刀斎は心の中で呟く。
魔法による実戦は初めてなのだが、馬鹿正直に自分を狙って攻撃するだけで、先読みでの攻撃を仕掛けて来る様子が無いので、一刀斎は相手が戦い慣れてないと判断したのである。
ゲドの使途は発足から一年程度の、小規模の魔法主義革命家団体であり、実戦経験が豊富とは言えない。
一刀斎が察した通り、戦い慣れていないのだ。
稲妻や火球だけでなく、水流や暴風までもが、一刀斎に襲い掛かる。
だが、どの魔法攻撃も、先読みを駆使しつつ、素早い動きで回避運動を取る、一刀斎の身体を捉えられず、演習場の各所に流れ弾として着弾し、破壊するばかりである。
結局、一撃も攻撃を食らわぬまま、ゲドの使途の魔法使い達がいる辺りに、一刀斎は辿り着く。
そして、気と呼ばれる、魔法とは似て非なるエネルギーを操る事により得られた、人間離れした跳躍力を生かして、一気に十メートル近い距離を跳躍。
魔法少女となった一刀斎は、身体が本来の年齢より成長した状態であり、身体能力が格段に向上している。
本来の身体の時よりも、遥かに跳躍力自体が増しているので、気を使えば十メートル程度の跳躍も、可能になっている。
魔法使い達は、自分達を取り囲む様に、灰色の石のセフィルで造られた、城壁の様な防御障壁を、何枚も並べている。
城壁風の防御障壁で身を守りつつ、その隙間から一刀斎に向けて、狭間から敵を狙い撃つ兵士の様に、魔法使い達は魔法攻撃を行っているのだ。
跳躍して来た一刀斎は、そんな防御障壁の一つに、雷のセフィルを纏った右足を向けて、そのまま突進する。
「食らえ! 雷撃隼爪脚!」
一刀斎は鋭い声を発しながら、鬼伝無縛流に伝わる高速の跳び蹴り技……隼爪脚を、雷のセフィルを纏う事によって強化した技である、雷撃隼爪脚を放つ。
普段は口にしない技の名を、わざわざ口にするのは、魔法と武術の合わせ技に慣れていない一刀斎が、その成功率を、少しでも上げる為。
城壁風の防御障壁を、一刀斎は雷撃隼爪脚で蹴りつける。
すると、城壁風の防御障壁は、ハンマーで打ち崩される建物の壁の様に、あっさりと砕かれてしまう。砕かれた無数の破片は、一刀斎の足から放たれた、金色に光り輝く稲妻により、完全に破壊し尽くされ、金色の光の粒子群となり、空気に溶け込む様に消滅する。
頼みとする防御用の障壁を、あっさりと打ち破られてしまい、ゲドの使途の魔法使い達は、大混乱に陥る。
慌てて創造魔法を発動し、新たな防御障壁を作り出そうとするが、間に合わない。
防御障壁を破壊して作り出した、突破口を通り抜けた一刀斎は、高速で地を駆け、魔法使い達との間合いを、既に詰め終えてしまっていた。
故に、魔法使い達が今更、防御障壁を作り直した所で、既に接近している一刀斎相手には、殆ど意味が無いのだ。
(――三十人か)
一瞬で魔法使い達の数を把握すると、近くにいた黒いローブを纏う魔法使いの顔面に、一刀斎は上段の右の回し蹴りを決める。
雷のセフィルを纏う右足に蹴り飛ばされ、一撃で失神した魔法使いの身体が、吹っ飛ばされて宙を舞っている内に、一刀斎は別の魔法使いに襲い掛かる。
回し蹴りを放った際の身体の勢いを生かし、左回りに回転しながら、近くにいた魔法使いの顔面を、左の裏拳で殴り付ける。
二人目の魔法使いも、裏拳一発で失神し、その場に崩れ落ちる。
更に、周囲にいた三人の魔法使い達に駆け寄ると、一刀斎は右の掌打に左の鉤突き、右後ろ回し蹴りという流れで、続け様に魔法使い達の顔面を攻撃(鉤突きとは、古武術における、フック風の拳打)。
目にも留まらぬ早業で、三人の魔法使い達を、一刀斎は仕留めてしまう。
ローブ姿の五人の魔法使いを倒し終えた直後、ダークスーツ姿の二人の魔法使いが、一刀斎に襲い掛かる。
明らかに何らかの武術や格闘技の心得がある、若い男女であり、男の方は炎のセフィル、女の方は雷のセフィルによる、纏魔を行っている。
雷のセフィルを纏った、スパークする稲妻を纏う長い脚で、女の魔法使いが鋭い旋風脚を放つ。
一刀斎の頭部辺りに、金色に煌く女の右脚が迫る。
一刀斎は瞬時に体勢を落とし、旋風脚を回避すると、即座に跳び上がりながら、突き上げる形の掌打……通天掌を放ち、女魔法使いの顎を打つ。
急所の顎に通天掌を食らった女魔法使いは、呻き声を上げながら意識を失うと、後ろに倒れ込む。
雷のセフィルによる纏魔を行っている者同士であっても、レベルS以上の魔力を持つ一刀斎の方が、レベルBである女魔法使いでは、その出力に大差がある。
しかも、纏魔は攻撃側の方が、遙かに威力が高まる性質がある為、女魔法使いは一撃で倒されてしまったのだ。
女魔法使いを仕留めた一刀斎の背後から、全身に炎のセフィルを纏った男が、両腕で頭部をガードしながら、前のめりの体勢で、勢い良くタックルして来る。
筋肉質で身体も大きい、総合格闘技の経験があると思われる動きの男だ。