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116 総員、攻撃準備に入れ! 攻撃はドリアンが残ってる連中からだ!

 ちなみに、ドリアンというのは、粘臭弾の悪臭が、果物のドリアンを遙かに臭くした感じであるのを由来として、対魔作戦群において粘臭弾に定着した愛称だ。

 この愛称から、戦術の名称がドリアン・アタックとなった(仮称であり、正式な戦術となった際は、変更される可能性が高い)。


 ドリアン・アタックの結果は上々であり、三十人程のゲドの使途の魔法使い達は、予想だにしなかった、猛烈な悪臭に苦しめられながらの、粘臭剤の除去に、時間と魔力を費やされる羽目になった。

 悪臭を放つ物質が、人体に有害どころか、実は食べると健康に良い上、美味であったりもするので、化学兵器を瞬時に無効化出来る魔法が、危険な化学物質であると認識しない為、地道に除去するしかないのである。


 鼻を塞ぎ、口だけで呼吸するという、シンプルな悪臭対策を試みた魔法使いもいたのだが、それは上手くはいかなかった。

 口呼吸だけでは、まともに魔法の呪文が唱えられず、魔法が発動し難かったのだ。


 しかも、悪臭が強過ぎる為、口腔内から鼻腔に、僅かに悪臭が流れるだけでも、魔法使いの精神集中は乱されてしまった。

 単に悪臭をやり過ごすだけなら、効果を発揮するのだろうが、魔法の使用を前提とする場合、鼻を塞ぐシンプルな悪臭対策は、無意味だった。


 汎用の除去や浄化の魔法による、除去能力を上回るペースで、粘臭弾を撃ち込まれ続ける飽和攻撃を、ゲドの使徒達は食らい続けた。

 その結果、三十分間……ゲドの使途の魔法使い達は動きを封じられ、それなりの量の魔力を消耗させられてしまった。


 だが、消耗したのは、ゲドの使途側だけではない。対魔作戦群の方も、粘臭弾を大量に消耗し、残弾が僅かという状況に陥りつつあった。

 草原の様な演習場のフィールドの中、対魔作戦群の隊員達は、ゲドの使途の魔法使い達と、二百メートル程の距離を取り、対峙していた。


 魔法使い達は、創造魔法で造り出した障壁や、現象魔法で発生させた現象のセフィルを纏って身を守りながら、障壁や自分達の身体に付着した、粘臭剤の除去を行っていた。

 耐え難い悪臭を放つ、黄色いジェル状の接着剤を、浄化魔法などで除去するのである。


 対魔作戦群の隊員達は、駐屯地から移動して来たばかりの、迷彩塗装の軽装甲機動車から、補給を受けている最中だ。

 補給といっても、既に粘臭弾は殆ど残されていないので、予備の装備である通常のグレネード弾の補給しか、受けられないのだが。


 軽装甲機動車の近くに停車しているバギーカーの、運転席の後ろにある銃架には、96式40ミリ自動てき弾銃が、設置されている。

 大きなフィルムケースがセットされてる、黒い映画撮影用のカメラを思わせる外見の、グレネードランチャーだ。


 フィルムケース風の弾倉に、グレネード弾を装填しながら、迷彩服姿の隊員が愚痴を吐く。


「――こんな通常弾で、どうにか出来る様な連中じゃないでしょ」


「仕方無いだろ、ドリアン殆ど使い切っちまったんだし」


 停車しているバイクに跨っている、ヘルメットと防臭マスクをかぶった迷彩服の隊員は、グレネード弾の装填を終えたばかりのアーウェン37を、魔法使い達の方に向けて構えて見せながら、言葉を続ける。


「近隣住民の避難も、研究所からの機材や資料の持ち出しも、まだ終わってない現状、退く訳にもいかないんだから、俺達はこいつでやるしか無いんだ。違うか?」


「そりゃ違わねぇけどさ……時間稼ぎにもならない気がするけどね」


 96式40ミリ自動てき弾銃の弾倉に、グレネード弾の装填を終えた隊員は、愚痴を吐きながら、腕時計を覗き込む。

 時間を確認したのではなく、腕時計の表示板に、時間と共に表示されている、防臭マスクのフィルターの状態を確認したのだ。


 ドリアン・アタックを行う際、対魔作戦群の隊員が装備する防臭マスクは、新規に開発された特別製であり、粘臭剤の悪臭を防げる、現時点では唯一の防臭マスクといえる。

 ただし、フィルターが短時間しかもたない欠点があり、無線で防臭マスクとリンクしている腕時計で、フィルターの状態が確認出来る様になっている。


 フィルターの効果が持続する、残り時間は五分弱だと、腕時計には表示されていた。


「フィルターも、そんなには持たないか……」


 腕時計を確認しつつ、隊員が呟いた直後、軽装甲機動車の近くに停車しているバギーの運転席にいる、迷彩服に身を包んだ、三十代中頃の壮健な男……指揮官である、南雲洋司なぐもようじ一等陸佐が、無線機を手にしながら声を上げる。


FOエフオーから連絡が入った! 魔法使い共が、そろそろドリアンの汁の除去を終える!」


 洋司の言うFOとは、戦場の前線で敵や戦況を観測している、前進観測班の事であり、ドリアンの汁とは、粘臭剤の事である。


「総員、攻撃準備に入れ! 攻撃はドリアンが残ってる連中からだ!」


 命令を受けた隊員達が、一斉に動き出し、攻撃準備に入る。

 補給を終えた隊員達が、次々と自分のバイクやバギーカーのエンジンをかけ始めたので、あちらこちらでエンジンが、唸り声を上げ始める。


 エンジン音に負けぬ大声で、洋司は指示を出す。


「演習通り、通常弾しか持っていない連中は、足場を崩すのに専念しろ! 飛べない奴等くらいは、それで多少は抑えられる!」


 通常弾で魔法使いを倒すのは、不可能に近いとはいえ、足場を徹底して崩すのに利用すれば、ある程度は魔法使い達の行動を、阻害出来る可能性がある。

 粘臭弾を使い切っても、対魔作戦群が戦闘継続の必要がある場合、足場である地面を攻撃し続けて、魔法使い達の行動を阻害する手筈になっている。


 洋司の言う通り、空を飛べる魔法使い相手には、無力な策なのだが。


「魔法少女も、程無く到着する筈だ! それまで何とか、持ち堪えろ!」


 そう言い放った直後、洋司が手にしている無線機に、再びFOから連絡が入る。


「魔法使い共が、ドリアンの汁の除去を終えました!」


 連絡を聞いた洋司が、攻撃命令を下そうと、口を開いたその時、突如……百メートル程離れた辺りで、爆発が発生。爆音は大気を震わせ、土煙が舞い上がる。


 対魔作戦群とゲドの使徒は、二百メートル程の間合いで、対峙している状態なのだが、爆発が起こったのは、両陣営の中間地点辺りであった。




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