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112 女の子だったら、みんな好きだよ、この手の話題

「魔法少女になるのを、あんなに嫌がってたイチが、魔法少女になるなんて、驚いたよ」


 そんな凛宮の言葉に、当たり前だと言わんばかりの口調で、一刀斎は言葉を返す。


「仕方が無いだろ、親父の命を助ける方法、他に考え付かなかったんだから」


「イチが魔法少女になった事にも驚いたけど、一番驚いたのは、魔女カリプソの正体が、北村先生だったって事だよね」


「――それは、まぁ……確かに」


 カリプソ……藤那の話題に触れたく無かった一刀斎は、複雑そうな表情で、言葉を濁す。


「イチ――北村先生の事、好きだったんでしょ?」


 内心は穏やかではないのだが、努めて気楽な口調で、凛宮は一刀斎に問いかける。


「――お前、その手の話題、好きだな」


 一刀斎は答を返さず、そんな事を訊きたがる凛宮への感想を、呆れ顔で口にする。


「女の子だったら、みんな好きだよ、この手の話題」


「そんなもんかね……」


「誤魔化さないで、答えてよ。北村先生の事、どう思ってたの?」


 今度は、気楽な風を装い切れない感じで、凛宮は一刀斎に訊ねる。


「――関係無いだろ、お前には」


 それでも答を返さない一刀斎に、凛宮は不満そうに言い放つ。


「北村先生……悪い人なんだから、好きになっちや駄目なんだよ」


(悪い人……なんだよな、やっぱり……)


 基本的には、凛宮の言う通りなのだと、一刀斎にも分っている。

 しかし、藤那が魔女カリプソになった経緯を知っている一刀斎は、そう簡単に割り切る事が出来なかった。


「割り切るしか、無いんだろうけどさ……」


 一刀斎の呟いた言葉の意味が理解出来ず、凛宮は怪訝そうな顔をする。


「――割り切るって、何を?」


 気になるのだろう、凛宮は問いかけるのだが、一刀斎は何も答えず、通学路を歩き続ける。

 凛宮はしつこく訊き続けたものの、一刀斎に答える様子が無いので、諦めて別の話題に切り替える。


 普段通りの、クラスメートやタレントに関する、他愛の無い話題について話ながら、一刀斎と凛宮は、通学路を歩き続ける。

 途中、一刀斎は幾度と無く、通学路や近辺にいる人々に指差され、噂話の対象となる。


 人々は既に、惣左衛門の息子である一刀斎が、新たなる魔法少女となったのを、知っているのだ。

 昨日発生した、惣左衛門と一刀斎に関する事件は、テレビのニュース番組など、様々なメディアを通して、詳細に報道されていたので。


 惣左衛門の息子の一刀斎が、銀の星教団の幹部である、魔女カリプソに攫われた事。

 しかも、カリプソの正体が、一刀斎を教える音楽教師だった事。


 息子を人質に取られた惣左衛門が、マジックオーナメントを外し、魔法少女を引退した事。

 只の人間に戻り、瀕死の重傷を負いながらも、惣左衛門がクロウリーを倒して、魔法教典であるケマの書を破壊し、銀の星教団を壊滅に追い込んだ事。


 惣左衛門が身に着けていたマジックオーナメント、セフィロトの首輪を装着し、一刀斎が魔法少女となった事。

 魔法少女となった一刀斎が、死を目前にした惣左衛門を、癒しの魔法で救った事。


 そして、クロウリーやカリプソなど、銀の星教団の残党達が、魔法教典が破壊された為、薬物処理はされずに済んだものの、全て魔法拘置所に送られた事。

 カリプソに倒され、重傷を負った柊は、榊によって治療された事……。


 こういった様々な出来事に関する情報は、日本中どころか世界中の人々に、報道機関やインターネットを通して、伝えられたのである。

 世界最強の魔法少女、惣左衛門が引退するという事実は、それ程に大きなニュースだったのだ。


 無論、一時期は日本を転覆させかねない程の勢力を誇った、銀の星教団が壊滅したという事実も……。

 シュタイナー協定を破り、惣左衛門に魔法少女を辞めさせた事に関しては、魔法主義者達の間でも、賛否が真っ二つに分かれている。


 魔法主義革命にとって、最大の障壁である鬼宮惣左衛門を排除するには、他に手段は無かったと、クロウリーや銀の星教団を支持する者達も多ければ、非戦闘員である子供を誘拐し、交渉の材料としたクロウリー達を、非人道的だと避難する者達も多い。

 この件に関して、魔法主義者達の間での評価が定まるまでは、時間を要するだろう。


 魔法の多重発動を目指し、二重発動を実現したジョーカーに関する情報は、その全てが完全に隠蔽された。

 規格外犯罪対策特別委員会と規格外犯罪対策局、そして日本政府のごく一部の人間達だけが、その存在を知らされ、今後どの様に関連情報を扱うべきか、これから検討に入る段階である。


 惣左衛門が使った、魔穢気に関わる情報も、その全てが隠蔽されているのだが、隠蔽したのは政府ではなく、惣左衛門など鬼宮家の者達だ。

 穢気を使う技自体が、鬼宮一族にとっては秘すべき存在なので、穢気から派生した魔穢気に関する技も秘すべきだと、魔穢気の存在自体を、惣左衛門達は政府にも秘したのだった。


 クロウリー達を倒した手段に関しては、未完成であったジョーカーが崩壊した隙を突き、鬼伝流の武術で倒したが、瀕死の状態で必死だった為、詳しくは覚えていないと、惣左衛門は誤魔化した。

 一刀斎とも、口裏を合わせた上で。


 惣左衛門達が何かを隠しているのは、政府側も察している。

 だが、一刀斎が誘拐されるに至った経緯に関して、政府側の瑕疵かしといえる部分が多かった為、その誘拐が為された結果、惣左衛門が使った何等かの手段に対して、問い質し難い状況となってしまった。


 それ故、魔穢気に関して秘するという、惣左衛門達の判断を、政府側も事実上追認するしかない状況なのだ。

 もっとも、鬼宮家の人間以外、まともに扱える様な技ではないので、仮に政府側が魔穢気の存在を知ったとしても、何の役にも立ちはしないのだが。


 兎に角、ジョーカーや魔穢気など、一部の情報を除き、昨日……惣左衛門や一刀斎の身に起こった、様々な事件に関する情報は、日本どころか世界中の人々が、既に知っているといえる状況となっていた。


 だからこそ、セフィロトの首輪を受け継ぎ、新たなる魔法少女となった一刀斎は、通学路や近辺にいる人々から指差され、噂話の対象となってしまっているのである。




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