011 魔法は大雑把に、現象魔法、創造魔法、能力魔法の三種類に分類される
実は、資産家のシュタイナーは、魔法主義を唱える十年以上前から、数百億円の私財を投じ、魔法の研究を続けていたのである。
そして、シュタイナーは研究の為に、世界中から数千という数の、大量の魔法書を掻き集めていた。
無論、殆どの魔法書は、単なる偽物だったのだが、一冊だけ、本物の魔法書が紛れ込んでいた。
それが、とある中世の地下遺跡から発見された、「レヴィの書」である。
真の魔法書、レヴィの書を手に入れ、研究を進めた事によって、シュタイナーは魔法の存在を突き止めた。
しかも、自ら魔法を習得し、魔法使いとなったのだ。
人間には本来、精神エネルギーを発生させる機能が、備わっていた。
しかし、通常の人間の場合、この精神エネルギーの発生機能は退化し、眠ったままになっている場合が多く、利用が不可能な状態になっている。
この眠れる精神エネルギー……魔力を活用して、現実に干渉し、影響を与える技術こそが、シュタイナーの突き止めた魔法の正体だった。
魔力を発生させる能力を、何等かの形で目覚めさせる……魔力の解放に成功した人間は、魔法の呪文を唱える事によって、現実に魔法が使えてしまうのだ。
魔力が解放された人間が呪文を唱えると、魔力がセフィルと呼ばれる高次エネルギーに変換されると同時に、魔法陣と呼ばれる魔法回路が出現する。
セフィル自体は、何の効果も無い、単なるエネルギーなのだが、魔法陣にセフィルを投入すると、セフィルに属性が与えられ、現実に干渉する力を持つ様になるのだ。
魔法は大雑把に、現象魔法、創造魔法、能力魔法の三種類に分類される。
一部、例外的な特殊魔法も存在するが、数は少ない。
現象魔法は、様々な現象を引き起こす魔法である。
星形の現象魔法陣を用い、炎や風、雷など、様々な自然のエレメントの属性をセフィルに与え、属性を与えられたセフィルによって、炎や風、雷などの現象を発生させ、操作する魔法なのだ。
創造魔法は、様々な物体を造り出す魔法である。
丸い創造魔法陣を用い、セフィルに様々な属性を与えて材料とし、構成する事により、様々な物体を造り出す事が出来る。
能力魔法は、様々な能力を、魔法使いに与える魔法である。
十字形の能力魔法陣を用い、特定の能力を人に付与する属性をセフィルに与えた上で、魔法陣自体を小型化し、胸に吸着させる事により、魔法使いは様々な能力を得られるのだ。
この三種類の魔法によって、発生させる現象、造り出す物体、得られる能力は、呪文が解析された範囲内に限られる。
つまり、エメラルドを造り出す創造魔法の呪文は解析されているので、創造魔法によって、セフィル製のエメラルドを造り出す事は出来るのだが、オパールを造り出す呪文は解析されていないので、セフィル製のオパールを作る事は出来ないのである。
他にも、様々な制限が、魔法には存在する。
魔法を実行するのに必要なだけの魔力を、魔法使いが持っていなければ、魔法を発動させる事は出来ないし、特定の人間以外、使う事が出来ない、使用者制限魔法と呼ばれる魔法も、数多く存在するのだ。
こういった様々な種類の魔法を、人間が使う為には、眠ったままの魔力を、解放されなければならない。
無論、魔法を身に付ける事に成功したシュタイナーは、人間の魔力を解放する方法を、発見していた。
シュタイナーが発見した、魔力を解放する方法……それは、真の魔法書に触れる事だった。
真の魔法書に触れるだけで、人間の魔力は解放されるのである。
真の魔法書であるレヴィの書を手に入れ、研究の為に触れたシュタイナーは、潜在的に持っていた、強力な魔力を解放された。
そして、レヴィの書を研究して、魔法の技術を修得し、真の魔法使いとなったのだ。
しかし、レヴィの書によって、シュタイナーが得たのは、魔力と魔法の技術だけでは無かった。
実は、彼が提唱する事になった、魔法主義という思想……政治的イデオロギー自体が、レヴィの書から与えられたものだったのである。
実は、レヴィの書には、触れた者の魔力を解放するのと同時に、触れた者の心を、魔法主義思想に洗脳するカがあったのだ。
魔法使い達が人類を支配し、科学文明を放棄して魔法文明社会を実現するという、魔法主義イデオロギーは、レヴィの書に触れた事により、シュタイナーの精神に刷り込まれたものだったのである。
要するに、シュタイナーは魔法を使う能力を得る代償として、レヴィの書に洗脳されていたのだ。
そして、この洗脳効果は、全ての人間に対して有効だった。
こういった、魔法主義思想に人を洗脳する効果を持つ魔法書は、魔力解放能力や洗脳能力を持たない、他の普通の魔法書と区別する意味で、魔法教典と呼ばれている。
現代において、初めて存在を確認された魔法教典が、レヴィの書という訳だ。
魔法使いとなる代償に、レヴィの書に洗脳された結果として、魔法主義を唱える事になったシュタイナーは、自らレヴィの書を使って、多数の人間の魔力を解放しつつ、魔法主義思想に洗脳し、魔法使いの同志とした。
その上で、「シュタイナー魔法革命機構(SMRO……Steiner Magic Revolutionary Organizationの略)」という名の魔法主義革命家団体を組織し、魔法主義革命を実行に移し始めたのである。