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109/124

109 ――何か方法は? 親父を助ける方法は無いのか?

 倒れた惣左衛門の元に、駆け付けた一刀斎は、惣左衛門の身体を見て、愕然とする。

 全身に、雷撃によると思われる火傷があり、特に右脚と左腕の火傷は酷い。


 火傷というよりは、焼け焦げて炭化している部分もある。

 まともに動かないのが一目で分かる程の酷い痛手を、惣左衛門の右脚と左腕は負っていた。


 火傷も酷いが出血も酷く、身体中が血に染まっている。

 胸の傷からの出血も酷いが、更に酷いのは、左脇腹や脇の下辺りに穿たれた、複数の穴からの出血である。


 惣左衛門が致命的なダメージを、その身に負っている事が、一刀斎には一目で分かった。

 ほんの少し前まで、この身体が動いて戦っていたのを、一刀斎は目にしていた。だが、その記憶が信じられぬ程、惣左衛門の身体の状態は酷かった。


 事実、クロウリーの放った雷撃と、スパイクによる刺傷は、惣左衛門に致命傷を与えていた。

 惣左衛門は致命傷を負ったまま、ケマの書を破壊するまで、気力を振り絞り、無理矢理身体を動かしていたのである。


「親父!」


 一刀斎は、惣左衛門の身体を揺すってみるが、反応は無い。

 既に死んでいるのかも知れないと思った一刀斎は、血で滑る惣左衛門の首筋に、恐る恐る手を当てて脈を計る。


 脈は弱いが、心臓は動いていた。

 惣左衛門が生きていた事に、一刀斎は少しだけ安堵する。


 しかし、惣左衛門は生きてはいるが、死が間近まで迫っているのは、確実だった。

 このまま何の処置も施さなければ、数分で死を迎える事は間違い無い、瀕死の状態なのだ。


 父親の命の危機に、一刀斎は焦り、狼狽うろたえる。


「――何か方法は? 親父を助ける方法は無いのか?」


 一刀斎は必死で頭を巡らせるが、何のアイディアも思い付かない。

 近くに医者もいなければ、短時間で病院に連れて行く方法も無い。


 癒しの魔法で、惣左衛門を治療出来る魔法少女も、近くにはいない。

 通信手段が使えない、DZPMの地下では、魔法少女を呼ぶ事も出来ない。


 瀕死の惣左衛門を助けられそうな人間が、身近にいない上に、助ける事が出来る人間に、助けを求める事も出来ないと、一刀斎は考えたのだ。

 一刀斎にとって、手詰まりの状況なのである。


「俺が魔法を使えたら、親父の命を救えるのに……」


 惣左衛門の身体を見詰めながら、一刀斎は口惜しげに呟く。

 呟きながら、惣左衛門の傍らに、セフィロトの首輪が落ちている事に気付く。


 ランタンシールドのノズルを封じ、暴発を引起こした後、セフィロトの首輪はクロウリーの近くに落下していた。

 直後、惣左衛門がクロウリーの元に突撃して来て、その場で数秒間の戦いが続いた後、まずはクロウリーが倒れ、続いて惣左衛門が倒れた。


 つまり、セフィロトの首輪が落ちた場所の近くで、惣左衛門は倒れたのである。

 倒れた相棒を見守るかの様に、セフィロトの首輪は、今も惣左衛門と共に在ったのだ。


 そんなセフィロトの首輪を目にして、惣左衛門の命を救えるかもしれない方法が、一刀斎の頭に閃く。


「魔法、使えるかも!」


 一刀斎の心に、希望の光が射し始める。

 一刀斎は慌てて、セフィロトの首輪を拾い上げる。


「俺にレベルS以上の魔力があれば、これを使って、魔法少女になれるんだ!」


 魔法少女になれば、癒しの魔法を使う事が出来るので、セフィロトの首輪を使って、一刀斎自身が魔法少女になれば、一刀斎は癒しの魔法で、惣左衛門の命を救える事になる。

 一刀斎の頭に閃いた、「惣左衛門の命を救えるかもしれない方法」とは、一刀斎自身が魔法少女となり、魔法で惣左衛門を救う方法だったのだ。


 レベルS以上の強力な魔力を、自分が持っているという自信は無かったし、魔法少女になる事にも、一刀斎は抵抗感がある。

 しかし、今の一刀斎にとって、自信の無さも抵抗感も、父親の命を助けたいという思いに比べれば、些細な事でしか無かった。


「迷ってる時間なんか無いっ!」


 一刀斎はセフィロトの首輪を、手際良く装着する……魔法少女になれる様に、心の底から願いながら。

 素早く装着を終えた後、何も起こらぬまま数秒が過ぎ、一刀斎の焦りがピークに達した時、一刀斎の足下が、金色の光を放ち始める。


 複雑な紋様と魔法文字群に埋め尽くされた、現象魔法陣と創造魔法陣、そして能力魔法陣が混ざり合ったかの様な、金色の複雑な魔法陣が、一刀斎の足下に現れたのだ。


(ま、魔法陣だ!)


 魔法陣に記された、金色の魔法文字群は、魔法陣から飛び出して、一刀斎の身体に貼り付き始め、ほんの数秒で一刀斎の全身を、金色に染め上げてしまう。

 一刀斎の身体を覆い尽くした、金色の魔法文字群は、眩いばかりの強烈な閃光を放った後、金色の魔法陣と共に、溶け崩れる感じで消え去った。


 魔法陣と魔法文字群……そして、光が消えた後には、魔法少女だった頃の惣左衛門と、髪型以外は瓜二つの少女が現われた。

 一刀斎は、魔法少女となったのである。


「成功……したんだよな?」


 自問しつつ、一刀斎は自分の胸を触ってみる。

 魔法少女……つまりは、少女の身体になったのを確認するには、そうするのが手っ取り早いと、一刀斎は考えたのだ。


 むにゅっとした柔らかい感触を、手で感じるのと同時に、表現し難い微妙な感覚を胸に覚え、一刀斎は赤面してしまう。


「――って、恥ずかしがってる場合かよ!」


 胸を触る事により、自分が魔法少女になれたのを確認した一刀斎は、即座に惣左衛門の方を向く。

 そして、伊織を治療した時の、惣左衛門の姿を思い出し、一刀斎は真似をし始める。


「ノウビリティ! 我がセフィルよ、癒しの力の源となれ!」


 能力魔法の発動コマンドを宣言し、癒しの魔法と呼ばれる、治癒能力を得られる魔法を指定した一刀斎の足下に、十字形の能力魔法陣が現れる。

 同時に、一刀斎の魔力がセフィルヘと変換されて、セフィロトの首輪にチャージされる。


 セフィルをチャージし、金色に輝くセフィロトの首輪の、目に似た紋様から、セフィルの光線が能力魔法陣に向けて放たれる。

 能力魔法陣は金色に輝きながら縮小し、一刀斎の胸の中央に付着する。


 胸に金色に輝く十字が刻まれれば、能力魔法は完成である。

 癒しの魔法を使う能力を、一刀斎は得たのだ。


「我が父を癒せ!」


 一刀斎が力強く命ずると、胸の十字が金色の光……癒しのセフィルを、瀕死の重傷を負った惣左衛門の身体に、照射し始める。

 金色に輝く癒しのセフィルは、惣左衛門の身体を、優しく包み込み始めた……。



    ×    ×    ×





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