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106/124

106 ――今……仕留めないと、クロウリーを倒すチャンスは、もう無い!

(やったか?)


 惣左衛門は顔を上げ、クロウリーの方に目をやる。

 黒い袖に包まれた右前腕を露出させ、驚きの表情を浮かべているクロウリーの姿が、惣左衛門の目に映る。


 右前腕が露出しているのは、ランタンシールドが篭手の部分まで含め、バラバラに分解し、弾け飛んでしてしまったから。

 雷撃が止んだ中、立ち尽くしているクロウリーの周囲には、ランタンシールドの部品が四散している。


 そんなクロウリーの姿を目にして、自分の策が成功した事を確信した惣左衛門は、心の中で喝采する。

 セフィロトの首輪に触れながら、惣左衛門が思い付いた「一つの策」とは、ジョーカーのランタンシールドを暴発させて、バラバラに分解し、クロウリーの右前腕を露出させた上で、魔穢気による攻撃で仕留めるという策であった。


 セフィロトの首輪を手裏剣の様に放ったのには、二つの目的があった。

 魔法攻撃を防ぎつつ、クロウリーに接近する為の道を作り出すのが、一つ目の目的であり、セフィロトの首輪をランタンシールドのノズルに打ち込み、ランタンシールドを暴発させるのが、二つ目の目的だった。


 ランタンシールドのノズルは、拳銃で言えば銃口に相当する。

 クロウリーが魔法攻撃を放ったタイミングで、ノズルを塞いでしまえば、銃口を防がれた拳銃が暴発する様に、ランタンシールドを暴発させられるのではないかと、惣左衛門は考えたのである。


 魔法攻撃で放たれるセフィルは、ジョーカーを攻撃対象とはしていない筈なので、もしもジョーカーが完成に至っていたのなら、ノズルを塞いでも暴発には追い込めなかったかもしれない。

 だが、現時点でのジョーカーは未完成品であり、クロウリーも魔法を完全に制御出来ている訳ではない。


 だからこそ、強めの雷撃を放った時、ランタンシールドから剣のパーツが、外れてしまったのだ。

 剣のパーツが外れたのを目にしていたので、クロウリー自身の攻撃魔法により、ジョーカーのパーツが分離し得る可能性に、惣左衛門は気付けたのである。


 惣左衛門の目論見通り、手裏剣の様に放たれたセフィロトの首輪は、ランタンシールドを暴発させてバラバラにして、黒いジャケットの袖に覆われた右前腕を露にした。

 クロウリーに近付く為の道も、切り開いてくれた。


 だが、全てが惣左衛門の目論見通りに、行った訳ではない。

 クロウリーに向かって突進する最中、雷のセフィルによる攻撃を、ある程度受けてしまうのは、計算の内であったのだが、右脚を完全にやられてしまったのは、惣左衛門としても計算外であった。


 ランタンシールドが暴発し、雷撃が止むのを待ってからであれば、そこまでのダメージを、惣左衛門は受けずに済んだかもしれない。

 それでも、雷撃が止むのを待たず、セフィロトの首輪が切り開いた道を、惣左衛門が突進したのには、理由がある。


 雷撃が止むのを待ってから、クロウリーに向かって突撃したのでは、ジョーカーによる防御を剥ぎ取った右前腕を、再びクロウリーにより、創造魔法で守られてしまう可能性が高い。

 右前腕を守る何かを、クロウリーなら僅かな時間で、創造魔法により作り出せてしまうのだから(ランタンシールドだろうが、他の何かだろうが)。


 惣左衛門とクロウリーの間合いは、百メートル程離れていた。

 魔穢気疾風の射程距離は十メートル程度、明らかに届かないので、クロウリーがランタンシールドを失っていても、惣左衛門には魔法発動を妨害出来ない。


 危険を冒して、雷撃の最中さなかを突進してでも、詰められるだけ間合いを詰めておかなければ、ランタンシールドを崩壊させた後に発生する、絶好のチャンスを生かせない。

 その事が分かっていたからこそ、惣左衛門は自分が無事では済まず、相打ちになるだろう覚悟を決めた上で、この策を実行に移したのである。


 今現在、惣左衛門とクロウリーの間合いは、二十メートル程開いている。

 ランタンシールドの暴発により、雷のセフィルは周囲に飛び散り、雷撃が無駄撃ちされたも同然の状態となり、失われてしまった為、雷の魔法は自動解除されてしまっていた。


 ランタンシールドだけでなく、雷のセフィルを失ったせいで、クロウリーの右前腕部分は、シドリの戦闘服を除いて、魔法防御を失った状態にある。

 しかも、クロウリー自身、予期せぬ暴発による精神的なショックは大きく、茫然自失と言える状態だ。


 惣左衛門からすれば、絶好のチャンスといえる状態だが、すぐにクロウリーは自分を取り戻し、何等かの方法で、失われた右前腕の魔法による防御を、取り戻すだろう。

 すぐにでも仕掛けなければ、惣左衛門はチャンスを生かせない。


(――今……仕留めないと、クロウリーを倒すチャンスは、もう無い!)


 既に満身創痍といえる状態であり、左腕と右脚は全く動かない。

 雷のセフィルを食らって負った、身体中の傷の激痛に苛まれながらも、惣左衛門は右腕と左脚だけを使い、必死で起き上がる。


 惣左衛門は左脚に気を集め、その力が限界まで高めると、左脚だけの跳躍力で、クロウリーに向かって跳躍する。

 片脚だけの跳躍であるに関わらず、気の力で人間離れした跳躍力を得た惣左衛門は、極端な前傾姿勢を取りながら、砲弾の様にクロウリーに向かって突き進む。




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