105 親父!
クロウリーが放った雷のセフィルを、セフィロトの首輪は完全に弾き返しながら、クロウリーに向かって突き進む。
すると当然、クロウリーと惣左衛門の間に、雷のセフィルが存在しない空間が、作り出される事になる。
惣左衛門は魔法少女になる直前、マジックオーナメントに関して、規格外犯罪対策局の研究員から、色々と教えられた上、様々な実験映像を見せられた。
マジックオーナメントは元々、無敵といえる程の防御能力の高さから、魔法攻撃に対する防御手段開発の為の、研究素材となっていた。
マジックオーナメントの本来の能力が明らかになって以降も、その類の研究は継続されていた。
中でも、レベルS以上の魔力保有者しか使えないと推測され、使用者がいなかったセフィロトの首輪は、研究対象になり続けていた。
惣左衛門が見たのは、魔法少女が現象魔法で発生させた、雷や炎などの魔法攻撃を、セフィロトの首輪が完全に弾き返してしまう、研究の為の実験映像だ。
その時、惣左衛門が目にした映像では、セフィロトの首輪は、雷や炎のセフィルを弾き返していたのだが、ただ弾き返していただけでは無かったのである。
弾き返された雷や炎のセフィルが、セフィロトの首輪から離れる際、周囲のセフィルを巻き込んで、その流れを変えてしまっていたのだ。
セフィロトの首輪から、セフィルが離れる形の流れに。
その結果、魔法攻撃を受けた側とは反対側に、魔法攻撃が届き難い空間が発生するので、事実上の盾や防御障壁の様な役目を、セフィロトの首輪は果たせるのだ。
丁度、人を一人くらいは、魔法攻撃から守れそうな程の。
セフィロトの首輪に限らず、マジックオーナメントは全て、同様の魔法防御能力を持っていた。
この防御能力が存在するが故に、マジックオーナメントは魔法攻撃に対する防御手段開発の為の、研究素材となっていたのだ。
ちなみに、魔法少女が装着している際は、この周囲のセフィルの流れを変える現象は、発生しない。
マジックオーナメントが弾き返したセフィルの多くが、魔法少女の身体に当たってしまい、セフィルの流れを形成し難いのが、その原因である。
魔法少女となる前に教わった、こういったマジックオーナメントやセフィロトの首輪に関する知識や、目にした実験映像を、セフィロトの首輪を手にして思案した際、惣左衛門は思い出した。
そして、セフィロトの首輪と手裏剣術を組み合わせ、活路を開く策を思い付いたのである。
惣左衛門の狙い通り、手裏剣術により放たれたセフィロトの首輪は、クロウリーに向かって飛翔しつつ、雷のセフィルを弾き返した。
それだけではなく、セフィロトの首輪の周りの、雷のセフィルの流れを変えて、人一人が通れそうな程の、魔法攻撃が届き難い空間を作り出した。
四宝の神殿を埋め尽くす程の、広範囲に放射された雷のセフィルの中を、セフィロトの首輪はクロウリーに向かって飛びながら、惣左衛門が移動する為の、通路となる空間を作り出すのだ。
その空間の中を、惣左衛門は気の力を使い、人の限界を超えた速さで、セフィロトの首輪を追い疾走する。
クロウリーの放った雷のセフィルは膨大であり、通路となる空間は狭い。
故に、魔法攻撃は「届かない」訳ではなく、「届き難い」だけなので、通路を突き進む惣左衛門は、「俺も無事じゃ済む訳はない」と考えていた通り、無傷という訳には行かない。
直撃と言える程の雷撃は受けずに済むのだが、雷のセフィルの飛沫を、惣左衛門は身体の各所に食らってしまう。
身に浴びた雷のセフィルに、皮膚や筋肉を焼かれ、惣左衛門は衝撃と激痛を覚える。
苦しげに呻き声を上げながら、身体を盾にして、惣左衛門は背後に回した右腕を守る。
攻撃に使う為の右腕だけは、やられる訳にはいかないからだ。既に動かぬ左腕と、右胸や左脇腹などに、次々と雷のセフィルを食らった後、とうとう惣左衛門は右の脛を……雷撃に貫かれる。
右脛を貫いたのは、直撃という程ではないのだが、細かく枝分かれした細い稲妻。
雷のセフィルの飛沫を、遙かに上回る威力がある。
流石の惣左衛門も、激痛を堪えられず、悲鳴を上げてしまう。
ジーンズは雷撃により、一瞬で焼け焦げ、露出した右の脛辺りは、痛々しく赤黒く焼け焦げていて、惣左衛門が動かそうとしても、既に膝から下は動かない。
(畜生! 右脚は、もう駄目か!)
惣左衛門の危機に、一刀斎は悲痛な大声を上げる。
「親父!」
既に満身創痍となっている上、右脛をやられてしまい、右脚が動かせなくなった惣左衛門は、走る事すら出来なくなってしまった。
そんな姿を目にすれば、惣左衛門の敗北が決ったと思い、息子の一刀斎が悲痛な声を上げるのも、当たり前だろう。
だが、まだ惣左衛門の敗北は、決ってはいなかった。
一刀斎が声を上げた直後……今度はクロウリーが、悲鳴を上げたのだ。
突如、クロウリーが右腕に装着していたランタンシールドが、爆発音を響かせながら、弾け飛んでバラバラになったのである。
ランタンシールドが壊れた訳ではなく、部品の接続部分が外れて、四散したという感じに。
雷撃を放っていた最中、ランタンシールドが弾け飛んでしまったクロウリーにも、戦いを目にしていた一刀斎にも、何が起こったのかは分からなかった。
だが、右脚をやられて、前のめりに転倒してしまった惣左衛門は、爆発音を耳にして、大よそ何が起こったのかを察していた。