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104 お前達の未来が守れるなら、上出来だ!

(やばい、すぐに攻撃が来る!)


 程無く攻撃が再開されるというのに、何も良い策が思い浮かばないので、惣左衛門は焦る。

 惣左衛門は焦りながらも、妙な違和感を覚えていた。


 何時もと何かが違う気がしていた惣左衛門は、何が違うのか、すぐに気付く。

 思案し始めた辺りから、自然と右手が首の辺りに移動していたのだが、何時もなら触れる筈の物に触れていない事に、惣左衛門は気付いたのである。


(ああ、セフィロトの首輪……もう首に締めていないんだった)


 惣左衛門は考え事をする時、セフィロトの首輪を弄る癖が、魔法少女であった間に、身に付いてしまっていた。

 だが、既にセフィロトの首輪は首から外され、ジーンズの後ろポケットに、仕舞われているのだ。


 セフィロトの首輪を、ジーンズの後ろポケットに仕舞ったのを思い出した惣左衛門は、右手をポケットに突っ込み、セフィロトの首輪を取り出す。


(よう、相棒! 何か良い手は無いもんかね?)


 一年半に渡り、共に戦い抜いて来た相棒……セフィロトの首輪に触れながら、惣左衛門は心の中で問いかける。

 セフィロトの首輪に触れて考え事をすると、不思議と良いアイディアを思い付く事が多いので、惣左衛門は思案する際、セフィロトの首輪に触れる癖がついたのだ。


 無論、セフィロトの首輪は、問いかけに答を返したりはしないのだが、セフィロトの首輪を弄りながら思案した結果、惣左衛門の頭に、一つの記憶が浮かび上がる。

 惣左衛門が初めて、セフィロトの首輪を目にした時の記憶が。


 その時に教えられた、セフィロトの首輪……というよりは、マジックオーナメントの性質についての話と、目にした実験映像を、惣左衛門は思い出す。

 その性質について思い出した結果、惣左衛門の頭は閃き、一つの策を思い付く。


(――この手なら、ジョーカーを破り、クロウリーを倒し得るんじゃないか?)


 この土壇場に、惣左衛門は逆転の策を思い付いたのだ。

 しかも、セフィロトの首輪を使う策を。


 策を思い付いた事に、惣左衛門は心の中で喝采しながら、残念そうに続ける。


(まぁ、俺も無事じゃ済む訳はないから、相打ちになっちまうだろうが……)


 惣左衛門はクロウリーから、一刀斎に目線を移す。


(お前達の未来が守れるなら、上出来だ!)


 一刀斎の姿を心に焼きつけてから、惣左衛門はクロウリーに目線を移す。

 既に呪文の詠唱を終えたクロウリーは、左手で盾を叩いていた。


 全身を巡らせていた気を右腕に集めつつ、惣左衛門は左前で身構え、右手に持ったセフィロトの首輪に、心の中で語りかける。


(これが最後だ! もう一度だけ、世話をかけるぜ!)


 すると、語れぬ筈の相棒の返事が、惣左衛門には聞こえた気がした。

 仕方が無いなとでも言いたげな、セフィロトの首輪の返事が。


 ほぼ同時に、雷の魔法を発動させ終えたクロウリーが、ランタンシールドのノズルを惣左衛門に向ける。

 ノズルから漏れる光は、初回と二回目の雷撃よりも眩い。


 今回の雷の魔法は、明らかに前回を上回る出力で、発動している。


(今だッ!)


 ノズルの口が自分の方を向き次第、惣左衛門は策を実行に移す事が出来る。

 惣左衛門は右手に持っていたセフィロトの首輪を、オーバースローで球を投げる、野球のピッチャーに似たフォームで、ノズルを狙って投げ付る。


 正確に言えば、惣左衛門は直打法ちょくだほうで、棒型の手裏剣を打ったのだ(手裏剣は「打つ」という)。

 手裏剣を殆ど回転させず、尖端が標的に当たる形で飛んで行く、手裏剣の打法が直打法。


 鬼伝流には手裏剣術もあるのだが、打つ腕に大量の気を流す事により、人間の限界を超えた射程距離を実現している。

 百メートル程度の間合いであれば、惣左衛門の場合、狙いを外したりはしない。


 重くなっている、留め具の金具部分がある側を尖端として、セフィロトの首輪が棒手裏剣の様に打たれた直後、クロウリーが惣左衛門に向けたノズルから、雷のセフィルが発射される。

 空洞内を昼間の様な明るさにする程、眩い光を発する、強烈な雷撃が、惣左衛門に襲い掛かる。


 前方全てを覆い尽くすかの様に、攻撃範囲が広い雷撃だ。

 四宝の神殿の中で、クロウリーの前方にいる限り、回避する事など絶対に不可能であろう、雷の壁の如き雷撃である。


 セフィロトの首輪を打った直後、すぐさまクロウリーに向かって、惣左衛門は疾風の様な速さで、高速移動を開始。

 視界を埋め尽くす程の雷撃が、突進する惣左衛門の前に広がっている。


 超高速で迫り来る雷の壁の如き、前回を数段上回る出力で放たれた雷撃と、高速で飛翔するセフィロトの首輪は、惣左衛門とクロウリーの中間辺りで衝突。

 雷撃の方が、遙かに速いのだが、セフィロトの首輪の方が先に放たれたので、その辺りで衝突する事になった。


 セフィロトの首輪と雷のセフィル……両者が衝突した結果、打ち勝つのはセフィロトの首輪の方。

 雷のセフィルは完全に、セフィロトの首輪に弾き返されてしまう。


 襲い来る雷撃を撥ね除けながら、セフィロトの首輪はクロウリーに向かって、一直線に飛んで行く。

 あたかも、いわしの大群の中を突き進む鮫や、雪に埋もれた道を、雪を除けながら走る、除雪車であるかの様に。


 マジックオーナメントの本体には、通常の攻撃どころか、魔法の攻撃すら、完全に弾き返してしまう性質がある。

 マジックオーナメントの、この性質の事を思い出した惣左衛門は、クロウリーに向けて、セフィロトの首輪を投げ付けたのだ。




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