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103 笑わせるなよ、鬼宮惣左衛門! 虚勢を張っているのは、貴様の方だろう!

 魔法主義革命が成功に至れば、多くの人命が失われる事になる。

 魔法主義国となった国の政府に弾圧されて、殺されたりする訳ではなく、エネルギー不足を主な原因とした、経済の完全な崩壊により、大量の餓死者が出るのだ。


 多数の魔法教典が人々を洗脳する、魔法主義と呼ばれている思想が、何時……どの様に生まれたのかは、分かっていない(シュタイナーはあくまで、その思想を現代に復活させた存在)。

 科学文明を否定している事から、産業革命以降に生まれたのではないかという説が、現在では主流だ(確たる根拠はないので、確定している訳ではないが)。


 魔法主義が理想とする社会のベースは、産業革命以前の世界、中世もしくは近世の初期辺り。

 その辺りの時代の生活をベースとして、魔法により徹底して改善し、理想的な社会を実現する……というのが、魔法主義が目指した理想だというのが、魔法主義の研究者達の共通認識となっている。


 つまり、魔法主義思想は現代ではなく、今よりも遙かに人口が少ない時代を、前提としている訳だ。

 七十億の人口を抱える地球ではなく、せいぜい数億の人口が、近代どころか近世や中世レベルの生活を維持するのが、一部の人間だけが生み出せる、魔力という精神エネルギーに依存する、魔法主義の限界なのである。


 当然、膨大な資源エネルギーを消費し、増加した現代の人口や生活レベルを、魔法主義国が維持出来る訳などない。

 魔法主義革命が成功し、魔法主義革命が成功した一部国家は、その全てが経済的に破綻に追い込まれた。


 ロシアなどの魔法主義国化した国々からは、数百万という規模の難民が流出。

 難民がもたらした情報から、魔法主義国の凄惨な実情が明らかになった。


 大抵の魔法主義国では、革命成功から二年以内に、人口の二割以上の餓死者が発生していたのだ。

 魔法主義国化してから十年以内に、餓死もしくは難民流出により、魔法主義国の人口の過半数が失われるという研究結果を、FAO(国際連合食料農業機関)が公表している。


 魔法主義革命を成し遂げ、魔法主義国を実現した魔法主義者達は、国民を殺そうとなどはしていない。

 ただし、魔法主義者達が正しいと思う事を、国家の政策として実行すると、膨大な数の国民が死ぬのである。


 ジョーカーが完成に至り、魔法の多重発動を実現する魔法技術が、他の魔法主義革命家団体に公開されてしまえば、日本どころか世界中の国々が、そんな破滅的な状況になってしまいかねないのだ。

 これからの世界の運命を、左右する程の可能性を、ジョーカーは持っていると言える。


 惣左衛門が魔法少女であれば、ジョーカーが完成に至る前にクロウリーを倒し、銀の星教団を壊滅に追い込み、ジョーカーの脅威を葬り去れただろう。

 だが、クロウリーを倒す前に、惣左衛門は魔法少女ではなくなった上、ジョーカーの実戦テストといえる戦いの相手となり、ジョーカーを完成に近付ける為の、手助けをする羽目になってしまった。


 一刀斎を助ける為とはいえ、自らの選択と行動の結果が、世界を破滅的な未来へと向かわせる、ジョーカー開発の助力となってしまっているのを、惣左衛門は自覚する。

 そして、ジョーカーの開発が成功した場合、破滅的な未来を迎えるだろう世界には、惣左衛門の家族も暮らしているのだ。


(そうなれば、俺の家族も……無事で済む訳が無いか)


 激しい自責の念に苛まれつつ、右前方……護符が描かれた壁の右下の角にいる一刀斎に、惣左衛門は目をやる。

 命懸けで守らなければならない、家族の一人である一刀斎の姿を目にして、惣左衛門は自分が今、何をすべきかを悟る。


(――ここは逃げて良い場面じゃねぇよな、どう考えても……あいつらの未来を守る為にも!)


 惣左衛門が思う「あいつら」とは、家族の事だ。

 無論、惣左衛門には家族の他にも、大切に思っている人々は沢山いるのだが、真っ先に思い浮かべるのは家族である。


 その「あいつら」の一人である一刀斎から、惣左衛門は目線を、クロウリーに移す。


(どんな手を使おうが、俺の命がどうなろうが……クロウリーを倒し、ジョーカーの存在を、葬り去らなきゃいけない場面だ!)


 身体を休めたまま、自分の様子を窺っていたクロウリーに、惣左衛門は威勢の良い声で、己の決意を言い放つ。


「お前もジョーカーも、ここでしまいだ! この場できっちりと、俺が引導を渡してやるから、ジョーカーが完成する未来なんてのは、俺が来させやしねぇ!」


「笑わせるなよ、鬼宮惣左衛門! 虚勢を張っているのは、貴様の方だろう!」


 惣左衛門にジョーカーを破れる手など無いと、確信しているクロウリーは、惣左衛門を嘲笑する。


「魔法を失い、頼みの切り札……妙な気を使う技も、ジョーカーには通じぬ今の貴様に、何が出来るというのだ?」


 そう問われた惣左衛門は、ジョーカーによる守りを破り、クロウリーを倒す方法を、頭の中から捻り出すべく、必死で思案する。


(考えろ! この世に完璧な物なんてないし、ジョーカーは未完成なんだ! 付け入る隙が、絶対に有るに決ってる!)


 この場でクロウリーを倒し、ジョーカーが完成する前に、その存在を葬りさるという決意を、惣左衛門は固めはしたが、具体的な策は何も無い。

 だが、必死で考えても、何も良い策を、惣左衛門は考え付かない。


「――無駄話が長くなったが、そろそろ試合再開と行こうじゃないか!」


 必要な休息を取れたと判断し、クロウリーは戦いの再開を宣言。

 すぐさまクロウリーは、呪文の超高速詠唱に入る。




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