010 万国の魔法使い達よ、魔法主義革命の為に戦え!
人は自分に都合が良い理想郷を、夢見がちなものである。
しかし、誰かにとっての理想郷は、他の誰かにとっては、傍迷惑な世界でしか無かったりするものだ。
誰かが理想郷を追い求める事は、他の誰かにとっての不幸へと、繋がりかねないのである。
理想郷というのは夢見るだけで、実際には追い求めない方が、多くの人々にとっては、幸いといえるのかもしれない。
だが、何時の時代も他人の迷惑など顧みず、理想郷を追い求めてしまう人達が、ある程度は存在するのも事実である。
富の遍在が問題となった、産業化社会の黎明期、自由主義型の経済体制や資本主義を罪悪視し、社会主義や共産主義を追い求め、世界を革命しようとした人々が、沢山いたように。
無論、彼等の起した革命は、失敗に終わった。
彼等の失敗は、社会主義や共産主義という政治的イデオロギーが、只の幻想であった事を、露呈させてしまったのだ。
社会主義や共産主義の幻想が崩れ去り、数十年が過ぎた二十世紀末、新たなる理想郷を掲げる政治的イデオロギーが、世界に姿を現した。
それが、魔法主義である。
『認めよう、科学文明と民主主義が、今……我等が生きる世界を繁栄させた事は、疑いなき事実であるのだから。
だが、その繁栄を謳歌した結果、世界はどうなった? 限り有る資源は使い果たされ、環境は毒され汚されたではないか!
そんな世界に生きる人々は、どうなってしまったか?
人心は欲望に蝕まれ、倫理は失われ、退廃の一途を辿ったではないか!
人倫の退廃は治安を乱し、社会に生きる人々から、平和と安定は失われてしまった!
我は皆に問おう、この様な社会は、本当に正しいのだろうか?
この様な社会を、我々人類に齎す羽目になった、科学文明と民主主義は、本当に正しいのだろうか?
我は皆に答を教えよう、その二つの問いに対する答は、どちらも否であると!
いや、否でなければならないのだと!
繁栄を謳歌する代償に、かけがえの無い世界を毒して汚した科学文明も、人々を退廃させ、不安に陥れる衆愚的な状況を齎した民主主義も、古来より進化と発展のレールの上を進み続けて来た人類の、終着駅であろう筈が無い!
科学文明も民主主義も、人類が進化と発展を続ける間に停車する、一つの駅に過ぎないのだ!
科学文明と民主主義という名の駅に辿り着いた人類は、確かに豊かにはなれたが、支払った代償も、抱えている問題も大き過ぎる。
故に、人類は科学文明と民主主義という駅を離れ、進化と発展の終着駅へと、旅立たなければならない。
人類が進むべき、進化と発展の終着駅の名は何か?
その駅の名こそが、魔法主義である!
決して世界を汚す事が無い力……魔力と、魔力を制御する技術……魔法が、全ての中心となる、究極の文明こそが魔法文明!
そして、魔法文明の社会を作り出し、維持する為の政治体制にして政治思想こそが、魔法主義である!
資源の浪費と環境の汚染を避けられない、科学文明の社会とは違い、魔法文明の社会には、資源の浪費もなければ、環境の汚染も有り得ない。
そして、魔法文明社会は、人類進化の頂点であり、優良種である魔法使い達が、独裁的に支配し……管理する事になる。
魔力と魔法を文明社会の根幹とする以上、魔力を産み出し操れる魔法使いこそが、人類の導き手となるのは、当たり前であろう。
魔法文明社会においては、魔法使い達が独裁的手法によって、人類を導く政治体制……魔法主義体制となるのが、必然なのだ。
科学文明と民主主義という、豊かさ以外に何も無い段階を捨て去り、魔法文明と魔法主義という、人類社会発展の最終的な段階へと、我等……人類が足を進めるのは、人類史の必然!
いや、神が定めた運命である!
そして、必然と運命を、現実のものにする為に、我等は何をすべきだろうか?
その問いへの答を、我は皆に教えよう!
我等がすべき事は、革命である!
万国の魔法使い達は、互いに手を取り合い団結し、革命により人類社会の主導権を得て、魔法主義革命を成し遂げ、魔法文明社会を実現しなければならないのだ!
恐れるな! 躊躇うな!
世界と人類を、究極の段階へと、進化させる事を!
我等は、その段階に至る為に、生を受けた者達なのだから!
万国の魔法使い達よ、魔法主義革命の為に戦え!
戦い勝利する事こそが、我等の革命を成し遂げる、唯一の道である!』
以上、『』内は、シュタイナー・エンゲルス著「空想的魔法主義から現実的魔法主義へ」よりの引用文である。
魔法主義は二十世紀の世紀末、このシュタイナーの著作、「空想的魔法主義から現実的魔法主義へ」が世に出た事により、産声を上げた。
無論、魔法主義という、常軌を逸した政治的イデオロギーを唱えた、オカルトマニアの資産家シュタイナーの事を、人々は嘲笑った……魔法など存在する訳が無いと。
しかし、人々の常識と予想は、裏切られる事になった。
何故なら、魔法は存在したのである。驚く事に、シュタイナー自身が魔法を修得し、人々に披露して見せたのだ。