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くたばれ宇宙兄弟

作者: タカタク

僕は夜桜を見上げている。

街のただなか、高台になった公園のベンチに座り、首を背中にがくんと曲げて、葉桜の薄紅越しに夜空を見上げている。


綺麗だ、素敵だ、雅だ、情緒豊かだ、静謐だ。


そんな美辞麗句をぼんやり頭に浮かべていると、僕の心はだんだん透き通っていく。

晩秋の夜風が心地よくそよぐベンチで、桜に混じった緑が気にならなくなってくる。


ピンクを過ぎて、雲を越え、成層圏を突き抜けて宇宙へ、星と月が僕を迎える。

子供の頃は宇宙飛行士になりたかった。英語が苦手で運動のできない僕は、宇宙兄弟を読んで馬鹿らしくなって早々にそれを諦めた。


宇宙に行くのに努力も才能も宇宙服も必要なかった。

こうして公園で夜空を見上げて、呆けて口を半開きにするだけで十分なのだ。


やがて僕は木星へと至り、そこで重力に囚われる。

足首を掴まれ、喉を締められて地球へと真っ逆さまに引きずり落とされる。


笑い声が聞こえてきた。

花見帰りの大学生グループがもっと上に階段を上った高台から降りてきたのだ。

底抜けに楽しそうで前途洋々とした笑い声は品性をかけらも持ち合わせていなくて、そんな声は重力のように僕を地上に墜落させた。


重力と引力の違いは未だによくわかっていない。

宇宙飛行士を目指していたなら知っておけという話だが、諦めてからもう20年も経っている。


2017年宇宙の旅を心地よく楽しんでいた僕を、あの大学生たちは地球へと連れ戻した。

成層圏に突入して燃え尽きれば死ぬ。小学生だって知っている。

燃え尽きた僕は星空をゆりかごにして微笑むエリート宇宙飛行士ではなくて、33歳無職のスウェット姿だ。


そんな僕は人として死んでいて、彼らはつまり高鍋裕也という宇宙飛行士を殺したのだ。


また大学生たちが笑った。男と女が半々の六人グループで、きっと彼らの中からカップルが生まれて将来有望セックスをするのだろう。


手頃な板切れで女の子を殴りつけた。

花見席の案内看板に使われていた板からは釘が飛び出ていて、ショートボブの女の子のつむじに釘が刺さった。

売れっ子声優みたいな声で笑っていた女の子はがんこちゃんみたいな声で悲鳴を漏らして、痙攣しながら動かなくなった。


僕は殺された宇宙飛行士の復讐を遂げて、少し満足してさっきまでの大学生たちと同じくらいのトーンで笑う。


そんな妄想をしながら、僕は今日もブランケットに包まったまま部屋の鍵を閉ざしている。スマホでジャンプのネタバレを読みながら。

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