表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

桜の王子様Ⅱ 8

俺はダメだって言ってるのに、

桑野くんは聞いてくれなかった。


「もう、ダメだってば、ね、桑野くん」

「うるせぇ」

「あ、あ・・・っ」



確固たる意思があるのか、

桑野くんは抵抗する俺の手を避ける。


「ねえ、桑野くん!あ、もう・・・っ、あ、ああ・・・」



ダメだって言ったのに、俺が見ている前で、

桑野くんは・・・



「ん?・・・出ろ」

「・・・え?」

「紅から電話」



桑野くんは俺に携帯電話を手渡す。

ディスプレイには紅ちゃんの名前が表示されていた。


こんな状態で電話に出させるなんて。



「も、もしもし」

『えっ・・・どなた、ですか?』

「ああ、ごめんね。桜庭だけど」

『さ、桜庭さん!?』


電話の向こうの紅ちゃんが動揺する。


それはそうだよね。

お兄ちゃんに電話をして俺が出たんだから。



でも、紅ちゃんの用件を聞くよりも先に、

俺は紅ちゃんに言いたいことがあった。



「・・・あのね、紅ちゃん」

『は、はい』



「君のお兄さん、今・・・・・・俺のカツにケチャップつけたんだけど!」



『・・・・・・は、はぁ』



桑野くんが買ってくれたお弁当の中に、カツが入っていた。

それに桑野くんは躊躇わずにケチャップをつけたんだ。


俺はソース派だから嫌だって何度も言ったのに、

すごく抵抗したのに。



「やっぱりカツにはソースだよね!」

『え・・・・・・あ、あの』

「お前はバカなのか。兄妹なんだから、紅もケチャップつけるに決まってるだろ」

「え、そ、そうなの!?」

『・・・小さい頃から、うちではケチャップなので』

「そっか、残念」



俺は、二人とは味覚が合わないみたいだ。


少し落ち込んでいると、桑野くんに携帯電話を取られてしまった。



「俺だ。・・・・・・ああ、喧嘩にはなったけど、なんとか無事だ。

 で、こいつ一人暮らしだし怪我が酷いから、今日こいつんち泊まる。

 ・・・・・・おそらく1週間くらい帰れねぇわ。親父たちにも言っといてくれ」



桑野くんが紅ちゃんに事情を説明している間に、

俺は必死にケチャップを避けてカツを食べていた。



「・・・ん、わかってる。学校行くから、なんかあったら学校で聞く・・・じゃ」



・・・え、


学校?



「なんだ?」

「桑野くん、学校来てくれるの?」


桑野くんは呆れ顔で言う。



「行きたくねぇけど、今日みたいなことがあったら困るからな」



・・・よかった。


学校に行かなくなった理由はわからないけど、

桑野くんが学校に来てくれるなら、どうだっていい。



「ありがとう、桑野くん!」



お礼を言うと、桑野くんは俺から目を逸らして、

お弁当を食べ始めた。



「あれ、桑野くんひょっとして、きゅうり嫌い?」

「別に」

「じゃあ食べたほうがいいよ。美味しいよ」

「そんなに言うならお前が食え」



桑野くん、認めてくれないけど、きっときゅうりが嫌いなんだと思う。


じゃあ、俺が食べてあげよう。


数切れあるきゅうりを、俺の方に移動させる。



すると桑野くんが、

なにもついていないカツを、俺の方へ移した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ