桜の王子様Ⅱ 7
桑野くんが靴を脱いで、
俺の横を通り過ぎたのがわかった。
このまま一人だけ居間に行くのかと思ったら、
「おい、ちょっと我慢しろ」
「え・・・?」
ひょいっと身体を持ち上げられた。
「く、桑野くん!?」
「寝室どこだ?・・・あの部屋か」
桑野くんは俺を担いだまま、寝室へ向かう。
そしてベッドの上に俺を降ろした。
「泣くならそこで泣け。しばらく来ねぇから」
そう言って、桑野くんは部屋を出て行く。
・・・バレてたんだ。
俺が、泣いてること。
泣き顔見られたくないってことを覚って、
この部屋までつれてきてくれたんだ。
桑野くんは、また、
俺を助けてくれたんだ。
「く、わの、くん・・・桑野くん!」
痛みを堪えて、無理やり身体を起こす。
足に無理やり力を入れて、歩く。
俺の叫びを聞いて、桑野くんがドアを開ける。
部屋に入ってきた桑野くんに、そのまま抱きついた。
「・・・・・・っ?」
「桑野くん!桑野・・・くん」
「・・・」
桑野くんの名前を必死に呼ぶ。
胸に顔を埋める。
身体と心で、桑野くんに縋りつく。
「・・・っと」
頭に一瞬触れた手が、
すぐに離れたのがわかった。
きっと、俺の頭を撫でようとしてくれたんだけど、
俺が怖がるって思ったんだと思う。
「・・・いい、から」
俺は顔を離して、その手を取る。
そして両手で包み込んだ。
「大丈夫、だから」
顔を上げる。
驚いた顔をしている桑野くんと目が合った。
桑野くんになら、泣き顔を見られても嫌じゃない。
本当の俺を・・・見られてもいい。
「桑野くん、なら、怖くない・・・から」
「・・・・・・」
「ごめんね、桑野くん。俺のせいで怪我させちゃって。
俺のせいで迷惑かけちゃって・・・」
涙がポロポロと零れる。
桑野くんの手を握る俺の手に、次々と落ちた。
「い、痛かったよね。苦しかったよね」
「・・・痛くねぇよ」
あ・・・
桑野くんの顔が近づいて、
俺の頬にちゅってキスした。
「痛いのはお前の方だろ。俺の盾になって殴ったり蹴られたりしてたんだから」
「桑野、くん」
「ガタガタ震えてたくせに、どこにそんな根性あったんだか」
桑野くんは呆れたように言いつつも、
さっきとは反対の頬に唇を落とす。
そして、その唇が真ん中にずれる。
「・・・すげぇ、怖かっただろ」
「・・・・・・っ」
「言えよ」
言葉は乱暴なのに、言い方は優しくて、
操られるように俺の唇が動いていく。
「・・・・・・こ、わ・・・かった」
素直に認めた俺へのご褒美なのか、
震える俺の唇が、桑野くんので塞がれる。
気のせいだと思うけど、
桑野くんが、少しだけ微笑んでいるように見えた。