桜の王子様Ⅱ 4
「うわ、だっせー。こいつ震えてやんの」
「ケンカしたことなさそうだもんな」
両隣から、俺を嘲笑う声が聞こえる。
「おい」
「・・・っ」
髪を掴まれて、顔を上げさせられる。
「これ以上痛い思いしたくなかったら、桑野紅に近づくな」
・・・どうして、
どうしてそんなこと、言われなきゃいけないんだ。
だって桑野くんが学校へ来ない以上、
俺が紅ちゃんを守らなきゃ。
「・・・い、嫌だ」
「あ?」
「お、俺は・・・紅ちゃんを、守る・・・から」
その瞬間、
強い力で胸倉をつかまれた。
腕が上げられる。
――殴られる!
「うわっ!」
後ろで声がして、どさっと倒れた音が耳に入ってきた。
「な、なんだお前」
振り向けないからわからないけど、
誰かが男子2人と戦っているようだ。
殴る音や呻き声が聞こえる。
・・・もしかして、
「・・・く、わの・・・くん?」
「桑野?」
俺の呻きに、胸倉を掴んでいた男子が反応する。
その隙に・・・
「うっ!」
俺は、その男子の急所を全力で蹴り上げた。
そして振り向く。
「桑野くん!」
「うるせぇ、あっち行ってろ!」
二人を相手に戦う桑野くんは、
俺の方を見ないで、そう叫んだ。
あっち行ってろ、って・・・
この3人に桑野くん一人で勝てるはずがない。
「う・・・っ」
殴られた桑野くんは、
ふらふらと壁にもたれかかる。
「はあ、はあ、こいつ、強ぇ」
「でも、俺らに勝てるわけねぇんだよ」
迫っていく男子たち。
「・・・・・・っ」
全身が、足がブルブル震えている。
怖い。
でも、このままじゃ、桑野くんが・・・
そんなの絶対、嫌だ!
俺は渾身の力で3人に突き進んでいく。
振り上げられる拳。
男子たちと桑野くんの間に割り込んだ俺は、
「――っっ!」
重い一撃を、正面から受けた。
「お、なんだコイツ」
「庇ったつもりなんじゃねぇの?ダッセェ」
拳が今度は俺のお腹に入る。
もう一人は足を蹴り続けていた。
「うっ、う・・・ぐっ」
「おいバカ!どけ!」
「ど・・・かない!」
何度殴られても蹴られても、
絶対に桑野くんから離れない。
――絶対に。