11 天界メンテと偽人生(キャラ設定)3
ブックマーク、PVアクセスありがとうございます。
不定期で展開も遅いですが、見守って頂けると幸いです。
「とりあえず、主人の陰謀に巻き込まれたが、敢え無く失敗。ここまでの流れをどうします?」
新しいページを開きながら、希露姫に尋ねる。
「向こうではそういう話がよくあるとは聞いたが、儂は何一つ知らんしのう。実際、有名な話として何があるんじゃ?」
「そうですね…。色恋沙汰や権力に絡んだものが殆どですね。有名なのは、オルテリオの話、ですかね。
あるところに醜い下級貴族がいた。彼の名はオルテリオ。
隣の領の美しい娘、エランテに恋をしたが凛々しい婚約者のデュルオンがいたため叶わず。そこで、奴隷を密かに集めて訓練し、エランテを攫い、デュルオンを亡き者にしようとした。
月の隠れる日、オルテリオは計画を実行したが、デュルオンに敵わず、エランテに会うことさえ叶わなかった。更に、集めた奴隷に裏切られ、全身をなますに切られて死んでしまった。
と言う話です」
「随分簡単に奴隷に殺されておるのぅ。奴隷は主人の命令に逆らえず、かつ、主人を傷つけることなど叶わんと思っておったが。三蔵法師が孫悟空につけていたような頭の輪みたいなものもないのか?」
魔法だってあるじゃろうに、と頬杖をつく希露姫に、俺は苦笑する。
「まぁ、確かにそうなんですけどね。向こうは魔法とか色々ありますけど、人の行動に強制や制限をかけられるものって殆どないんですよ。ないことはないんですが、術が難しかったり、装置が高くてみんな手を出せないんです」
そう。キルチアには三蔵法師よろしくな感じの拘束具は殆どない。あることはあるが、高い上に常に術者が装置の有効範囲内にいないと効果を発揮しないため、費用の面から見てもまず使用されないのだ。それに、奴隷の監督官になるような者に、基本魔法は使えないから。
「だから奴隷の管理方法は、基本地球の奴隷と同じだと思いますよ」
「ふーん? つまらぬのぅ。魔法使いは貴重な者じゃとは言え、ハグレみたいな奴がそんな所におるものかと思っておったわ」
「いえ、全くいません。落ちぶれた魔法使いは基本実家とかで細々と暮らしますからね。良くも悪くも賢い人達ですから、落ちぶれた後は無理をしてまで名声を取り戻そうとはしません。
そもそも、どんなにクソみたいなショボい魔法しか使えないドサンピンでさえ奴隷に関わる仕事なんて見向きもしないんです。まして、落ちぶれるだけの名声があったような有能な魔法使いが来るわけがありませんよ。万が一来たとしても、憤死した死体となって来ることは必須でしょうね」
あの金髪貧乳魔法使いはモロそのタイプと見ている。今頃ジル共々どうなっていることやら。
「冒険者ギルドにもおらんのか?」
「いないと思います。今回はまだ冒険者ギルドに入ってないので確かなことは言えませんが。
でも、そういうガッツのある人は自警団なり、騎士候補生の指南役とかをしていると思いますよ。後は裕福な家の家庭教師とか」
「落ちぶれても職はあるものじゃのう。しかもまともじゃ」
「そりゃあ、狭き門を通り抜けたスーパーエリート様ですからね。三流野郎でも重宝されますよ」
しみじみと答えれば、希露姫も納得したように頷いた。
「なるほど。ちなみに、魔法使いが奴隷を所持することはあるのか?」
「それはよくあります。実験体にされたりしてえらい目に遭わされましたよ」
聖騎士団の尋問と言う名の拷問もキツイが、魔法使いの奴隷もキツイ。生体実験のオンパレードだから。そうでなければ実験生物の世話など、ダイレクトに命に関わる仕事を命じられることが殆どだ。
「うむ、お前の話を聞く限り、奴隷商の所にいた方が比較的安全なように思えるの」
「かもしれませんね。商品でもありますから、価値のある内はそこそこな扱いを受けられますよ。それに、脱走した奴隷を探すこともまずしませんし。脱走して、奴隷解放機関で手続きさえすれば、一応自由ですよ」
「ふむふむ。そうしたら、偽記憶を作製するか。今まで使っていた話は、今回はナシにしてみよう。
あらすじはこうじゃ。
グジョウではないどこかの大陸で、非正規の剣奴隷団を使った見世物が行われていた。魔物と戦わせるもの、剣奴同士で殺し合わせるもの、兵器の実験を兼ねたもの、何でもありだ。
【お前】は、そんな剣奴同士から生まれた。所謂、生粋の奴隷だ。生まれた日も知らず、生まれた国も、言葉も知らない。名前もない。五十六号。それが【お前】を指す呼び名だった。両親はいたが、覚えていない。育ての親が、たまたまグジョウ語の読み書きが出来る男だったから、グジョウ語は流暢だ。それ以外の言葉は、よく分からない。奴隷監督は口を殆ど喋らず、鞭などで命令をし、他の奴隷も口がきけない様、声帯を切られた者が多かった。
主人から面白半分で「薄翅」を与えられ、剣奴として生活をしていると、何人かの腕の立つ剣奴が購入された。勿論、【お前】もその内の一人だ。その際、購入した主人となる男が気に食わなかったので罵倒したら、声帯を切り落とされた。
元々、気に食わない奴には徹底的に反抗する気質だったから、誰よりも過酷な目に遭わされてきた。雑務なども人一倍やらされた。それでも、心は折れなかったが。
目的地も何も知らされず、【お前】達は船に乗せられた。しかし、何らかの理由で船は沈没。【お前】は目が醒めると浜辺に打ち上げられていた。仲間は誰もいない。
浜辺を抜け、何とか人里に辿り着いたお前は、奴隷解放機関の存在を知る。折角拾った命。奴隷から脱却するため、お前は奴隷解放機関があるメルルバへ向かうが、回顧主義者に出会ってしまう。その後、よく分からないが、何者かの諍いに巻き込まれ、生死の境を彷徨い、現在に至る。
どうじゃ?」
「それなら不自然じゃないと思います。で、本当に偽記憶を仕込んでも反動とかないんですよね?」
希露姫の提案する新たな偽記憶には何の異もない。だけど、魔素を取り入れ可能にした際の苦痛が嫌でも頭をよぎり、不安になる。
「あぁ、それに関してはないぞ。強いて言うなら、現在生死の境を彷徨っていることが反動に当たるからの」
そう説明しながらも、希露姫は中空をこねるような仕草をする。恐らく、偽記憶を製作しているのだろう。何もない筈の中空が、徐々に燐光を放ち、内部では影絵のようなものがちらほら見える。
「あと、言い忘れておったが、このメンテが終われば、儂とお前は週一くらいの頻度なら夢を通して交信可能となる。
向こうの管理者の意向の一つでの。ちゃんと管理をしろとのことじゃ。まぁ、多少面倒じゃが、仕方あるまい。最低でも月一で交信する予定じゃ。精々話のタネでも考えておくが良い」
希露姫から伝えられた新たな仕様が、良いものかどうかの判断は一切つかないが、頷くしかない。まぁ、話のネタなら事欠かないだろうし。
それから希露姫は偽記憶が完成したらしく、良い笑顔で拳よりも一回り小さい、うっすらと光る球体をこちらに見せてきた。
「うむ。まぁ、こんなものじゃろう。それじゃあ、偽記憶を仕込むから良いと言うまで目を瞑っておけ。でないと人体改造ばりの苦痛を味わいかねんぞ?」
決して目をあけるものか。
希露姫の有り難すぎるお言葉でそう固く決意した。
俺は無言で頷き、いつでもどうぞ、と両手をあげる。希露姫もそれを見て、すぐに目を瞑るよう告げてきた。
額に人肌よりも暖かな球体を当てられる感触と共に、閉じている筈の瞼に映像が浮かぶ。最初は映画のようなものだったが。徐々に記憶を思い出した時に見る光景に近付いていった。
こうして映像にして見ると、ちゃんと矛盾なく構成されているのがよく分かる。しかも、語られたあらすじからも逸脱してないし。配役のキャラ達もものすごいリアリティだ。実際に会った者など一人もいないのに。神様クオリティは伊達じゃない。
そんな感慨にふけっていると、「もう良いぞ」と言う希露姫の声が聞こえたので瞼をあける。
「うむ。ちゃんと仕込めた様じゃの。そうしたら、もうじきメンテも終わる。メンテが終わり次第、お前をまた下界へ送るぞ。
っと、言っておる間に終わった様じゃの。それじゃあ、行ってこい」
希露姫の言葉と共に、俺の意識は暗転した。この感覚は、今でも慣れないなぁ。




