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異世界ヒーロー  作者: 羽崎
希露姫編
1/18

1.蛙殺しの代償は祟り

まったり更新です。


10月10日 誤字、行間訂正


 その日、何気なく足を踏み出したら蛙を踏み殺してしまった。



  別に悪意とかそんなものがあったわけじゃない。ぼんやりと歩いていたら偶々踏んでしまっただけなのだ。俺の通っていた大学は田舎の山間にある所だったから、そういうことが往々にしてあるのだ。


  しかし、俺があの時踏み殺してしまったのはただの蛙ではなかった。


  あの蛙は神様だったらしい。蛙を踏み殺した直後、「こんの不届き者めぇ!」と言う叫びと共に俺の意識と命は刈り取られてしまった。

  享年二十歳、死因は祟り。どう頑張っても保険とか絶対おりないような死に方だ。理不尽だ。しかし、本当の理不尽はここから始まった。



  祟りによって死んだ俺は、気づいたら喫茶店のような所にいた。しかも、目の前には不機嫌そうな少女。髪の色は雨蛙みたい緑色で、服装も緑色を基調とした浴衣を着ていた。


「よくも儂のおニューの服を壊してくれたな、人間め」


  腕を組んみながら少女は俺を睨みつけ、いつの間にか出現していたメロンソーダを飲みながら吐き捨てるように言った。呆然とする俺に、少女は希露けろ姫だと名乗り、更に自身は神だと告げた上で、ことの顛末を語った。


  曰く、俺は神の私物(今回は希露姫の仮の姿である蛙)を破壊した罪により、祟りを受けて死んだとのこと。その簡潔すぎる説明を聞いて俺は愕然とした。祟り神を殺した某映画の主人公でさえ、死ぬまでに期間が設けられていたと言うのに。速攻で祟り殺すなんて酷すぎる。しかも私物を壊したくらいで。あんまりだ。


「何を言うとるか、この罰当たりめ。あれはまだ一回しか着ていないおニューじゃったのに貴様が壊したんじゃ。当然の報いじゃろ」


  しかし、俺の反論など意にも介さなかった。釈然としないながらも、既に死んでしまっているためどうすることも出来ない。仕方なしに、いつの間にか出現したアイスコーヒーをチビチビ飲みながら項垂れた。心なしかしょっぱいように感じたのは気のせいではなかったと思う。


「あのー、俺はこれからどうなるんですか?」


「ん? 祟りの解放条件を満たさねばどうもこうもないわい。貴様、まさかこのまま冥府へ行けるとでも思うたか?」


「へ?」


  思わずポカンとした表情を浮かべた俺に、希露姫はやれやれと言わんばかりにため息をつきながら説明した。


「愚か者。祟りで死んだ者を冥府が迎え入れるわけがなかろう。行けたとしても、地獄が精々じゃろうて。

  よいか? あそこは静かに眠ることを許された者のための場所じゃ。祟りを受けた貴様に、その権利なぞあるわけがあるまい。ご近所迷惑じゃ。

  貴様は祟りの解放条件を満たさねばならぬ。拒否権なぞない」


  一方的に告げられる内容に思考が停止しかける。なんだよ、ご近所迷惑って。いや、それよりもすごいことを言われた気がする。冥府って死後の世界ってことだよな? そこへ行けないってどういうことだ? もしかしなくてもかなりヤバイ状態なんじゃないか? さっきまでアイスコーヒーを飲んで潤っていたはずの口内が緊張のためか、いつの間にかカラカラに乾いていく。


「な、ど、どうして?」


  掠れる声で尋ねるも、希露姫は何も答えることはなかった。温度を感じさせない、青みがかった深緑色の瞳を僅かに細めただけだった。


「そんな下らんことよりも、これに目を通しておけ」


  そう言ってぞんざいに雑誌くらいの厚さと大きさの冊子を投げて寄越した。表紙の絵にやけに可愛くされた動物キャラクターが描かれているのが妙に怖い。明らかに不吉な予感しかさせない流れでこんな可愛い絵を見せられても違和感半端ない。でも、見ないともっと恐ろしいことが起こるということがありありと分かるので、何回か深呼吸をして気分を落ち着ける。


  あぁ、出来れば知りたくない。でも見なくちゃ。

  恐る恐る、渡された冊子のページを開いた。



『御機嫌よう、罰当たりな道寺場どうじばみねさん。

  貴方は既に八百万やおよろず機構に属する神によって祟られ、その儚い命を散らしたことでしょう。ですが、貴方はまだマシな部類です。大半は特に理由もなく祟られていますから』


  どんだけ理不尽なんだよ!? と言うか罰当たりって!


  冒頭の言葉と内容に突っ込まざるを得なかった。理由もなく祟られるとか、理不尽にもほどがあるわ!

  あぁ、この先読むのが更に怖くなった。絶対碌なこと書かれてないよ。気休めにもならないが、これ以上ひどいことが書かれていないことを願い、読み進める。


『さて、貴方は神の私物を破壊したことにより祟りを受け、死亡致しました。しかしながら、それで貴方の祟りは終了にはなりません。むしろ始まりです。祟りによる死はあくまでこちらで説明を受けるためのものでしかなく、解放条件を満たすまでの期間が祟りの執行期間であり、解放条件を満たさない限り永遠に続きます。執行期間中に発狂した場合など、回数無制限で正気に戻します。肉体の損傷についても同様です。何度死のうが、解放条件を満たすまで蘇らせます。記憶もセットです。

  執行期間中は、冥府へ案内されることはありません。貴方の死因が祟りであるため、冥府での永眠登録受付が出来ないためです。しかし、解放条件を満たせば受付可能となるのでご安心ください』


  うん、何一つ安心出来ない。

  さらっと怖いことが羅列されてるよ。人生さくっと終わらせておいて、まだ祟るんかい。解放条件満たすまで際限なく続けさせるとか辛い。



『さて、ここからが本題、祟りの解放条件に関する説明となります。


  貴方の解放条件は、呪いの大太刀(効果極小)を使いこなすことです。


  呪いの大太刀とは枷型刑具の一種であり、罰当たり討伐委員会に申請すれば、効果極小までのものなら無料で貸し出されるものです。枷型刑具であるため、罰当たりな使用者(以下刑罰者)には以下の四つの効果が発揮されます。


 1、刑罰者の弱体化(今現在の貴方の身体能力を100%とした時、執行期間中は75〜90%までの能力しか発揮されません。常に怠い状態だと言うことです)

 2、鍛錬のマイナス補正(人一倍訓練しても、人並みに追いつけるかどうか怪しい所です)

 3、逃亡を行う際には一定の確率(10%)で失敗(ただし、敵対者と出会う以前の状態なら回避可能)

 4、敵対者を攻撃した場合、相手が受けたダメージ量(0から20%の間)をランダムに受ける


  また、周囲の者にも以下二点の影響を与えます。


 1、敵対者の強化(身体能力に限る)

 2、刑罰者に対して手助けをすると、一定の確率(10%)で何らかの不利益を被る


  刑罰者はこれらの条件を踏まえた上で、大太刀を達人級に扱い、最低でも敵対者百体を大太刀によって倒さなければなりません。それを満たせば、解放条件を満たした見なされます。

 気長に頑張って下さいね』


「無茶だ!」


  思わず叫んだ。二十年と短かかった人生の中で、一番デカイ声で叫んだと思う。いやだって、どう考えても条件が厳し過ぎる。

  俺は今まで運動部とかに入ったことのない、生粋の文系なのだ。精々で高校の体育の選択で柔道をやったことがあると言う程度だ。それなのに武器を達人級に使いこなせるようになれとか、ハードルが高い。そもそも、大太刀ってなに? デカイ刀ってことなのか? そこから分からん。


「そんなもの知らぬわ。それ、最後のページをさっさと見ぬか」


  やはり、希露姫は俺のことなどお構いなしだ。嫌がる俺を無視して、無常にも、ページをめくられる。


『祟り執行開始』


  血文字で書かれたようにドス黒く、荒い、禍々しい雰囲気を放つ文字が見開きいっぱいに書かれていた。冗談抜きで本当に怖い。背筋に冷たいものが走る。そして、見る間に文字が滲んでいき、ページが血に浸されたかのように赤黒く染まっていく。冊子が完全にドス黒く染まると、冊子か溢れ出るように、後から後から冷たく黒い液体が溢れ落ちてくる。妙にぬめりがあり、気持ちが悪い。冊子を離そうとするが、ぴったりとくっついて離れない。



  どれほど時間が経っただろうか。


  黒い液体が沼ほどの広さに広がっていたかと思うと、急激に足元に集まり、水たまり程度の大きさへ収縮した。光を一切通さず、水面がまるで生き物のように蠕動ぜんどうしている様は、生理的な嫌悪を感じさせるのには十分過ぎる光景だった。


  そんな気味の悪い水たまりの水面が徐々に動かなくなり、遂には静止した。その見た目は水たまりの形にくり抜いた金属板を思わせる。これで終わりかと思い、一瞬緊張を解いた瞬間、見計らったかの様に黒い水面から無数の触手が伸びた。碌に抵抗も出来ないまま、触手に右腕を絡められ、水面へと引きずり込まれる。必死に足を踏ん張るが、触手の方が力が強く、徐々に水面へと右腕を引きずり込まれていく。水面は先程と同様異様に冷たく、水に触れた箇所から熱を奪われ、痺るような感覚が広がる。触手によって、右肩まで水たまりに引き込まれたため、自然と這いつくばっている様な体制となりながら踏ん張るが、未だに触手が引き込む力は弱まることがない。


  このまま引きずり込まれるのか?


  絶望にも似た焦燥感がせり上がってくる中、唐突に触手がいましめを解いた。いきなり力の均衡を崩されたので、思いっきり後方へすっ転んだ。後頭部から受身もとることもなく地面に叩きつけられ、目の前にチカチカと星が瞬いた。声にならないほど痛い。足の小指を打ちつけた時の比じゃないよ、これ。


  ズキズキと痛む頭部をさすろうろ手を伸ばした手に、何かが握られているのが視界の端に映った。痺れて感覚がなかったから、視界に入るまでわからなかった。俺が握っていたのは、装飾を殆ど施されていない大きな刀のようなものだった。見た目だけだったら、特に何の変哲もない。これが大太刀なのか? 漫画とかで見るのよりデカイな。背負わないと地面に引きずる感じになりそうだ。と言うか、俺の身長と同じくらいの大きさじゃないか?


  さっきの黒い水たまりが禍々し過ぎたせいで、呪いの大太刀自体に嫌悪感を感じることはなかった。むしろ、ちょっと場違いではあるが、かっこいいとさえ思った。何と言うか、男のロマンってやつ? 呪われてなければ手放しで喜べたんだけどな。


「うむ、滞りなく届いたようじゃの。流石は白狐宅急便じゃ」


  希露姫は満足そうに頷きながら、俺と呪いの大太刀を見やる。


「さて、それじゃあ、下界へ送り出そうかの」



  それが、俺の執行生活の始まりを告げる言葉だった。


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