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1-7 招かざる客




「動くな」と言われ首に当てられた冷たいものを確認しようと私は顔をそろりと下に向けようとした。


「動くなと言っている」


中途半端に動かした顔をそこでぴたっと止めた。視界の隅に映ったのは鋭い剣だった。


どうしよう…一か八か氷結をこの後ろの人に向かって放ってみるか。いやその前にこの剣で首元を切られる方が早いだろう。


「なぜ先ほど氷の刃で私を狙った?」


いやいや、今ちょっと考えたけどまだやっていません。


「なんのことでしょう…?」

「とぼけるな。先ほど庭先で氷の魔術を使っただろう。」


さっきのラビだと思ったのは人間だったのか。


「…私は魔法の練習をしていただけです。狙ったわけではありません。」

「本当か?ここは魔術師リュネートの庵だと聞いてきたが、なぜ子供がここにいる?」


疑うような声音で詰問してきたが、首にあたっていた剣が下ろされたので私は背後にいる人物に向き直った。


明るい金色の髪に、空色の瞳の、絵本から抜け出てきた童話の天使のような少年がそこにいた。偉そうな口調からもっと年上の人物かと思ったが随分幼い。


―子供に子供だと言われた…


「それはこちらの台詞です。ここはリュネートと私が住む家。なぜ子供が勝手に入ってきているのですか?」

「無礼な!私はもう八つだ。」


八歳。子供だ。小学生だ。なぜ八歳の子供が保護者もなしにこんなところに。


「保護者の方はいらっしゃらないんですか?」

「私を子供扱いするな。其方の方が年下だろう。其方いくつだ。」

「…いちおう…もうすぐ六歳ということになっていますけれど…」


それを聞くと少年はちょっと得意そうな顔になった。


「私はリンです。ここでお世話になっています。あなたはリュネートのお客様ですか?お客様なら玄関のドアから入ってきたいただきたかったです。ふほーしんにゅうです。」

「む…」

「残念ながら今日は一日リュネートは留守なのです。」

「それは知っている。」


じゃあ何故来た。


お引き取り願おうと思ったが、まだ八歳の少年を一人帰していいものか。私は取り敢えずキッチンに移動してお茶でも出してやることにした。ちょうど昼時なので、一緒にサンドウィッチも振舞うことにした。リュネートのお弁当用に用意したものと同じものだ。


私はいつもの子供用の椅子に、少年はリュネートの大人用の椅子に腰掛けた。少年はお腹がすいていたのかあっという間にサンドウィッチをたいらげ、レージェのジュースのおかわりを要求してきた。


「美味かった。礼を言う。」


少年はにこにこ笑ってそう言った。偉そうな子供だと思ってたが意外といい子なのかも、と私は思った。


「まだあなたのお名前を聞いていませんでしたね。」

「私はアーサーという。」

「アーサー君は何故ここに?」

「…魔術師の弟子の其方は言えない。」

「私はべつに弟子ではありません。」


弟子志望だが。リュネートの弟子になれるならなりたい。


「それより、アーサー君はやめろ。私の方が年上だと言っているだろう。アーサー様と呼べ。」

「はぁ」

「リンと言ったか其方、弟子でなければなんなのだ?もしかしてここに捕らえられているのか?」

「いえ、別に。行くあてがないのでお世話になっている感じです。」

「…身寄りがないのか?」

「まぁ、そんなものかもしれません。」


正直自分でもそこのところまだよくわかっていないので突っ込まないで欲しい。それより捕らえられているとは、アーサーの中のリュネートの人物像はどうなっているのだ。


アーサーと食後のまったりして雰囲気で雑談していると、家の外でドンという大きな物音がした。私は驚いて椅子から飛び降りた。扉を少し開いて外の様子を伺うと、ファンタジー映画なんかでしか見たことがない翼竜が家の前にいた。前世でみた動物園の象よりも一回りもふた回りも大きい。


「思ったよりも早かったのだな。」


私がこっそり扉の隙間から見ていたのに、アーサーが扉を大きく開いてしまった。私は竜が襲いかかってこないかと慌てた。しかし翼竜はよく躾けられているようで、お座りをして静かにしている。


「お迎えにあがりました、王子。」


翼竜に夢中で気づかなかったが側に人がいた。跪いて礼の形をとっている人物は薄い緑色の髪をした真面目そうな青年だった。


「おうじ?」


私はアーサーと青年を見比べた。


「レイ、余計なことを言うな。」


どうやらアーサーは隠したかったようだが、私は全然驚かない。むしろ、偉そうな態度や高そうな服…なるほど、王子様でしたか、と合点がいった。

シャツ、茶色のハーフパンツにブーツといったシンプルで動きやすそうな格好をしているアーサーだが、その服の素材は私の着ている麻のワンピースとは全く違う。シャツはきっと絹か何かだろう。


「貴方様に風の魔法など教えるべきではありませんでした。」

「そんなことはない。あの魔法は便利だ。何処へ行くのもあっという間だ。」


レイと呼ばれた青年はため息をついた。王子のお守りは苦労が多そうだなと思った。


「魔術師リュネートが帰ってくる前に早くここを立ち去りましょう。」


レイはそう言うと、なかなか帰ろうとしない王子をひょいと持ち上げて翼竜の背中に乗せ、自分もその後ろに乗り込んだ。


「リン、身寄りがないのならお前も一緒に来るか?」


アーサーは竜の背からリンを見下ろして、なんとも気軽にそんなことを言った。リンは首を横にふった。


「この少女は?リュネート使用人ですか?」

「まぁそんなものだ」


弟子から勝手に使用人に格下げされた。使用人ではない。弟子志望者だ!


レイはこの子供をほうっておいても大丈夫か、始末をしないでいいのか、などと物騒なことをアーサーに言った。アーサーは鷹揚に「大丈夫だ。リンは悪いやつではなさそうだ。」などと言っていた。私も偉そうな子供だけど意外といい子かも、とアーサーを評していたのでお互いの認識が一致している。


「リュネートが帰ってきても私のことは言わないように。」


去り際にアーサーはそんな事を言った。

私は首を縦に振ったが言わないはずがない。


リュネートが帰ってきたら迷わずに報告する事項だろう。


結局アーサーが何のために来たのかは分からなかったが、心臓に悪いので出来ればもう来ないで欲しい。もしくは来るならリュネートにきちんとアポイントを取ってからでお願いします。


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