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1-4 文字の勉強



私の一日の始まりはまず朝御飯を作ることから始まる。御飯を食べたら水球の魔法を使って食器を洗う。洗い物が終われば外に出てラジオ体操をし、家の周りを散歩する。リュネートがあまりこの家から離れないように言うので近くを三周ほどするのが日課だ。

家の周りはどこまで続くかわからない森で、近くに民家のようなものはなかった。平屋の木造の私たちが住む家が外界から閉ざされたようにぽつんとあるだけだ。

昼御飯を食べたあとは少しだけ魔術の練習をする。今は水球を色々な大きさにしたり、シャワー状にしたりする練習をしている。魔術の練習は一時間だけと決められていた。


これに加えて最近読み書きの勉強を始めた。


言葉もだいぶ覚えてきたので、私はこの世界で生きていくための知識をつけようと考えた。まずは自分が今いるこの国、蒼の国スィールについて知りたい。リュネートに国の歴史について書かれた本はないかと尋ねた。


「難しいですよ。読めるのですか?」

差し出された辞書のように分厚い一冊だった。

「勉強して、読めるようになるの。」


私は言葉が英語に少し似ていて順調に習得できたことから、文字もアルファベットに似ているだろうと楽観的に考えていた。本の分厚い表紙を開いて私は固まった。本にはびっしりミミズが這うような文字が並んでいた。アルファベットの筆記体に似ている気がする。全く何を書いているのかわからない。


私は分厚い本をパタンと閉じた。


「もう少しかんたんな本はない?」


それみたことか、という呆れた表情をしたあと、リュネートはくたびれた一冊の絵本を貸してくれた。小さい頃に彼女が初めて読んだものだそうだ。リュネートが読み聞かせてくれるというので私はその言葉に甘えて彼女の座る椅子の横に自分のの椅子を並べた。


絵本は子供向けの創世神話だった。


太陽神が全知全能の神であったが一人ぼっちだった。ある夜、月の女神に出会いはじめて恋をする。太陽神は月の女神を妻にと望むが、月の女神には太陽神のいる光の世界は眩しすぎて生きていくことができない。太陽神は月の女神のために光と闇の世界を作った。二柱の神は新たな世界に降りたちそこで夫婦になり幸せに暮らしたという。


「この太陽神と月の女神の子孫が各国の王族になったと言い伝えられています。」


絵本を読み終わるとリュネートはそう説明した。日本で学生をしていた時から神話の類は大好きだったため、この絵本にもとても興味がわいた。

話を思い出しながら絵本を熱心に眺めていると、リュネートが自室から一枚の紙とA4サイズくらいの黒板を持ってきた。紙には五十音表のようなものが書いてあった。


「まずは、この表の文字を覚えるところから始めるといいですよ。」


私は礼を言ってそれを受け取った。


それから私は毎日午後は魔術の練習のあとキッチンで文字の練習をするようになった。私が文字を練習している横でリュネートは分厚い難しそうな本を読んでいることが多かった。


読み書きの習得は一朝一夕ではいかなかった。早く自分でも絵本を読めるようになりたいので、私は熱心に勉強をした。

文字の形を理解すると、リュネートが単語のスペルを教えてくれるようになった。黒板に書ける単語の数は限りがあるので、私は丈夫そうな落ち葉を拾ってきて単語カードを作ることにした。午前中の散歩のときに単語カードにするのに良さそうな葉っぱを拾うのが日課に加わった。




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単語カード用の落ち葉は分厚い丈夫なものがいい。穴を開けて束ねるためだ。その日の朝も散歩しながら落ち葉を拾っていた。家の周りの落ち葉は採集しつくしたので、散歩の範囲を少し広げることにした。そうは言っても精々半径100mほどの行動範囲だ。


ちょうど良い葉っぱを探しながら歩いているとラズベリーのような木苺がたくさんなっている低木を見つけた。この木苺はたまに食卓にデザートとしてのぼることがあるものだ。甘酸っぱくておいしい。


私は急いで家に帰ってリュネートに報告した。


「あの木苺は割とどこにでも自生しているのです。」


それなら、もう少し食卓にのぼってもいいのに…と思ったが、リュネートが食への興味が薄いことはもう知っていた。

私はかごを用意してもらって喜んで苺狩りに向かった。

かごいっぱいに木苺を摘んで帰るとリュネートがそれを見て眉をしかめた。


「こんなにたくさん採ってきて…食べきる前に傷んでしまいますよ。」

「だからやっぱりジャムを作るべきだと思うの。ジャムだと保存できるでしょ。」

「まだ諦めてなかったのですね…」


五歳児の私がコンロを使うことが不安なのはわかる。私のレパートリーは火を使えないため手作りバターとマヨネーズから増えていなかった。心配だというなら一緒に作ればいいのではないかと思うのだ。


「仕方ないですね…このまま腐らせるのはもったいないですしね。」


私は絶対一人ではコンロを使わないと約束して、木苺ジャム作りに漕ぎ着けた。


まず鍋に先ほどとってきた木苺をどばっと入れる。その上から軽く砂糖をかけ、木苺をつぶす。ここまでが私の仕事だ。リュネートが魔術を使ってコンロに火を入れる。ぐつぐつ煮立ってきたら、レモンのような柑橘系の果物の汁を絞りいれる。この果物は干し肉の臭みを消すためによく用いられている。香りと色はレモンのような感じだが形はみかんだ。レージェという名前らしい。

そこから30分ほど加熱しながら混ぜたら完成だ。私は監視のもと少しだけ混ぜさせてもらった。

完成したジャムは熱いうちに瓶詰めする。


昼御飯にリュネートがまたパンケーキを焼いてくれた。手作りの木苺ジャムとバターののったパンケーキは絶品だった。


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