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58話 秘史②

 グレンの口を借りて語られる魂食獣(ソウルイーター)の秘められた歴史に、コジルたちは黙って耳を傾け続けた。



「……他の生物から知識、経験だけでなく、身体特性をも吸収できるように変異した魂食獣(ソウルイーター)の原種は、急激にその姿を変えていった。そして古代エルフ族が恐れていたことが現実となるまで、そう長くはかからなかったようだ。

 ある農村で、エルフ族の無惨に食い荒らされた遺体が見つかった。そして、ついに魂食獣は大きな脳と知性を手に入れた。


「それからは事態は坂道を転がり落ちるように悪化していく。すでに狼ほどのサイズにまで大型化していた魂食獣はエルフ族を好んで襲うようになった。奴らは狡猾さを身につけ、群れで次々と村を襲っては農民たちを皆殺しにしていった。いつしか奴らの主食は、肉よりもむしろ魂へと変わっていた。犠牲者を殺して魂を食うだけで、その肉にはろくに手を付けずに放置した。村々に放置された大量の死体は腐るにまかされ、カラスの餌となった。当時、大群をなして飛び交うカラスの群れは空を覆い隠すほどだったという……。



 そんな折、辺境から巨大な魔獣が飛来した。それはドラゴンを餌食として進化してきた別系統の魂食獣(ソウルイーター)だった。もはやそこには原種の面影は残っていなかった。巨大な翼、何でも噛み砕く禍々しい歯列、すべてを食らい尽す貪欲さを備えた、まるで殺戮機械のような怪物だった。

 怪物は知性型の魂食獣を襲い始めた。知性型はすぐに数を減らしていった。はじめのうち、それは吉報に思えた。しかし、より深刻な事態が起きているのに気付いた時には遅かった。知性を吸収した怪物が、都市を襲撃し始めたのだ。


 古代エルフ社会は厳密な階級制だった。その底辺に位置する農民は魔術を扱えなかった。しかし都市に住む職人階級や魔道士階級は魔力を持っていた。怪物はそれを狙ったのだった。ついに魂食獣は魔術をも手に入れた。


 巨体、知性、魔術、そして魂食獣の本質と言ってもよい獰猛さと貪欲さ。奴らはついに完全なる捕食者となった。そしてここに、古代エルフ族と魂食獣(ソウルイーター)たちの、お互いの生存を賭けた闘争が始まる。戦いは数百年の長きに渡り続いた。


 激しい闘争の過程で、さすがの魂食獣もしだいに劣勢に追い込まれていった。勝ち残るために、魂食獣たちは共食いを繰り返した。弱小の個体はより強いものに食われ、能力を吸収された。共食いによる統合が繰り返された結果、無数にいた魂食獣たちは最終的に全世界でたった四体にまで収束した。この四体に、かつて存在した全魂食獣のすべての経験、すべての能力、すべての貪欲さが受け継がれた。彼らは無敵の存在だった。これぞ古代伝承に伝わる四天王の誕生だった。



 四天王と古代エルフとの最終戦争は熾烈を極めた。大陸は引き裂かれ、海は溢れ、いくつもの大都市が灰塵に帰し、何千万という人命が奪われた。奪われた無数の魂は四天王たちに吸収され、彼らをさらに強大化した。

 しかし多大な犠牲を出しながらも、古代エルフたちの死にもの狂いの奮闘により、四天王のうち三体までは滅ぼすことができた。残るはあと一体だけ。長きに渡る悲惨な戦いがまもなく終わるかもしれない。エルフたちに希望の光が射したかに思えた。



 しかし、最後の一体は倒される寸前の他の三体の魂を喰らい、全能力を継承していた。それはまさに神にも等しい究極のソウルイーター、「暗黒の獣」と化した。

 それは、湧き上がる雷雲のごとき巨体を持った巨獣だった。貪欲さをむき出しにした無数の真紅の巨眼で下界を睨み付け、少しでも地上に生命の兆候を認めると、全身からおびただしい数の歯のある触手を伸ばし、生ある物すべてを貪り尽した。それが通過した跡には、何もかもを奪われた不毛の砂漠しか残らなかった。


 すべてを奪った替わりでもあるかのように「暗黒の獣」は古代エルフから吸収した生命操作魔術を使い、無数の闇の眷属を生み出していった。オーク、蜥蜴人(リザードマン)、獣人、ヴァンパイア、サハギン、巨人族などだ。闇の眷属たちもエルフに敵対した。



 結局、「暗黒の獣」と闇の眷属との戦いは、それ以前の魂食獣(ソウルイーター)との闘争とは比較にならない程の莫大な被害を出すことになる。暗黒時代の到来だった。

 世界は荒廃していった。終わりの見えない戦いの日々に疲弊しきった古代エルフの間には絶望が広がっていった。蔓延する無力感と徒労感、それこそがどんな敵よりも強く古代エルフ社会を蝕んでいった。国家が次々と滅び、偉大な古代エルフの世界的(グローバル)文明は瓦解していった。戦うことを止めて絶望に屈した者たちは、残らず「暗黒の獣」に呑まれて消え去った。



 世界は終わるかに思えた。

 その時、生き残ったほんの一握りの人々の前に、かの伝説の英雄、ハザーとイロイが現れた。

 彼らには謎が多い。彼らは何者なのか、いったいどこから来たのか。今回の一連の調査でも、新たな事実は何一つ判明しなかった。単に時間の経過で忘れ去られたというより、意図的に情報を抹消したとしか思えん。まことに不可解ではあるが。


 ともかく、二人の英雄の出現は、世界に希望の灯をともした。

 絶望に沈みかけていたエルフの生き残りと、激減したエルフを補うため兵士として参戦していた人間たちを率い、彼らは「暗黒の獣」に反撃の狼煙を上げた……」

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