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3話 この世界での結末

 65名もの死者を出し世間を震撼させた、大阪梅田無差別殺傷事件。

 犯人の男は横断歩道とビル内のコンコースでダンプカーを暴走させた後、ナイフで大勢の人に斬りつけるという例を見ない犯行であった。事件から約6年後に男は死刑となった。



 事件の翌日から早速マスコミ各社の報道合戦が始まっていた。

 犯人の男の名は藤田辰夫。

 昭和58年9月21日生まれ。犯行時の年齢は31歳。

 身長191センチ、体重95キロのがっしりした筋肉質の体格。

 凶悪犯とは思えない色白で整った顔つき。

 無造作に伸びた頭髪の下から瞳に暗い光を宿した切れ長な目が覗く。


 犯人の顔写真や視聴者撮影の事件映像がくりかえし茶の間に流れた。生い立ちや交友関係、職歴なども次々と暴かれ、連日マスコミとネットをにぎわせた。これらの内容を要約すると以下のようになる。


 藤田は姫路市に生まれた。両親は共働きで、父親は建設作業員、母親は保険外交員をしていた。家庭の経済状況は平均的。両親ともに真面目で温和な性格。父親はよく酒を飲んだが、それで暴れたり家族に暴力を振るうといったことはなかった。殺人犯には幼少期に親から虐待を受けた経験を持つ者が多いが、彼に関しては少なくとも記録上では虐待があったという証拠は何も見つからなかった。


 小学校時代の藤田はまったく目立たない存在だった。中学校に進学してもクラスの中で目立たない存在で、問題行動を起こすことはなかった。だがそれは表面的な話だった。実際には、この頃から彼にはいくつか悪い噂がつきまといはじめる。曰く、猫などの小動物を虐待している。曰く、近所の小さい子供に性的ないたづらをしている等々。元同級生の一人はインタビューに対して当時を振り返り、「大人しいけど何を考えてるかわからない感じで、気持ち悪い奴だった」と語った。


 しかし高校時代から彼の問題行動が表面化し始める。学校では無断欠席を繰り返し、出席してもほとんど誰とも口をきかず、クラスメートに殴りかかったり、親や教師に反抗することが増えた。この時の彼に何があったのかは不明である。

 高校1年の2月、決定的な事件が起きる。藤田は休み時間に些細な理由でケンカになった相手の両目をコンパスの針でえぐり出すというショッキングな事件を起こしてしまう。この事件で彼は少年院に送致され、高校も退学となる。不幸は重なり、彼が少年院にいる間、両親は交通事故で死亡していた。


 その後、藤田は地元を離れ、神戸や大阪で一人暮らしを始めた。そして清掃業、飲食店、土木作業員、運転手など職を転々とするがいずれも長く続かなかった。事件までの数年間、藤田は暴行や窃盗、器物損壊、住居侵入などで何度か逮捕されていた。


 あまりに常軌を逸した犯罪であるため、当初は麻薬、覚せい剤、危険ドラッグの使用が疑われた。しかし血液検査、尿検査ともに薬物は検出されなかった。使用歴もなかった。精神鑑定が何度も行われたが、その診断結果は「他者への共感性が著しく乏しく発達障害の傾向がみられるが、事前にダンプカーを盗難するなど計画性はあり責任能力を有する」というものだった。

 つまり、犯行に至った動機は何もわからなかった。謎を多く残したまま、やがて梅田無差別殺傷事件は人々の脳裏から消え去って行った…

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