表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の彼女は…  作者: イスカンダル
 1章 [寒い春]
5/59

Lustre

早いもので俺がこの高校へ入学してからもう冬がきている。


「じゃんじゃらら~。じゃんじゃらら~鈴が鳴る~。」


今日の天候は曇天の曇り空。ここ最近はこんな天気が続いている。と、そんな天候のせいか俺は朝からテンションダダ下がり。眠さマックスでもう帰りたい。

 

「おい。何でお前はそんなにテンション高けぇんだ?ほんと、お前は人間か?」


 前を歩く桜木。何やらご機嫌ななめで恥ずかしい歌を歌っている。


 「もう。またそういうこと言う!僕は人間だしテンション高いのは当たり前じゃん!」


 何が当たり前なのか?こんな天気で学校がある。その二つが揃っている時点で最悪だ。


「今日、何かあんのか?水曜だし週の中で一番、面倒な曜日だと思うぞ?」


「ん?そうなの?」


桜木はキョトンと惚ける仕草を。その為、後ろに縛られたポニーテールが横に揺れる。


「いや、まぁ。それはいいとして何かあんのか?」


別に水曜は週の中で一番面倒。そこそこに疲れてきた体なのにまた明日も学校がある。だから水曜は嫌だ。なんてことを教えるのもどうでもいい。それよか桜木のこのテンションの方が先。まぁ、基本、コイツはこんな感じなのだが…。


 「え~。ゆうちゃん分からないの~?」


 「いや、分からん。」


始めに訊くと桜木は若干、悲し気な表情を俺へと見せる。

 だが、分からないものは分からない。即答で返事。そんな俺の言葉を聞いて桜木は更に表情を暗くした。

 いや、そんな顔されても…


 「うぅ…そうだよね。そんなもんだよね・・・」


「おい?何だ?何か気になってきたろ?」


訊いたのに答えを中々、言ってくれない。俺、質問しましたよね?


「…記念日。」


目すら合わせてくれずに呟かれたのはそんな言葉。よく見ると桜木の両瞼は潤んでいる。


「えぇと?それってまさか俺達のってことだよな?」


俺は別に鈍いわけではない。付き合って下さいと言われて了承した相手が涙目で記念日と言ったのだ。分からない方がどうかしている。コイツは男だが。


 「それしかないじゃん…。」


「あぁ。そうだな。」


何か雰囲気も、居心地も悪い。そんな顔でそう言われたら言葉に迷う。こんな時、ラブコメの主人公が羨ましい。何でそんなに惚けられるのか?全く、理解が出来ない。

 とは言えコイツは男。ラブコメの主人公でもこれは難しいのでは?

 難易度高ぇよ。


「まぁ、あれだ。忘れてたのは悪いがお前、そんなの気にするんだな?(男だろお前!)」


心の声は隠し言うと桜木は頬を膨らませ涙目を。声を張り上げて俺へと心情を飛ばす。


「もう、ゆうちゃんのバカっ!」


「あっ、おい。」


何とも女が言いそうな言葉を残し、早歩きで俺から離れて行く桜木。全く、何なんだである。


「はぁ~。」


桜木は思ったよりも速く、俺は追うのを諦めた。大体、俺にはアイツと恋人関係だっていう自覚がない。忘れていたというよりもまず無いのだ。そんな記念日(もの)は。


「もう、一ヶ月か…」


見上げた空色はまだ晴れない。薄暗い曇空はまるで心のモヤモヤを一層深めているようだった。


***************


 キーンコーンカーンコーン。キンコンカンコーン。


始めの方は長いと感じていた一日が今日も終わりを報せる。最後の締めが担任のつまらないギャグという問題以外はわりかしいつも通りの日々。

 

「おい。いつまでそうしてるつもりだ?帰るぞ?それより今日は俺一人で帰ってもいいのか?」


記念日を忘れていた。俺にはそんなことだが、どうもコイツにはそうは思えないらしい。朝からずっとこんなん。授業でペア組んだり昼を一緒にはしたもののコイツの顔から不機嫌の不の字は取れていない。


「ったく。じゃぁ、俺は行くからな。」


話しかけたというのに一向に返事が返ってこない。それを返事だと認識した俺はその為の行動を示す。

が、体が前に進まない。なっ、これが万有引力!?後ろに。後ろに引っ張られるうううう。

 なわけなく。その正体は言わずもがな。桜木である。


 「んだよ?」


コイツがこうやって制服の裾を引っ張っている理由は何となくだが察せられた。そして案の定、俺の考え通りの言葉が小さく呟かれる。


「…かえる。」


まるで小さな子供のようなこの仕草。その容姿共々。コイツを抱きしめたくなってしまう。


「分かった。じゃぁ、行くぞ。」


「…うん。」


こんな公衆の場。人目の付く場所でコイツを抱きしめられる筈もなく…。いや、コイツは男。人目だとかなんちゃら関係なしに抱きしめない。ほんと、コイツとつるむようになって俺の耐久力は上がる一方だ。

今ならどんな強敵の攻撃も跳ね返せれるのではなかろうか?


 なんてのはどうでもよく。俺は拗ねる桜木を連れて教室のドアをスライドさせた。

 そこで向かい入れてくれるは薄暗い廊下。今日一日、朝からの天候は崩れることなく持続していた。冬が終われば直ぐに春。春になれば俺達は二年生である。だが、その年もどうせ短い。直ぐに三年。そして卒業。

 俺は卒業するその時までには春を迎えれるのだろうか?そして春を迎えるというその意味は…。


「なぁ?」


さっきから歩いていて会話というものが一つもない。だから変な思考が頭を廻り、嫌な結末を想像してしまう。

俺はその考えを頭に巡らせたくはなかった。だから話し掛ける。いつもならコイツがこういう役割を担ってくれるというのに。


「・・・・・何?」


数秒の沈黙後。それでも小さく。ボソリッ。呟かれた声が返ってくる。


「そろそろ機嫌直せよ?こっちも何か疲れる。」


下手な前置きを言う技量もない。直で本題。


「うぅ…何それ?ゆうちゃん、本当に反省してるの?」


「あ?反省?あぁ。勿論、してるぜ。」


一体何を反省するようなことがあるのか?疑問は置いとくとして取り敢えず頷きを桜木へと見せる。

だが、向かれた桜木の目は怖い。


「うそっ!だってゆうちゃん。今日、僕に一回も謝ってないもん!」


「あっ、いや。それはだな…」


言われるまで気付かなかったが確かに俺は謝罪の言葉を口にはしていなかった。俺には何の事だが、桜木には重要な事。ちゃんとした謝罪の言葉を聞きたいというのも頷けなくはない。(百歩譲って。)


「もうっ!やっぱり、ゆうちゃんなんて知らない!じゃぁね。明日はちゃんと起きてるんだよ!」


良い言い訳が思い浮かばずにいる俺に何を感じたのか?またも桜木は早歩きで俺から遠ざかる。

 てか、知らないとか言っても朝は起こしに来てくれるのね?


「あぁ。待て。待て。悪かった。悪かったって。謝るから待ってくれ。」


別に追いかける必要もなかったのだろうがこのままにしておくのも何か嫌だったので遠ざかる桜木を呼び止める。


「・・・・今さら謝っても遅もん。」


言う桜木ではあったが足は止まっている。どうやらこの状況を一早く元に戻したいと思ってるのは俺だけではないらしい。


「分かった。じゃぁ、何すれば許してくれんだ?」


正直、何一つ分からないがこういう時は下手に出るに限る。面倒事は迅速に。そして的確に無くすのが俺のモットー。


「何をって…?何でもしてくれるの?」


「あ、あぁ。出来る範囲でならな。」


何でもという言葉についつい反応してしまう。急遽、言葉を付け加える。


「なら、今日の夜。イルミネーション観に行きたい。」


「イルミネーション?あのでっかいクリスマスツリーのか?」


「うん。そう。毎年やってるみたいだけど僕、一回も観たことないから。」


言う桜木の顔からはあったものが無くなりつつある。それを感じられるから断れるわけもない。


「あぁ。分かった。いいぜ。見に行くか?」


全く、何であんな人がうじゃうじゃ。さっむい場所に行かなくてはならないのか?

内なる心情は隠し。若干、出てしまったかもですけど。俺は桜木に了承の意を伝える。


「うん!やった!じゃぁ、僕は一旦、家に戻るね。行く三時間前くらいには連絡するから。」


「いや、三時間前ってお前…」


何だよ?その超余裕のある時間。基準が分からない。


「ねぇ。そういや、ゆうちゃんは今年クリスマスの予定とかあるの?」


唐突すぎる質問。それはいいがそんな悲しい質問、俺にするんじゃない。


「あると思うか?」


「え?分かんないから訊いたんだけど?」


「あ?あぁ。まぁ、そうなんだろうけど…」


皮肉に言ったのだがどうやら伝わらなかったらしい。そのとぼける姿がわざととも思えないし。


「ねぇよ。多分、一日中ニートしてるわ。」


仕方なく答えると何故か桜木は満面の笑み。喧嘩売ってんのか?


「そっか。じゃぁ、その日は僕の家来てよ。パーティーやるから。」


嬉々とした声音。さっきまで拗ねてた奴は一体、どこぞやに消えたのだか?


「パーティー?」


クリスマスにパーティー。なんともリア充めいた発言に少し私情が入ってしまう。そんな俺だが桜木は気付いた素振りもない。満面な笑みは変わらなく、そのままの表情の元、首を縦に。


「まぁ、いいが。迷惑なんじゃねぇの?それって家族でやるんだろ?」


よくわからないが桜木がクラスメートから敬遠されているのは知っている。今になってはその言葉は変わってきているが近付いてこないという意味は同じだ。


「う~ん。家族だけど挨拶とかそんな感じも含んでるのかな?いっぱい人来るよ。」


「挨拶?なんだそれ?クリスマスに誰に挨拶すんだよ?真っ赤な服着たおっさんか?」


冗談に言った台詞。だが、桜木はその言葉には首を横に振るわけでも、笑うこともなくまんざらではない感じで口を開く。


「サンタさん?サンタさんなら毎年来てるけど?」


「は?」


予想外の返し。自分でも分かる程の何とも間抜けな声が溢れる。


「おいおい。まさかお前、サンタクロースとかマジで信じてんのか?」


「え?何言ってんの?サンタさんはいるよ。だっていつも僕に手渡しでプレゼントくれるよ?」


「お、おぉそうか?それは…いるな。わりぃ。」


桜木の反応を見る限り嘘を言ってる風には見えない。コイツは本当にサンタクロースたる人物が実在していると思っているのだ。

 無邪気。純情な子供に現実の厳しさを教えるのは大人の仕事だ。俺の役目ではない。ここは適当に同意してやる。

てか、サンタクロースからプレゼント手渡しって…。


「だがそんなパーティーに俺が行っても本当にいいのか?てか、俺がサンタクロースに気を遣うんだが?」


遠まわしに行きたくないアピールを言うがやはり桜木には伝わらない。


「そう?サンタさんもゆうちゃんにプレゼントくれると思うよ?」


「お、おぉ。そうか?それは楽しみだな。」


やったーサンタさんからプレゼント貰える。うれしいぃぃぃ。なんて言うわけなく。それはそれで滅茶苦茶、気を遣う。どんな表情と反応でそれを貰えばいいのか?


「ん~?それよりゆうちゃん来たくなかった?」


楽しみという言葉を使ったというのに全然、楽しそうではなかったからだろうか?桜木は俺の心の何かを読み取ると遠慮気味に質問してきた。


「あ、いや。そうじゃなくてだな…」


そんな残念そうな顔を見せられたら素直な言葉が言いにくい。


「そんなに俺を呼びたかったのか?」


訊くと桜木は、はにかんだ笑みを照れくさそうに俺へと見せる。


「うん。だって来る人たちはつまらないんだもん。」


「おいおい。そんな失礼だろ?・・・ん?来る人達ってそんなに人が来るのか?」


来るのはサンタクロースだけじゃ?


「ん?言わなかった?パパの友達とかその子供とかいっぱい来るよ?」


「・・・まさかお前の家って金持ち?」


そう言えばコイツのプライベートを殆ど知らない。知る必要も訊く意味もないと思ったがゆえに今の今までそういう話はしていなかった。薄々、勘付いてはいたが。


「ん~?そうなのかな?僕にはそういうのは分からないけどゆうちゃんの家よりかは大きいよ。」


「お、おぉ。そうか。」


俺の家よりも大きい。そんなの回答のヒントにもなりもしない。俺の家の小ささ舐めんな。家賃安くて学校近いからいいんだよ。


「まぁ、そういう話は後々でいいや。お前一旦、家かえるんだろ?」


気づけば分かれ道。コイツとはここでお別れだ。


「あっ。うん。じゃぁ、ゆうちゃんまた後でね?あっ、そうだ!ご飯はどうする?」


「あぁ。そうだな。」


夜とは言えそんなに遅くではなかろう。それに行く三時間前にコイツは連絡してくると言っていたし。

答えは考えるまでもない。


「まぁ、適当に外で食うか?」


「うん。分かった!それじゃぁ、ラーメンにしようよ。前にゆうちゃん、任せろって言ってたよね?」


「あぁ。言ったけな。そんな事?」


そう言えばそんな事を前に口にしたような?記憶力には自信がない。まぁ、ラーメンは美味いし安い。桜木がそれがいいというなら断る理由がない。


「了解。じゃぁ、いい店、決めとくは。」


「うん。楽しみにしてる。」


桜木は嬉しそうにそう告げると俺へと手を振り、そのまま背中を見せた。


「俺も帰るかな。」


遠ざかっていった背中をそれとなく目に映し、呟く。空の色はまだ晴れてはいない。ここから冬が。正真正銘の冬がやってきたのだ。


「あー。さみっ。」


両手を空いたポケットに突っ込み、俺はこの寒い空の下を何も考えずに歩き始めた。


***************


 うぅ…。


どこからか聞こえるクリスマスソングを耳に。賑わう人だかりを感じ、何で俺は眼前の光る灯りを見なければならないのか?


「ねぇねぇ。凄いね。きれいだね。」


横ではしゃいでいるのは言うまでもない。この気候にばっちりな防寒着。マフラーを首元に巻く桜木。身に羽織るコートにそのマフラー。恐らくは男物ではあるのだろうが女が着ても違和感のないもの。その為に桜木が着ると女物となってしまう。

 まぁ、暖かそうだからいいのだけど。風邪とかひかれても困る。


「あぁ。まぁ。綺麗だけど人がな…」


周りの人に聞かれないような声音。別にそんな気を遣う必要はないとは思うが。


「え?何か言った?」


俺の声が小さかったこととこの人だかり。そして流れる音楽によってか桜木には聞こえなかったらしい。


「いや、何もねぇ。それよりいつまでいんだ?」


「え~。まだ来たばっかじゃん。」


「まぁ。そうなんだが…」


この状況はあまり好きとは言えない。

 人。人。人。その殆どが熱愛すぎるカップルばかり。傍から見れば俺たちもそうなのだろうが真実を知ってる俺本人としては一刻も速くにここから立ち去りたい。


「そう言えばお前の親、よく許してくれたな?夜の外出とか駄目だったんじゃなかったか?」


居心地の悪い場は会話で埋めるしかない。そう思った俺は適当なる話題を口に。


「うん。始めはダメって言われたけどどうしてもって頼んだらいいよって。」


「ふ~ん。案外、お前の親、優しいんだな。」


門限には厳しいと聞いた限りではそれなりに頭の固い人物像を想像していた俺だがその言葉を聞いてその人物像を崩した。


「うん?パパは優しいよ?どうして?」


桜木は首を傾げる。どうやら厳しい頑固者。そう思っていたのは俺の勘違いだったようだ。


「いや、こっちの勘違いだ。気にしないでくれ。」


「ふーん。」


会話終了。桜木もこれ以上は何も言わない。いつもは何かと話題を振ってくる奴だが今日は目前の光る大きな樹に夢中。

来る時に飯は済ませたしここから出るには桜木がそれを言い出さない限りはないと思えた。


それとなく近場に立つ時計に目を。時刻は八時を過ぎ、九時の針へと迫っている。

いた人は減っては来てはでそう変わりない。ここは都内では有名なイルミネーションだしそれも無理はないと思えるがどうしてここをチョイスしたのか?どうせならもっと空いてる所がよかった。

なんてことを今更ぼやいても仕方がない。


「なぁ?」


「ん?何?」


別に会話を続ける必要はない。周りの音で気まずいというわけでもないし。

 だから今、俺がコイツに声を掛けたのは純粋に聞きたいことがあったから。この空気を利用してそれまで訊かなかった事を聞きたかったからだ。


「罪ってなんだ?」


「…えっ?何?」


「だからお前がその格好をしている現況。その罪ってのはなんだ?」


コイツは聞き返す事をよくする。それはわざとじゃないのが殆どだと思える。

 だが、さっきのは違う。わざと聞き返し、その言葉を聞かなかった。それを分かったから俺は再度問いたのだ。いつもならそんなことはしないのにだ。


「・・・。その話、今じゃないと駄目?」


「あぁ。言いたくないなら別に俺は構わない。だけど言ってくれるなら今がいい。」


本人が拒むならそれを無理に追求することはしない。ただいつかは聞かなければならない。そうしなければコイツはずっとこのままだ。俺はそれを認めない。だから…


「そっか…そうだよね。言っちゃったんだもんね。それは気になるよね?」


桜木は顔を伏せた。それは見えはしないがどこか悲しい表情をしている。俺にはそう感じた。


「でも、まだ待ってくれない。今度のパーティー。その時、話すから。」


「あ、あぁ。別に構わない。」


無理して笑っている。分かる。分かってしまう。それは何でか?俺自身分からなかった。

 けど、きっとコイツの言う罪というのはとても言い難いものなのだ。コイツにとってのそれは辛く、そして封印していたもの。

 それを俺に言った。それはコイツが俺に救済を求めてるからなのではないのだろうか?


罪の償い。どうしたら許してくれるのか?それが分からないからコイツは俺に言ったのではないだろうか?

そんな事は憶測にすぎない。けれどそうだと思えてならない。そうだと思ってしまう。コイツは女になりたいんじゃない。コイツはただ桜木雲雀という人物になりたいだけなのだ。

 

周りに流れる音楽と賑わう人の音は予測通り、この気まずくなった空気を和らげてくれていた。


「じゃぁ、僕もゆうちゃんに訊いいていい?」


「あ?何だ?」


それまで流れていた微妙な空気。それを破ったのは桜木だった。


「ゆうちゃんは僕といて楽しい?」


「あっ・・・なんだ?急に…?」


目を真っ直ぐ見られての問い掛けに戸惑う。コイツの顔をこんなにも近くで見たのは初めてのような気もする。


「あっ…ごめんね。その、だってクラスではゆうちゃんに誰も話し掛けてこなく

なったし。その…僕のせいならいつでもいいから…言ってね?」


近くにあった顔を後ろに下げ、桜木は暗い笑みを顔に刻む。天然そうに見えてコイツは見ている事は見ているし感じるものは感じるのだ。


「ばぁーか。別に嫌じゃねぇよ。大体、お前とは元からつるんでたろ?それが変な噂が広まってからアレだ。結局、アイツらはあぁ言う人間だったって事だ。」


確かにコイツの言う通りでいた友人はどこかに行ってしまった。あった筈のそれまでの日常はどこかに行ってしまった。それでも俺はそれを取り戻したいとは何故か思わなかった。


 囁かれる陰口。地味な嫌がらせ。そんなものに始めは怒りさえ感じていたが今ではそんなもの吹く風が如くどうでもよくなっている。だからいいのだ。あんな下らない毎日を取り戻さなくても。

 

 ただ。


ただ。それでもこの日常も変えなくてはならない。

 だが、それは今でなくてもいい。来月でも来年でもいい。この青春時代が終わるまでにそれを済ませばいいのだ。だから今はコイツの問い掛けにちゃんと答えよう。


「だからアレだ。今はお前といて楽しいよ。」


「え?何?」


流れる音楽。人混み。それらによって俺の声は今度は桜木には届かなかったらしい。これはコイツもわざとではないだろうし。


「何でもねぇ。それよりもういいだろ?」


別に言い直すようなことでもない。第一、何か恥ずかしい。俺はそれとなく解散の言葉を桜木に伝える。見れば時刻は九時の針をとうに超えている。


「うん。そうだね。さすがにこんなに遅いとパパに怒られちゃうしね。」


桜木も頷く。俺はそんな桜木を一目。コイツがここに来たがっていた訳を察した。


 記念日。

それはただ単なる口実だ。本当は知りたかったのだ。自分が俺といて本当に迷惑じゃないか?その真実をはっきりと。だから記念日を忘れていたという俺を知っていたにも関わらず拗ねたふりを演じた。そしてここへと連れてきた。

 俺が迷惑だと言ったらここを思い出として終わらす為に。この灯りならきっといい思い出として残るだろうから。


「なぁ、桜木?」


「うん?何?」


横に歩く桜木に俺は感じた疑問を口にする。


「ここよりももっと暗い所の方がよかったんじゃねぇのか?」


「え?何言ってるの…」


言葉の途中。気付いた桜木の目は一瞬、見開かれる。


「あちゃ~。ゆうちゃん、気付いてたのか~。」


その仕草はまるで悪戯がばれた子供。俺はそんな桜木にまぁなとだけ伝えた。


「ごめんね。騙すとかそういうつもりじゃなかったんだよ。あっ、でも騙してたのか。うぅ~。言い訳のしようがないな~。」


桜木は困ったようにあたふたしている。俺はそんなコイツがおかしくついつい笑ってしまった。


「はは。何、慌ててんだ?別に怒ってねぇし。」


「え?でも…」


自分が嫌われていないか?そんな感じがその声や表情から読み取れた。


「だから俺はもっと暗い所の方がよかったんじゃねぇの?って言っただけだ。…その涙とか隠せれるだろ?」


柄でもない気遣いだと俺自身分かっていた。だから最後の言葉はまた小さい。まだ賑わう大通りからは抜け出てない。音楽も耳に煩い。また聞こえなくても無理はない。

 だが、今度の声はちゃんと届いていた。


「ううん。ここでいいんだよ。もし、ゆうちゃんが嫌だって言っても悲しんだ僕の声はこの音が消してくれる。」


「だが、それじゃ…」


俺が続きを言う前に桜木は言葉を言い切った。


「それでもこの灯りならゆうちゃんは僕の顔をちゃんと見てくれるでしょ?」


「あっ…あぁ。」


桜木の見せた笑みはこれまで見ていたものよりも一層に眩しかった。

 いや、俺はコイツの顔をちゃんと見たことがあっただろうか?

 コイツの顔は女よりも可愛い。だから見ればきっと俺は騙される。自分の心にセーブが効かなくなる。そう思っていたのだ。

 だが、コイツはそれを嫌がっていたのだ。暗い場所なら涙を隠せれる。だが、それは同時に顔を隠してしまう。だからコイツは駄目でも良くてもいいようにここを選んだ。


「ここ一番、明るい所なんだって。綺麗だったし正解でしょ?」


最後なら最後にちゃんと俺に顔を見せる為。よくてもよくてで俺にこの顔を見せたかったのだ。

 笑み。コイツの何よりも明るい顔を。


「あぁ。綺麗だな。だが、俺には少し眩しいかもな。」


「ん?そうかな?」


少し格好つけた台詞もコイツには伝わらない。伝わったら伝わったらで穴があったら入りたい状態に陥るのだが。


「ねぇ。また来ようね?」


「いや。もう来ねぇよ。」


横から嬉々とした声音。そんな声に俺は即答で返事を返す。


「え~。ゆうちゃんのケチ。」


「なんとでも言え。」


ぐちぐち。なんと言われようともここにはもう来ない。寒いし、人多いし。わざわざ電車乗ってまで灯りを見に来る意味が分からない。俺たちは蛾か何かかよ?


「こんな灯りなんかよりも俺達にはもっと光るもんがあるんじゃねぇの?」


「え?何?光る物?そんなの僕達にあったけ?ねぇ何?僕、分かんないよ。」


「何でもねぇ。忘れろ。」


「え~。やだよ~。気になるよ~。ねぇ、ゆうちゃんってば。」


桜木はしつこく俺に訊いてくる。何で俺はそんな台詞を言ってしまったんだろうな?そんな恥ずかしい台詞。寒さと眠さ。そしてこの人波にどうも頭が混乱しているのかもしれない。


 俺たちが求める光るモノ。そんなのは言うまでもなくちゃんとした青春だ。ちゃんとした恋愛をして。ちゃんとした友好関係に笑い声を木霊させる。時に勉学に励み、汗を流す。それは儚くとても短い。だから光ある物は美しいとさえ思う。一時の輝きは人を魅了させ欲望を湧き上がらせる。

 だから俺もそれを求めたい。だが、それを手に入れた時に桜木は俺の横で笑ってくれているのかが分からない。


 青春。

 コイツはそれをどう思っているのだろうか?俺と同じように欲しているのだろうか?なら、こんな恋愛ゴッコに固執する意味は?


 「桜木?」


「ん?やっと教えてくれるの?」


目をキラキラ。開ける口を期待して待っている桜木。だが、悪いが俺が今から言う言葉はコイツの求めるものではない。そんな恥ずかしいこと言えるわけがない。


「いいや。そうじゃなくてだな。お前は俺の事を男だと思ってるよな?」


当然の問い。見れば誰でも分かる。


「ん?何、言ってるの?当たり前じゃん。え?そんな質問するってことは。まさか、ゆうちゃん…」


「なわけあるか。俺は正真正銘な男だ。」


いらん勘違いが生まれると困る。即、否定と証明の言葉を。


「じゃぁ、何でそんなこと訊くのさ?」


確かに桜木の言う通り。そんな質問は不審。だが、コイツに限っては訊かなくてはならない。


「じゃぁ、お前はどうだ?自分を男だと思ってるか?」


「え?えっと…それは…」


桜木は困惑している。見る限りでは直ぐには答えは出ないだろうと思えた。

それはコイツが俺の質問の意味をちゃんと理解してるからだ。

 自分は男だ。その事実をコイツは知っている。だが、俺と付き合う事にはそれが邪魔である。だから答えを渋る。困惑した表情を俺へと見せているのだ。


「わり、やっぱその質問なしにするわ。あそこの店でケーキでも買ってやるから忘れてくれ。」


「え?いいの?」


「あぁ。悪かったな。」


俺はあっさりと謝り、言う。それはもう答えを聞いたからだ。

 桜木の態度。それを見れば一目瞭然。コイツはやはりまだ男なのだ。


「それより高い物は止めてくれよ。お前と違って俺には金が無いんだ。」


「え?ほんとに買ってくれるの?」


「あ?俺は嘘は言わねえよ。アレだ。記念日なんだろ?」


正直、記念日なんてのは口実だ。本当に悪い質問をしたと思ったから奢るだけ。


「うん。そうだよ。でも、それは何か悪いよ。僕が奢ってもいいんだよ?てか、僕が奢るよ。」


財布を取り出し、その言動を示す桜木。俺はそんな桜木を押し止める。


「お前には色々と弁当やら晩ご飯やらで世話になったからな。その礼だ。それでいいだろ。」


「うっ…ゆうちゃんがそう言うなら。」


いつもは潔く引き下がる俺を見ているからだろう。桜木は納得いかない顔で俺の代わりに引き下がった。


「でも、やっぱ嬉しいな。ゆうちゃんがそう言ってくれるなんて。」


「だから高えもんは駄目だぞ?無難な平均的な価格なものをだな…」


言いながら俺たちはその店内へと続く扉を潜る。


この明るい今の道も時間が過ぎれば暗く、静かな道へと変わるのだ。

 輝きは一瞬で。そしていつかは失われる。それを知っていても俺は求めるのだ。桜木雲雀と共に求められる輝きを。

 だが、それでもきっと明日も曇天の空は続くのだろう。それでいい。今はまだ曇っていていい。


そう。今はまだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ