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俺の彼女は…  作者: イスカンダル
3章 来春
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 ゲームライン

 昨日。あれからみっともなくも桜木に泣きついたその後、俺は彼に全てを話した。思い出した記憶を余すことなく全て。桜木は俺の言葉を黙って聞き、最後に「百合恵ってどんな女性(ひと)だったの?僕も真似ればゆうちゃん、僕のこともっと好きになってくれる。」などと言う台詞を吐いただけだった。

 まぁ、その後も辛気臭い。恥ずかしい感じのやり取りなどもあったのだが。それはまたの機会という感じで。今は割愛させてもらいましょう。

 後はまぁ、蔓実や波瀬にも話したのだが。似たような感じだ。始めに茶化した後、シリアスな雰囲気になって最後しめる。みたいな感じ。

 正直、その反応が一番でこっちも助かる。だからもういいのだ。俺の話は終わり。


 というか、そんな話を。俺なんかの過去編みたいな話をしている場合ではなかったのだ。

 何故なら、時間は流れに流れ、早くも部活動紹介は明日に迫っていたからだ。ほんと、ビビったよ。週明けたら明日は部活動紹介だから~。とか担任教師に言われた時には嘘だろ。と頬杖ついていた肘が抜けそうになったもん。


 てなわけで。


 「明日の俺達の動きとかマジでどうすんだ?てか、何か決めてたっけ?」


 授業は終わり、俺達は例が如く。アニメ研究部とは名ばかりの何してる部活なんだか疑問が絶えない部室に集まっていた。


 「何?何?あんた、何、焦ってんの?別に動きも何も作った画用紙、見せてそれっぽい説明するだけでしょ?」


 そんな呑気な台詞を吐いたのは蔓実である。緊張感がないのは両側に束ねた髪を気にしていることから明確だ。何か焦ってる自分が馬鹿みたいだ。


 「いや、俺達の事はそうであっても楓香ちゃんの事が駄目だろ?部活動紹介で仕掛けるヤツ。その打ち合わせとか何にもしてねぇじゃん。」


 そうなのだ。俺が焦ってるのはこんなショボくれた。ほんと、何してる部活。次いで。俺なんかが部長を担ってるという部活の心配ではなく。楓香ちゃんの事。全校。全職員が集まる部活動紹介。そこで仕掛けるという発想は我ながら素晴らしいと思ったが何もしてないとなれば話にならない。

 ほんと、俺の過去とか思い出してる場合ではなかった。‥いや俺が悪いんだけどさ。


 「おい、桜木。お前も何でそんな落ち着いてんだよ?てか、何で俺だけ焦ってんだよ?アレか?今頃になって手を引くとかそんなこと、言い出すのか?」


 今から何ができるとかそんな事を必死に考えているというのに連中はいつもと変わらずダラダラ。ふわふわしている。


 「え~と。ゆうちゃん?一応、僕達。明日の段取りは話し合ったんだけど?ついでに例の資料とかの入手も完璧に揃えたし。」


 俺がギャーギャー騒がしくて言い出せれなかったのだろう。桜木は指をもじもじ。そんな事を白状した。


 「は?いつ?」


 「その‥ゆうちゃんが僕達とのご飯を断った時に大体は‥。」


 「あ‥あぁ。」


 成る程。それは何も言えない。でも、後からでもいいから何かしら伝えて欲しかったな。俺一人だけ騒いでほんと、馬鹿みたいじゃん。ねぇ?


 「まぁ、じゃぁ。後ででいいから俺にもその事について教えてくれ。」


 「うん。それは勿論。ごめんね。言うの忘れてた訳じゃないんだよ。その‥えっとね‥。」


 「あぁ。分かってるって。タイミングがなかったんだろ?俺の方こそ悪かったな。こんな時に自分の問題、片付けて。」


 「あっ、いや‥それは全然、問題ないよ。」


 桜木はもの凄い勢いで右手をブンブン、音発てる。事実。桜木は何も悪いことをしていない。なのに桜木の顔からは申し訳なさそうな表情が消えそうになかった。

 


 「それより、楓香ちゃんは大丈夫なのか?最近、あの子の事、見てなかったけど学校には来てるのか?」


 桜木の気を引く為。後は、単純な疑問から俺は話題の矛先を若干、ずらした。


 「ほんと、男の子って目の前の事しか見えないのね。」


 そう呆れたような声を出したのは波瀬である。実際、そうであるから愚の音も出ない。黙っていると波瀬はからかうようにクスリッと笑みを零した。


 「ふふ。少し意地悪しただけ。新戸君は楓香ちゃんの事を想ってそうしたんでしょ?私達は知ってるから。そんな黙らなくてもいいのよ?何なら言い返してくれても構わないんだから。」


 「お、おぉ‥。」


 やはり波瀬との会話は苦手だ。言い返してもいいとは言われたが短い返事しかできない。それに対してさえ波瀬はクスリッ。小さく頬を緩ませた。

 が、今度は言葉は加えない。代わりというように俺がさっき問いた事を口に出してくれた。


 「楓香ちゃんの現状は良くも悪くもない。要するに変わっていないのね。」


 「それは俺が認識していた頃からってことで間違いないか?」


 俺がそう問うと波瀬は少し残念そうな表情の元、首を縦に振った。


 「えぇ。陰口は無くなってない。むしろほぼ全学年に拡散したとさえ思える。ただ、楓香ちゃんが学校に姿を見せない日は一度もなかったと思う。あの子も変わらず楓香ちゃんに接してくれてるし。楓香ちゃん自身にはそんな変わったモノは見られないわ。まぁ、見た限りとしか言えないのがアレだけど。」


 吐かれた息は本当に楓香ちゃんを想ってのものだった。この中で一番に楓香ちゃんを気に掛けている人物。それを上げれば間違いなく波瀬だろう。きっと、自分みたくならせたくない。そう思っているのだろう。それを言えばもう一人の少女も同じだろうが‥。


 「まぁ、そうだな。そこの問題は当事者しか分かんねぇ。下手に口出ししても返って気を遣わせるかもしんねぇ。まぁ、波瀬が見てくれてんなら問題ねぇだろう。」


 自分の事で手一杯だった頃に波瀬はちゃんと自分が成すべき事をしていた。いや、それは俺がするべき事だったのだ。楓香ちゃんの問題は自分が引き受けたのだから。なのに波瀬は‥いや、この三人は自分で率先して動いてくれている。それに関して素直に言葉が溢れる。


 「‥何か皆、ありがとな。」


 そう言うと何故かこの空間に妙な静けさが生まれる。


 ん?俺、何か変な事、言った?そんなスべるような冗談、言った覚えはないんだけど?

 そんな思いを頭にキョトンとしていると、始めに蔓実の溜息が吐かれた。


 「はぁ~。ほんと、あんたって馬鹿なの?何がありがとよ?」


 「いや、だってこの件に関しては俺が引き受けたにも関わらず俺何もしてねぇし‥。」


 まぁ、何もしてないわけではないんだけどね。ただ、俺よりも三人の方が具体的に動いてるというか。俺一人だけ蚊帳の外といいますか。アレ?俺、苛められてんのか?

 そんな衝撃の事実に胸ドキドキさせてると蔓実の溜息混じりの声が更に加わった。


 「ほんと、ばかっ!何が俺が引き受けたよ。自分一人でどうにかするつもりでいたわけ?自分の姿、鏡で見た事ある?カッコ付けるのも大概にしなさいよ。」


 「あっ、いや。‥そんなつもりは」


 ん?何で俺が責められてる感じになってんだ?俺が悪いのか?いや、まぁ。悪いとは思うけど。この場合は何か違う。


「‥大体、私達はあんたに貸しがあるんだからもっと私達を頼りなさいよね。ばかっ…」


 「へ?何?」


 責められている理由を本気で考えていると、またも蔓実サイドから声が聞こえた。ただ、その声は本当に小さく殆どが聞こえなかった。ただ、一つ分かったことは何か恥ずかしい感じの台詞を言っていたのだろうという事。何故それが分かったか。それは彼女の仄かに赤い頬。それに次の大声。絶対だろう。


 「何もないわよ!つまり、あんたはバカなの!ばぁ~か!」


 そんな舌出してバカ言わなくても。ほんと、そろそろヘコむよ?鋼のメンタルでも壊れるからね?丁重に扱って欲しいものだよ。全く。


「ふふ~♪」


 蔓実からの罵声を受けているにも関わらず、鼻唄混じりの陽気な笑い声がどこからか聞こえた。まぁ、その正体は分かっているんですけどね‥。


 「んだよ。何でお前はそんなにご機嫌ななめなんだ?」


 俺は真正面に立つその人物。桜木へ対照的な声を飛ばす。こっちは訳の分からない罵声を受け、明日の詳細も聞かされず、どよ~ん。がっかりしているというのに。


 「いやね。何だかこの雰囲気いいなぁ~って。」


 「いや、何がだよ?俺、弄りか?どんだけSなんだよお前ら。」


 言っとくけど俺はMなんかじゃないからね。いたって普通。ノーマル。意味ない喧嘩はしないが意味ある喧嘩はする。そんな男です。

 うん。全く関係なかったね。なんかすいません。


 「違う。違う。僕達、ゆうちゃん苛めてないし。楽しんでないし。」


 「ほんとかよ‥?」


 手をパタパタ。慌てて否定する桜木にジト目を向ける。

 観察結果。コイツはそのようだが残り二人は多分違う。 桜木の次に蔓実へ視線を向けたがそっぽを向かれたし、波瀬に関してはニッコリ微笑みを外さなかった。ほんと、怖いよ。お二人さん。まぁ、美少女二人に弄られるってのも悪い気はしないんですけどね。本音は。えぇ、まぁ。


 ‥とか言ったら変な疑いを持たれる!違うから。俺、ノーマルだから。


  とかなんとか一人、馬鹿な漫才をしていると正面の桜木には落ち着いた声が戻っていた。


 「いやね。こうして皆で笑って過ごせるって幸せだなって。できることなら‥。ううん。何でもない。気にしないで。」


 桜木は何かを言おうとしてその言葉を急遽呑み込んだ。そして、追求を逃れる為だろう。慌てて窓の外に視線を泳がせ、どこか寂しそうな顔を。そして体を少しだけ震わせていた。


 「さ‥」


 そんな姿を見せられれば誰だって気付く。気付いた事は多少違えど誰しもが同じような考えを抱いたのだろう。その一人、蔓実が口を開いた。が、その口を俺は腕を横に上げ、彼女の口を行動だけで閉ざした。


 「‥ごめん。」


 「いや、謝られることじゃない。」


 「‥うん。」


 俺と蔓実は視線を合わせず、短い言葉だけを交差させた。

 時刻も頃合い。他の部活動等も後片付けやら明日の最終打ち合わせやらをしている頃だ。のに俺達に流れる空気は終われようとも終われるような雰囲気ではない。このまま帰ってしまえばやりきれないモヤモヤした感じで明日を迎えることになろう。それは明日への結果にも繋がること。よろしくはない。


 ただ―


 「・・・・・・・・・・・・。」


 誰も口を開こうとはしない。いや、開けないのだ。桜木が思い、言おうとした言葉。

 

この部を。こうした時間を永遠に過ごしたい。


 恐らくはそんな感じの言葉だ。


 何故、この時、そんな言葉を言おうとしたのか。それは明日の結果次第でこの関係が終わるかもしれないからだ。それは始めに了承を得た事だった。それは皆も理解している。それは分かる。分かるからこそなのだ。永遠で当たり前にあると思っていたものがいざ無くなるかもしれないとなったら人間はどんな心境を抱くだろうか?分かっていても意識してしまう。無くしたくないと。まだ居たいと脳で分かっていても思ってしまう。だから、桜木は口を滑らしたのだ。さっきの雰囲気を見て。


 ‥だが。それでも俺達は後には引けない。ここで引いたら楓香ちゃんがどうなるかなど想像するまでもない。

 

 下校を報せる放送が流れ始める。波瀬が無理に笑みを浮かばせ、皆に帰り支度をするようにと口を開いた。そこで俺も声を発す。


 「‥明日」

 

 はじめ俺は一人で楓香ちゃんの問題を処理しようとしていた。それでも皆が協力してくれると言ってくれた時、少し安心したのだ。知らず知らず、俺もこの関係に心地よさを感じていた。

 だから、頼ることにした。高校に上がるまで。桜木と出会うまでそんな事は絶対にしなかっただろう。一人でできると思っていた。頼れる人間などいなかった。けどできたのだ。俺にもそんな存在等が。だから


 「明日、部活動紹介が終わったら楓香ちゃんと柿宮も誘ってどっか行こうぜ。この時ばかりは俺も男を見せる。」


 放送の音も小さくなり、静かで暗い部室。そこに俺の声はいささか大きく響いた。だから、さすがの俺も恥ずかしいと感じてしまう。

 だが、後悔はないし目も伏せたくない。


 数秒。窓辺の方から笑い声が溢れ、耳に入る。


 「はは。何が男見せるよ。はは。かっこ付けすぎ。バカ。はは。ほんと、あんたバカ。」


 いや、うん。言いたいことは分かるよ。俺も言い終わって調子乗ったなぁって。思いましたからね。えぇ。だから、そんな笑わないでよ。泣いちゃうよ?



 「そう?なら、どっか高いお店探さないとね。せっかく新戸君が絶食を覚悟してまで私達に振舞ってくれるって言うんだから。私も頑張るわ。」


 「いや、波瀬さん‥」


 誰がそんな僧みたいなことするって言ったよ。だけど、マジでなりそうだわ。この人、冗談か本気かマジで分からん。


 俺が悪女二人から散々、弄ばれていると。ようやくもう一人にも笑顔が戻った。

 

 「‥ふふ。そうだね。明日は皆で愉しもっか。」


 「あぁ。明日も明後日もだ。」


 俺は言う。当たり前のように来る明日をそうであると。


 「うん。」


 桜木もそれに応えるよう、表情を元に戻した。だが、それは結局は表面上にすぎない。奥底での不安は解消できる筈がないのだ。それでも失敗ばかりを考えては暗くなる一方。それを明日まで引きずれば足を掬われるのは目に見えたこと。

 俺の言った言葉は傷口に絆創膏を貼った程度のものだろう。だが、それでもここまで雰囲気を取り戻せた。皆、望んでいるのだ。来るべき明日を。青春の日々を。

 誰かの言葉で確認を取れた。皆の心を確認できた。皆同じだ。気持ちは一つ。だから、こうした安心が生まれる。不安はしているが安心もある。矛盾で理屈の通らない感覚。それでも一つ言える。


 もう。大丈夫だ。


 「んじゃ、まぁ。帰るか。」


 俺の一声に三人は首を動かした。誰一人、さっきまでの表情をしていない。三人はそれぞれ楽しい会話に花咲かせ、いつも通り俺は一人蚊帳の外。そして、いつも通り最後に部室を出る。

 その時、ふと首が後ろに動こうとした。だが、それは違うとゆっくり首を元に戻す。

 ぴしゃりっ。静かに扉を音発て、先に行った三人を追いかける。春はまだ始まったばかりだというのに。終わりを考えるなどなんて滑稽だっただろう。


 ゆっくり三人に近付きながら俺は軽く首を横に振るった。

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