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俺の彼女は…  作者: イスカンダル
3章 来春
30/59

新春

 早いものでそこそこにあった春休みもついこの間に終わり、今日から新学期。進級である。


 「ふゃぁ~ぁ。」


 春休みの間、自堕落な生活を送っていた為にこの時間の起床はかなり眠い。昨夜も学校の存在を忘れていた為に調子こいて深夜まで起きていたし‥。


 「もう、ゆうちゃん。またゲーム?駄目だよ。ちゃんと寝ないと。」


 「はいはい。」


 今日のこの時間、俺がこうして目を開け、歩けているのは何を隠そう桜木の呼び出しの賜物である。

 ほんと、学校ある日に毎日、毎日ご苦労様だ。

 助かる日は多少。うっとしいと思う日も多少。止めてくれともありがとうとも言えない何とも言えぬ心境である。


 「でも心配だなぁ~。僕、ゆうちゃんと同じクラスになれるかな~?」


 胸に手を当て、本当に心配そうに呟く桜木。まぁ、気持ちは分からなくはない。‥いや、やっぱよく分からん。クラス変えなんて席替えとさして変わらんだろ?


 「どうでもいいだろそんな事?」


 「もう、ゆうちゃんはどうしてそう冷めてるかなぁ。ほんとに、もうっ。」


 「いや、だが。正直な感想だしな‥」


 今更、性格をどうにかしろとか無理難題である。大体、どうせ学校行くのも帰るのもこれまでどうりだろうしクラス変わろうが本当にどうでもいい。


 「でもさ、でもさ。蔓実さんと波瀬さんとも一緒だったら最高だと思わない?」


 「いや、別に‥。」


 嬉々とした声とは対照的な声音を俺は口から零す。逆に蔓実と一緒のクラスとか勘弁して貰いたい。俺は穏やかな学園生活を求めているんだ。


 「ほんとに、ゆうちゃんはつまらない人間だな。もう少し感情を表に出した方がいいよ?誤解とかも生まれるだろうし。僕は別にかまわないけど・・。」


 そんな桜木の発言に少し口元が歪む。


 「いいんだよ。俺はこれで。感情なんて一々、出してたら疲れる。大体、クールな男子は何気に人気高いんだぞ?」


 「えー?そうなの?でも、ゆうちゃん全然、モテないよね?」


 「うるせぇ。それは、ほっとけ。」


 季節は春。満開に咲いていた桜の木々はその鮮やかさを三分の一程度しか見せてはいないが春を感じさせるには十分。生暖かな風。太陽の光がいつも以上に眩しく感じる。

 何も変わらないし、何も変わっていないのにやはり春は少しだけ何かを期待してしまう。期待するだけ無駄だと知っておきながらも俺は何かに期待した。


 何かが生まれる春。何かと出会う春。何もかもが解決する春。


 そんな期待と憂鬱な心情を胸に新学期。二年生への生活が今日から始まるのだ。


 **************


始業式のつまらない挨拶もつい先程、終わりを迎え、今は新たな教室。その一席に腰掛けていた。


 ふー。

 などと息を吐き出すのも数秒。喧しい声が参入。


 「ゆうちゃん。真面目に聞いてた?寝てなかったよね?」


 「あ?あぁ、おう。聞いてた。聞いてた。」


 「嘘。あんたが真面目に参加してるわけないじゃない。私でもウトウトしてたのに。」


 「ふふ。麗華、何度も首振ってたもんね。」


 わいわい。ガヤガヤ。担任の教師が来るまでの時間。この教室は煩い。そして何故か俺のいるこの席でもその原因を作っている一つとなっていた。

 と、まぁ。それは置いとくとして。‥な、何故こんな事に?


 いつも通りの通学路を、いつも通りに桜木と歩いていたまでは良かったんだ。

 だが、その後。学校に到着して見た紙に俺は数秒間の硬直を可能にしてしまった。

 何でよりによって全員が全員揃ってしまったのだろうか‥?これは偶然なんかじゃない。裏で糸を引いてる者がいたに違いない。

 そしてそれが出来る人物は咄嗟に考え、三人いたわけなのだが。


 「それにしても偶然ってあるものなのね~?四人全員が揃うなんて。」


 どこか嬉しそうに波瀬が誰にともなくそう言う。


 「まぁ、心当たりなんて限られるけどな。」


 「え?そうなの?誰?誰?」


 俺が素っ気なくそう言うとその心当たりの一人が顔を近付けて問いてきた。


 「いや、父親が権力持ってるお前とか。同じ理由で理事長のご息女である生徒会長とか。後、一応。椚とかな。」


 以上三名。咄嗟に思い付いた者である。その中でも俺が一に睨んでいる者は生徒会長である。後から聞いた話ではあったがあの人、理事長の娘らしい。

 とは言え、そんな重大発表をのほほ~んと言われたので信憑性は疑い深いが‥。

 まぁ、あの人が嘘吐く理由がないのだが‥。


 「え~。僕は違うよ。」


 「なら候補は二人だな。まぁ、それならもう確定的にもなるんだが。」


 椚がそんな面倒事をしてくれるとは思えない。

 

 「ちょっと、焦れったいわね。いいから早く教えなさいよね。」


 「あ、あぁ。」


 蔓実の迫力に思わず体が仰け反ってしまった。机に両手を置かれ、勢いよく問い質すとかどこの警察官だよ。カツ丼とかくれるの?


 「あ、だから‥」


 と、あっさり白状しようとしたその時。その時を見計らってか教室の扉が音を発て、スライドされた。


 「はいはい。皆、席に着いてー。」


 元気でよく通る声。名簿を片手に現れたのは確か新任教師紹介時にいた三人の中の一人。名前はえっと‥谷江(たにえ) 鏡花(きょうか)先生だったかな?

 そう薄らいでいた記憶をボンヤリと思い浮かべているとチョーク音が黒板に走り、その名前が確実となる。

 見た目は体育系のサバサバしたお姉さんと言った感じ。結構、顔立ちも整っており、男子生徒の人気は高けぇな。などと思える。年齢も近いし。


 と、まぁ。特に変わった事もなく始まり終わったHR。毎回思うが何で自己紹介なんてしなくちゃなんないんだよ。趣味とか特技言う必要が全く分からない。名前だけでよくない?


 まぁ、じゃぁ、帰るか。


 今日は始業式。午後の授業は勿論ない。早く帰って昼メシでも適当に作って食そう。何、作ろうか? 

  

 「じゃぁ、行こうか。ゆうちゃん。」


 「は?あぁ、そうだな。帰るか。」


 いつも通りと言えばいつも通り。帰り時間に桜木が俺の元へとやってきた。


 「ん?違うよ。部活だよ。部活。何、言ってんの?ゆうちゃん。」


 「‥いや。え?はい?」


 そっちが何言ってんの?


 「ほら、蔓実さんと波瀬さんも待ってるし。早く行こうよ。」


 見れば桜木の背後には二人が鞄を肩に掛け、立っている。蔓実が不機嫌そうなのは言うまでもなかろう。

 とは言え、え?部活?こんな時にもあるの?いや、何で?運動部でもないのに?全国とか行くん?俺ら?


 「あっ、えっとだな。悪い。何でこんな始業式の後に部活あるんだ?てか、何すんだ?」


 正直、行きたくないです。いや、行く理由が分からない。俺はマイスイートホームに帰りたいんだ。

 との想いを口で言わずとも伝えるように言ってみる。


 「ん~?何って言われてもこれからそういうの決めるんでしょ?だから部活行くんだよ。」


 「お、いや。うん。そう‥なのか?」


 自信満々にそう言い切られるとよく分かんなくなる。俺が間違っていたのか?


 「どうでもいいけど。長くなるんだったら私達、先に部室行ってるけど?」


 そう不満気な声を発した蔓実は波瀬を誘うように袖を引っ張っていた。いや、ごめんなさいね。


 「あぁ、分かった。行くよ。行く。行く。はぁ~、ほんと何すんだよ。」


 これ以上、ここでグダグダしていても仕方がないのは確か。時間を有意義に使える選択ではないだろうが部室へ行って部活をやる。その言葉だけは有意義な時間。高校生らしさを感じさせると思った。


 「あっ、その前に生徒会室寄ってこうよ。会長さんにお礼言わないと。僕達を同じクラスにしてくれたのは会長さんでしょ?」


 顔をこっちに問いを投げてくる桜木。


 「あ、あぁ。その可能性が一番だな。」


 正確に言えば会長のお父さんである理事長なのだが‥。別に言わなくてもいいだろう。

 頷きを一つ俺は桜木へと言葉を返した。


 「んじゃぁ、行こっか。」


 「あ、あぁ。」


 そうは言ったが礼とか何で言わなくちゃならないのか甚だ疑問である。むしろこんなクラスにした事に謝罪してもらいたいくらいだ。

 とは言え、それは俺個人の意見であって皆。特に桜木の意見とは大きく異なる。

 という訳で溜息を口と心中、共々から吐き出し、俺達は始業式。学校生活のリスタートのその日に生徒会室へと訪れるのであった。


 **************


 見覚えのある扉を数回ノック。数秒後、中から聞き覚えのある声が返ってきた。


 「どうぞ。」


 という聞き取りやすい返答をきちんと聞いて、いつしか感じた感触の取っ手に手を掛ける。

 ギーと軋んだ音も相変わらずで開かれたその扉。


 「お、おぉ。」

 

 開いた扉の先。だが、その扉の中で俺達を待ち受けていたのは頭の中で予想していた人物とは異なった。いや、頭の中で想像していた人物もいたにはいた。

 のだが、そこには予想に反した人物が三人。今日はそこにいたのだ。


 「んだ~。またお前らか~?ここは何でも屋じゃねぇ~んだぞ~。」


 来訪した俺達を一瞥。まず、声を投げてきたのは相変わらず今日もダラダラ。面倒臭そうに椅子に座りで机に顔を付けていた我が校の会長である。


 「あっ、いや。僕達はその今日は要件とかではなくてお礼をしたいなと。」


 「礼~?」


桜木が少し遠慮気味に口を開くと当の会長は何のことやらと首を傾けた。


 「会長さんがしてくれたんですよね?僕達を全員、同じクラスに‥?」

 

「あぁ~。まぁな。そこの二人はお前らと一緒の方がいいかと思ってな~。まぁ、裏で色々やったのは父さんなんだがなぁ~。」


 あぁ。成る程。全く、余計な気遣いを‥。


 相変わらず気の抜けた会長の言葉を耳に俺は納得と共に心中、溜息を吐き出す。


 「そ、その。ありがとうございます。」


 「ありがとうございます。会長。」


 「‥別にそんな事しなくても‥。まぁ、でもお礼は言うわよ‥。」


 俺の心中も知らず、礼の言葉を頭と共に下げる三人。その光景を横に、自分はただ突っ立っているだけなのも耐え難い。仕方なく自分も三人に便乗。礼の言葉を口に頭を下げることにした。


 「にしても、何かあったんですか?今日はその全員、いますけど‥」


 下げていた頭を上げ、俺は最初に抱いた疑問をそれとなく投げかけた。この言い方だとまるで生徒会はまるで仕事していない。やっと仕事する気になったか。うんうん。働け、働け。この社畜がぁーー。みたいな言い方になってしまっている。‥いや、なってないか?‥なってないよね?


 「別に何もねぇよ~。ただ、新学期も始まったからな~。歓迎会やら部活動紹介やらで色々、企画しなきゃならない事があんだよ~。だから、この時期はいつも忙しいんだ~。分かったらさっさと帰れ。帰れ~。」


 そうは言うもこの空間で一人だけそう見えない人物では説得力に欠けている。

 まぁ、それでも残り四人を見れば会長の言い分には頷かざるを得ない。今日に至ってはいつも素早くティーカップを運んでくる麻凛さんでさえも今日は自前だろうか?机上に乗るノートPCをカタカタ。カタカタ。リズムのいい音を鳴らしている。その様子では俺達の来訪にさえ気付いていないと思われる。集中力が凄すぎる。

 

 「そういうことならさっさと行こう。僕達の目的は果たされた訳だし。これ以上は邪魔になるよ。」


 「あ、あぁ。」


 見慣れない風景に目を奪われていると横から桜木の声と共に袖を引っ張られる。

 まぁ、長居する意味もない。そもそもここに来る意味も分からなかった。そしてこの後、部室に行く意味も分からない。

 とは言え、さっき何か変な言葉を聞いたような?はて、なんだったか?


 などと思いに頭抱えているとふっと聞き覚えのない人物の声が俺達に掛けられた。


 「あぁー。君達ぃ?噂のホモカップル?はは、噂通りだ。でも、ほんと女の子みたいだ。これなら俺もイケルかもなんて。はは。」


 「‥おい、お前。」


 ドアノブに掛けていた手を止め、俺は怒りを顕にした目線をその人物に向ける。


 「おぉ。怖っ。冗談、冗談。そんなガチな顔しないでよ。」


 その人物。髪を脱色した薄茶色に染め、長い前髪をヘアピンで止めているいかにもチャラい人物。そんな人物は口元も表情も緩め、俺の怒りを受け止める。


 「っ‥。桜木‥?」


 その態度に腹が立った俺はその為の行動を決行しようとした。のだがそれは急遽、掴まれた桜木の手によって防がれた。


 「駄目だよ。こんな所で問題なんか起こしたら。それに僕は気にしてないから。」


 「‥お、おぉ。‥お前がそう言うなら。」


 不安そうな桜木の顔を見たら少し頭が冷えた。確かにこんな所で問題を起こせばどうなるか分かったもんじゃない。しかも相手が相手だ。劣勢なのは言うまでもなかろう。


 「はは。いいね。いいね。熱いねぇ~。お二人さん。」


 我慢だ。我慢だ。


 掛けられた言葉は拳を握って抑える。それでもその人物の挑発は止まらない。


 「ねぇ、ねぇ。どっちが告ったの?ねぇ?ねぇ?俺にも教えてよ?ねぇ?」


 我慢だ。我慢だ。


 「あっ!?もう経験は済ましたのかな?ねぇ?そこんとこ詳しく教えてよ。はは。ねぇってば?」


 ‥我慢。我慢。‥


 「ねぇ?ねぇ?」


 我慢‥できるかぁぁぁぁ!!!


 握っていた拳をそのまま。前のチャラ男、目掛けて振るおうとした。が、その行動はある人物によって止められた。

 いや、止めたのは俺なのだが‥。


 「‥いってぇぇ。何?何?麻凛ちゃん?ちょっと、可愛い後輩をからかってただけじゃん。」 


 「黙って下さい。ほんとに、貴方という方は‥。申し訳ございません。うちの庶務が気に障るような発言を多数‥。あっ、何か要件がございましたのですよね?どうぞ、掛けてお待ち下さい。今、お茶をご用意なさいますので。」


 スパコーンッ。という音を鳴らしてチャラ男の頭を叩いたのは我が生徒会の輝かしい人物。麻凛さんであった。だが、しかし。本当に集中していたのだな‥。


 「えっと。その…ありがとうございます。ですがもう要件は済んだのでお茶は結構です。その気持ちだけでもありがたく受け取っておきます。」


 「ヒュー。ヒュー。モテる男は言う事も立派だねぇ。‥って、また?麻凛ちゃん!」


 懲りず。再度、俺にからかいの言葉を投げた人物は麻凛さんの平手をまたもくらっていた。


 「貴方は少し、口を閉ざして下さい。全く、仕事もどうせ途中なのでしょう?無駄口を叩いてる暇があったら仕事して下さい。」


 「そうだぞ~。あんま、二年。苛めんな~。」


 「会長もですっ!!」


 一応、会長として一言言っておきたかったのだろう。だが、それが麻凛さんの射程圏内に入ってしまったようだ。

 それはそうとして。


 「すみません。お忙しい時に麻凛さんのお手を煩わせてしまって。では、俺達はこれで。」


 敢えて、麻凛さんの名前だけを大きく主張する。その意味に気付いたかどうかはどうでもいいがチャラ男は何も言ってこなかった。さすがに三度の麻凛平手はくらいたくなかったのだろう。


「ごめんね。新戸君に桜木君。成宮さんは先日、彼女と別れたとかどうとかで君達みたいな仲睦まじい関係に妬みがあるみたいなんだ。」


 作業する手は止めることなく言葉を掛けてきたのはどこかで見たような?いや、見てないな。というような眼鏡を掛ける知的そうな男だった。


 「‥あっ、うん。」


 あちらはこちらを知っているというのにこっちは知らないというのは何とも言い難いものがある。一応、生徒会メンバー。あちらも自分の事はご存知だろうと思っている筈だ。曖昧な返答を返し、この場から早く撤退するに越したことはない。


 「はは。いいよ。そんな気を回さなくても。僕の名は刈谷(かりや) 駿(しゅん)。君達と同じ、二年だよ。どうせ、此方の女性も知らないのだろう?紹介するよ。会計の水瀬(みずせ) 美月(みつき)さんだ。水瀬さんも同じく二年生だ。」


 紹介された女子生徒。名前を美月さんというらしい短髪の髪がよく似合うその人は俺に気付くと恥ずかし気に軽く会釈した。かと、思うと直ぐに電卓に指を走らせる。その音がさっきよりも速いことから彼女はかなりの人見知りなのだろうと推測できた。


 「あっ、うん。これはご丁寧にどうも。」


 全て見透かされていた。何だか申し訳ない。


 「何?何?あんた、生徒会のメンバーも知らなかったの?私でも知っていたのに。」


 「はは。ほんと、新戸君は駄目だね~。」


 二人からのダメだし。いや、もう。ほんと。それには反論できない。これ以上、ボロが出る前に撤退した方がいいだろう。


 「まぁ、じゃぁ。俺達はこれで。まぁ、何だ。お仕事頑張ってくれ。」


 そういや、あのチャラ男の名前だけ知らないな。まぁ、問題ないな。うん。チャラ男だし。興味ない。ない。

 そんな思いを頭に、今度こそこの場を離れようとした。のだが。またも邪魔が入る。


 「あぁ。待った。待った。新戸君達、部活新たに作ったよね?」


 「ん?あぁ。まぁ。」


 手を止めたのは人の良い笑顔を顔に刻む紹介に預かった刈谷 駿。

 確かにアニ研部は一度廃部となってまた新たに作られたという形になっていた。活動も部員も来ていなかった部活はやはり部としては成り立っていなかったようなのだ。


 「その部活の部長って誰かな?」


 「部長?」


 「うん。」


 そう言えば誰なんだ?確か、アニ研の前部長は蔓実だった。だが、まぁ。色々あってアイツはそれを辞退するとか言ってたし。

 だとすれば普通に考えれば部の設立を考案した桜木なのだろう。

 チラリ。そんな思いを含めた視線を桜木の方へ向ける。

 そしてその当人は視線に気付くとニッコリ。微笑みを返し、首を縦に動かした。


 うん。うん。よく分からんが後は桜木が上手くやってくれるだろう。そんな安易な事を考えていると違った。


 「部長はゆうちゃんだよ。」


 「は?」


 全然、分かってなかった。あの自信に満ちた頷きはなんだったんだ‥。


 「そう。じゃぁ、新戸君。君達のだけ出てないんだ。はいコレ。期限は一週間後で構わないからちゃんと提出してね。あんま遅いと成宮さん‥。あっ、紹介がまだだったね。一応、紹介するけど庶務の成宮(なりみや) 亮介(りょうすけ)さん。その成宮さんの反感買うよ。」


 ニコリッ。何度見ても恨めない笑顔を顔に刈谷 駿はその何だか分からない一枚の書類を俺へと差し出す。

 

 ‥って、いやいや。


 「いや、いつから俺が部長なんてポジションになったの?」


 「ん?だってさっきのは自分に任せとけ。ってサインだったんじゃ‥?それとも嫌だった?部長になるの‥?」


 「いや、嫌というか‥」


 正直、嫌ですけど。


 「まぁ、いいや。どうせ、部長っても大したことしねぇだろ?分かった。分かった。俺がやるよ。」


 こんなことで言い合う気はない。まぁ、言い合いにもならんだろうが‥。この雰囲気では俺が桜木に部長を押し付けているみたいになっているような感じがしてならない。それは何だか釈然としない。


 「んで、何をどうすればいいわけ?」


 前に差し出された書類。それに手を伸ばし、受け取る。そしてその紙面に目を通してさっき会長の言葉で気に掛かったある言葉を思い出した。


 「あぁ、成る程。」


 「ん?何?何?」


 「ちょっと、私達にも見せなさいよ。」


 「どれどれ?」


 紙面の文字を見て溜息吐かずにいられないという状況。そこに三人の顔がみょんっと現れる。


 「あぁ、そっか。じゃぁ、この後、早速ソレについて話し合おっか?」


 「そうだな‥。」


 それしか言えない。そして同時に思う。青春の代価は時間と労力なのだ。と。

 紙面に書かれていた文字。それを見て思う。  


 部活動紹介概要。


 さて、この代価で支払われるモノはどのくらいなのかな?

 

 憂鬱とも思える想いを胸に。一枚の書類を片手に摘み。ようやく俺達は生徒会のこの場を離れる事ができた。 


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