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俺の彼女は…  作者: イスカンダル
 1章 [寒い春]
1/59

冴えない俺に彼女が出来ました


「ずっと前から好きでした。付き合って下さい。」


春。

それは人類が最も好む季節である。冷たい冬が終わり、純白色の地面が溶け、花が踊る。時には温和な風が髪を揺らし、女子高校生のスカートなんかも捲る。

 そう。春とは始まりであり、素晴らしい季節。そんな季節が遂に俺にも…


「いや、ごめん。無理。」


温和な風?花踊る?そんな季節が来るわけがない。こっちとら生を受けて十六年さっむい冬ばかりじゃっつーに。


「え?」


「え?ってなんだよ?聞こえなかったか?無理だって言ってんの。」


こんな屋上に呼び出して何の話かと思ったらこれである。本当に困る。そしてそんな表情をするな。なんかこっちが悪いみたいだ。


「何で?ねぇ、何で?僕の何が気に入らないの?直すから。ねぇ、そしたら僕と付き合ってよ?ねぇ。」


「しつこいな。無理だって言ってんだろ。大体、そういう問題じゃねぇ。」


「そういう問題じゃないなら何が問題なの?ねぇ、教えてよ?」


「おっ、おい。近い。近い。」


こんなに密着されると酷く困る。

 香る甘い匂いに惑わされる。長い睫毛が彩る澄んだ瞳に見透かされる。夕日に照らされる長く艶のある赤茶色の髪が酷く眩しい。

 つまりはコイツに見とれてしまう。


「いいから、離れろ。」


「わっ!?」


「あっ、悪い。そんなつもりは…」


自分の焦りがついつい行動に出てしまう。やるつもりは毛頭もなかったのだがそいつを押してしまった。


「ううん。僕の方こそごめんね。強引すぎたね。」


そいつはテヘッ。と小さな口から薄ピンク色の舌を出して俺に謝る。その仕草にまたも俺の心臓は速まった。

 が、それは必死に隠すことにした。


「大体、何で俺なんか。自分で言うのもなんだが俺ほど冴えなく何の取り柄もない男そうそういないぜ?好きとか言うならまずその理由を教えろよ?」


気持ちを誤魔化そうとしたのはいいが俺はなんてことを口走ったのだろうか?


「え?それはそうだな…。恥ずかしいけど言うね。」


だからそのモジモジするのも止めれ。心が持っていかれる。これはどんな吸引力を誇る掃除機よりも強力である。

とかなんとか思っている間にも会話は進んでおり。


「だって、ゆうちゃんは僕のヒーローだから。」


「は?ヒーロー?」


「うん。入学式のあの日からゆうちゃんは僕のヒーローだよ。」


夕日の光よりも紅く頬を染めるそいつは、はにかんだ笑みを俺に見せる。

 入学式のその日。確かに俺はコイツと運命的な出会いをしていた。


 時は四月。そして今日は俺の通うこととなった藍沢高校(あいざわこうこう)の入学式‥の筈だ。


「はぁ。はぁ。携帯のアラームAMじゃなくてPMにセットしてたとか馬鹿か俺は!」


 家から学校までの時間は約十五分といったところである。だが、俺に与えられた時間はよくいって八分といったところだった。


 何でそんなことになったのか?そんなのは言わずもがな。寝坊である。

前夜、高校デビューとかに浮かれて布団の中で妄想に花咲かせていたらこうなった。

 アラームを過信しすぎたらこうなった。

 言い訳など腐るほどあるがそんなもの通用するはずもない。


 「はぁ。はぁ。基本、引きこもりの俺にこの運動はきっついな…はぁ。」 


 道のりも半分と行ったところ。とうとう俺の体力ゲージは赤色に到達した。

 と、そんな時。 


「あ?」


橋の下で流れる川。そこに一人の女子高校生らしい人物が助けを乞うように両手をバタつかせている。


「は?え?なっ!?」


滅多に遭遇しないシュチュエーションに理解が追いつかない。どうすればいいのか?

始めに俺がしたことは何故か制服のブレザーを脱ぐこと。訳が分からん。

が、放っておく訳にもいかないのも確か。遅れて大人への救助という手段にたどり着いた俺は早速、辺りを見渡す。 


「あー!何で誰もいねぇんだよ!」


ざっと見だが人影らしい影はない。とかなんとかしているうちにも溺れる彼女の体力は徐々に減ってきているのだ。


「あーっ。こん畜生!」


一々、考えてる時間も人を呼んでいる時間も勿体無い。自分がいるなら自分が助ければいいのだ。

脱いだブレザーはそのまま道に放っておいて肩に掛けていた鞄も同じくその辺に放った。


「今、行くから少し待ってろ!」


聞こえていたか、どうかはともかく彼女に一言だけ伝えると俺は橋下まで最短ルートで駆ける。これで入学式の参加は出来なくはなったが仕方があるまい。人の命を放っておいて高校生になんかなれるかってもんだ。


「くっ。案外、流れが速いな。」


川に飛び込んで気付く。そう言えば昨夜は結構、強めの雨が降っていた。助けに来た俺も溺れる訳にはいかない。俺はとにかく何も考えずに彼女の救助だけを考えて泳いだ。


 「はぁ。はぁ。はぁ。うぇっ。」


朝の全速ランニングに続いて流れるプールでのスイミングとか健康によすぎだろ。

だが、まぁ。何とかなってよかった。人間やればなんでも出来るとは本当だ。


「あっ、あの?」


「ん?あぁ。無事…」


咄嗟の事でその子の容姿をあまり見てはいなかったが改めて見るともの凄く可愛い。思わず言葉に詰まる。


「ありがとうございます。なんてお礼を言えば…」


よっぽど怖かったのだろう。礼を言うその言葉も涙声で震えている。


「いや、別に普通のことしたまでだ。それより何でこんなとこで溺れてたんだよ?よっぽどのことねぇ限り落ちもしねぇだろ?」


そんな泣き顔を見せられると対応に困る。俺は気恥ずかしさを隠すように顔を逸らし、それとなく格好付けた台詞を口にした。


「えっと…その…この子が流されていたのを発見して。それで…」


 そう言う彼女はブレザーの中から汚れた小さな猫を抱えて見せた。猫は元々だろう。弱りきった顔を見せ、それでも一声。「にゃ~。」と鳴いた。


「不細工な猫だな?捨て猫か?」


「あっ、はい。多分。」


胸元で大切そうに抱えられられている猫。綺麗になったところで可愛くなるとは思えない。


「とまぁ、それはとにかくあんたも藍沢高校の生徒だろ?そのせいふ…く?」


「あの?何か?」


「あっ、いや。何でもない。いや、本当に。」


今までの違和感。極力、彼女に目を集中させていなかった為に気付かなかったが彼女の制服の下は俺と同じズボン。

 訊きたい。だが、俺は分かる男(自称)。彼女の心くらいは手に取るように分かる。ズボンを履かなければならない理由がそことなくあるのだろう。趣味でも心の問題でも私情による事情でも。何でもいい。それをとやかく訊きだすなど失礼極まりない。

 ゆえ、俺のその疑問は心の奥底にそっと仕舞い、厳重なる鍵を掛けた。


「ところで入学式どうする?あっ、俺は今年から藍沢高校に入学する新戸優一(あらと ゆういち)。先輩だったら申し訳ないっス。」


遅いかもしれないが一応、名を名乗る。美少女相手に緊張してしまったが何とかその台詞を口にすることに成功した。


「あっ、僕は桜木雲雀(さくらぎ ひばり)っていいます。同じ一年です。」


少女も慌てて名を名乗る。だが、僕っ娘って。現実にいたんだな(感動)。


「じゃぁ、桜木さん?俺は今日、学校行かねえけど桜木さんはどうする?」


見たところ彼女も俺と同じく足先から頭まで全身ビショビショ。濡れる彼女の姿に心奪われそうになるが出会ったばかりの少女に告白してフラれたら立ち直れそうにもない。必死に耐えて、訊いてみる。


「あっ、そうですね。僕も今日は欠席します。この子も病院に連れていきたいですし。」


少女が優しく猫を撫でると猫はそれに答えるように一声ないた。


「そうか。じゃぁ、桜木さん。あんた家は?ここから近いのか?」


「あっ、その…僕の家、電車かバスに乗らないと一時間くらい掛かります。」


「あぁー。」


 中学とは違うのだ。学校の近くに家があるとは限らない。

だが、困った。この流れでは俺が家に彼女を招待しなければならない雰囲気になっている。別に俺は構わないのだがさすがに出会ったばかりの美少女を家に招き入れるのは一般男子的には問題があるとしか思えない。

 が、見える彼女の姿はとてもじゃないが電車やらバスやらにそのまま乗せられるようなものではない。


「じゃぁ、俺の家、来るか?こっからなら歩いても直ぐだしよ。」


「え?」


「あぁー。別に嫌ならいいんだ。そのシャワーと着替えくらいは貸してやろうかなとか思っただけだ。勿論、変な事はしない。うん。俺、紳士だからね。中学ではミスタージェントルメンとかあだ名だったから。」


などと言ってはみるもののこんな俺だ。疑われ、煙たがれても無理はない。嫌だと言うならばその辺の温泉くらいには同行してあげよう。


「いや、その…いいんですか?」


「は?いいって何が?」


早速、彼女に渡すお金を用意していたのだが不意に声が掛けられた。俺は素で何の事だか分からない。


「いえ、そのお邪魔しても…」


恥ずかしいのか声も小さい。だが、俺には確かに伝わった。


「え?マジでいいのか?俺の家だぞ?いや、俺とか以前に男の家だぞ?言っといてなんだが大丈夫なのか?」


素直に了承の言葉を口にする彼女に少々の不安を感じる。しかし、それでも彼女は変わらない。


「だって、新戸さん…悪い人には見えないから…」


 更に声のトーンを低めに言う彼女。正直なところを言えば本人がいいというのなら俺の家に招待する方が楽だし、時間的にもそれがベスト。


「まぁ、そういう事なら行くか。汚い所だから変な期待はするなよ。」


「はい。」


彼女は何が嬉しいのかさっきまでの声が嘘のような元気な声音を聞かせた。


 ―


 「やっぱ、少し大きいな。」


それほど時間も掛けずに我が家に到着した俺はレディーファーストということで先にシャワーを彼女に譲った。


「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。このお礼はかねて。」


「いや、何もいらねぇから。」


美少女が俺の服を着ている。別にそれ洗濯しなくていいからね。とか、心中穏やかではなくそんな事を口にする。


「いえ、そんなわけには。」


いいと言っているのにも関わらず彼女は困り顔を俺に見せていた。だが本当に大したことをやったとは自分でも思えない。だから礼とかを貰う義理もないのだ。


「だからそんな気に止めるようなことはしてねぇって言ってんだろ?俺もシャワー浴びてくるわ。」


これ以上、ここにいても話は出口のない会話を進める一方だろう。早々に逃げるに限る。美少女の困り顔なんて見たくない。


 「っと、そう言えば桜木さんの洗濯物どうすっかな?洗うのはともかくとして干すのはな…」


濡れたもの全て洗濯機の中、突っ込んどいてと言ったのだ。当然、下着やらの物もその中に含まれているであろう。俺的には人生最大級の大イベントなのだがヘタレな俺には少しばかり抵抗を感じてしまっていた。


「…って待て待て。とういことは彼女は今…穿いてないのか?ゴクリッ。」


何故、それを今まで気付かなかったのか?それが不思議で仕方ない。だが、気付いてしまった。ヤバイ。これはいらんイメージが止まらない。

 と、そんな時。


「あ、あの?やっぱり悪いので昼ご飯くらい作らせて下さい。」


「え?ひゃっ!?何?」


いきなりな出来事についついそんな素っ頓狂な声が出てしまう。まだ半裸だとは言えいきなりは止めて欲しい。ていうかそういうのは男である俺の役割の筈では?違うか。


「あっ!そのごめんなさい。驚かせるつもりはなかったんですけど…」


「あぁ。別にそっちが問題ないならそれでいいんだ。で、なんだって?」


ほんと、何で見ても見られても叫ぶ方は女性限定なんでしょうかね?こっちだって叫びたいよ。きゃぁーーー。


「あっ、えっとそのお昼ご飯まだですよね?よかったら僕が作りましょうか…て。」


「あぁ。そうか。それはありがたい申し出だけど冷蔵庫ん中、確かそんな大したもん入ってないと思うぞ?」


基本、買いだめはしないタイプ。その時だけを生きる俺。なんかカッコイイ。


「そうですか?ちょっと確認してもいいですかね?」


「別にいいけど。」


俺がそう答えると彼女は「では、失礼します」と言って風呂場から姿を消した。


「ふーっ。」


彼女が消えるとそんな深い息が出た。

何の躊躇いもなく俺の家に来たことといいさっきの行動といい彼女は男に対する危機感というのが少し鈍いのではないのだろうか?半裸の俺の姿を見ても別に気にすることもなかったし。

 ただ単に俺なんか興味ゼロ。その辺の石かなんかと変わらないということならまだしも。いや、それはそれで悲しい。

とは言え、これに関しては一言言うべきであろう。今後の彼女の為にも。


「あの?冷蔵庫の中、卵と牛乳しかなかったんですけど?買い出しとか行っても構いませんか?」


冷蔵庫の確認をしてくると言っていた彼女が思惑通り、ここに帰ってくる。


「いや、昼は外でいいや。それよりも桜木さん。少し話があるんだけど。」


「はい?」


彼女はキョトンとした表情の元、首を傾げる。そんな彼女に俺は真剣な表情を返し、声すら真剣味を帯びせる。

 上半身裸ですけど。


「桜木さんは少し、自分への危機感が足りてないと思う。桜木さんは可愛いんだから悪い男に捕まる可能性は十分にあるわけだ。だからその辺を分かって欲しいんだけど…」


なんか説教みたいになっている。だが、これも彼女の為。自分がどう思われようとどうでもいい。


なのだが。


「あっ!悪い。そんな説教とかするつもりじゃなくてただ俺は君が心配で…」


話していると気付く。彼女の顔が下へと俯いている。これは完全に嫌われた。出会ったばかりの同級生男子にそんな事を言われたのだ。余計なお世話もいいところなのだろう。


だが、違った。


「あっ、あの。すみません。僕、男なんですけど…」


「は?」


恥ずかしそうに指をモジモジ。頬を赤色に。彼女はなんて言った?


「悪い。もう一度言ってくれないか?」


聞き間違いだろう。最近、寝るのも遅いし。疲れているのだ。こんな可愛い子が男なわけがない。よしっ、今度は間違えないぞ。


「えっと…ですから僕は男の子です…」


今度は目すら瞑り、頬に染まる色は朱色へとグレードアップ。声は序盤になるにつれ消えていってはいたものの確かに聞こえた。


 聞き間違いじゃなかったぁぁぁぁぁーーーーー!


は?え?まじで?この子が男?俺のこれまで会ってきたどの女の子よりも可愛いのだけれども?男?僕っ娘。ではなくガチの男?


「あっ?その…何かごめん。」


「いえ、こちらこそ。勘違いさせるようなことしてたんですよね?すいません。」


「うん。でも、お前は悪くないから。取り敢えず俺、シャワー浴びたいから。」


「ああっ、すいません!」


一瞬の出来事だった。そして彼女がここから消えたのも一瞬の出来事だった。

 

 その日。俺は彼女の下着を干した。可愛らしいものではあったが確かに男のソレだった。


 ―


 とまぁ、そんな出会いもあり、何の因果かコイツとは同じクラスに。流れでコイツとつるんでいたら。何故かこうなった。


 「いや、あの時はあれだ。仕方がなかった。他に誰もいなかったし俺じゃなくても誰しもがそうした筈だ。」


そうだ。俺がコイツに好かれる理由などないのだ。人として当たり前の事をしたまでなのだから。


「でも、ゆうちゃんはその後も、僕が飼えないって言ったゴロちゃん(猫のこと)を引き取ってくれたし。」


「いやいや。それも流れだ。あの流れで捨てるなんて人としてできないだろ?」


確かにあの時、コイツが助けたという猫は我が家でふてぶてしくも丸く太ってしまいましたがね。それは人として当然じゃない?


「それでも…それでも。」


「あぁー。とにかくお前は男で。俺も男な時点でアウトなんだよ。それじゃぁ、俺は予定もあるんで帰る。」


「あっ!ゆうちゃん!」


後ろからそんな声が聞こえるが構わず扉の元へと歩を進める。そんな俺がドアノブに手を掛けようとした時。


 ブーブーブー。

 

「あっ?電話?和明(かずあき)の奴か?」


今日は久々に中学の友達と会う約束をしていた。遅いからと電話でもしてきたのだろう。


「あっ、和明か?悪い、今行く。」


「良かったー。まだ店、行ってないんだな?」


「あ?あぁ。今、向かうところだ。」


電話に出て早々に喧しい声が返ってくる。てか、テンション高すぎやしないかコイツ?


「あー、悪い。今日、会う予定無しにしてくんねぇか?」


「あ?あぁ。別にそれは構わないけど…何かあったのか?」


訊くかどうか迷ったが何故か電話越しからも伝わる訊いて。訊いてアピールが煩く、友人に訊ねる。


「あー。それがよーっ。俺にもついに彼女が出来たんだよ。だから今日は彼女とのデートなんだわ。」


最後に笑い声を含ませ、楽しそうに言う友人に少々…いや、かなりの苛立ちを覚える。それでも祝杯の言葉くらいは掛けてやるのが友人だ。


「そうか良かったな。おめでとう。   ‥滅びろ。」


「おうよ。それより最後、なんて言った?よく聞こえなかったんだが?」


「いや、大した事は言ってない。それより切るぞ?せっかくの初デートに邪魔はしたくない。」


後、これ以上、コイツとの会話を進めたくない。


「あー。悪いなそんな気遣い。」


「いや、気にすんな。じゃっ。」


「おうっ。優一も早く女作れよ?ははは」


「あ?」


友人のそんな些細な一言で通話終了ボタンを押す手が止まる。


「ん?どうした?」


そんなに大きくはなかったにしろ声がきこえていたのであろう。和明は俺にその答えを訊ねてきた。


「いや、お前のさっきの言葉。まるで俺には今の今までの人生で女が作れてないみたいな言い方だったよな?」


「ん?そうじゃないのか?」


怒りを抑える俺に対して和明はのほほんと答える。それに更なる怒りが込み上げてきた。感情を抑えるもそれを隠せれたかどうかの自信はない。


「いやいや、お前に出来てて俺に出来てないわけがないだろ?」


「むっ。そうか。そうか。なら、証拠だな?俺も俺の今日のデート写真。

ツーショットをお前に送る。だからお前も俺にそれと似たようなものよこせ。それくらいあるだろ?ふふ。」


完全に信じていない。そんな事にむきになるとは俺もまだまだ子供だと思う。しかし乗りかかってしまった船。最後まで通すしかない。


「あー。いいぜ。いくら俺の彼女が可愛いからって泣くなよ?」


「あぁ。はいはい。期待して待ってるぜ。」


最後に含み笑いをわざとらしく聞かせて和明は通話を終了した。耳に残るのはそれを報せる音ばかり。


 カー。カー。

上空で一羽の烏が鳴き声を上げる。


 しっ、し、しまったーーーー。


馬鹿な友人の馬鹿な挑発につい、見栄を張ってしまった。

 和明とは古い付き合いで何かと競いあっていたのだ。そんな彼に先を越されたとあった。それでもかなりのダメージだったのにだ。あの言葉はないだろ?耐えて、電話終了しようとしたのに。


 と、扉に前のめり。後悔していても仕方がない。何とか和明に納得してもらうような証拠を作らなければならない。自分から謝るなんて死んでも嫌だ。

 そうと決まればやることは一つ。


「おいっ。」


俺は向けていた背中を後ろへと振り返らせる。


「なっ…何?」


「うっ…。」


俺にフラれて泣いていたのだ。潤んだ瞳がとても卑怯すぎた。てか、フルとかそんな問題でもないんですけどね。

 とにかくさっきの話をコイツに聞かれていなかった事に取り合えず胸を下ろす。


「あのだな。付き合うって言っても具体的にはどうするんだ?」


経験がないから分からない。わからないなら訊くしかないのだ。その本人も知ってるとは思えないが。


「え?えっと…それは僕達高校生だから一緒に学校行ったり、帰ったり。寄り道したり休日は一緒にお買い物とかするんじゃないかな?ぐすりっ。」


「あー。成る程。」


言われて思う。それって。今のコイツとの関わりと大して変わらなくね?

朝の登校はしてないにしろ下校は殆どがコイツとだし。寄り道だってたまにする。休日の買い物はしたことは一・二回ほどしかないが別にいいだろう。


「どうしたの?そんなこと訊いて?」


この会話の流れで気付かぬとは。口では言わないが心の中では呆れてしまう。

 とは言え、桜木が気付いていないのならば俺から言わなければならない。それはかなり嫌だなのだが‥。

 それでも、今日中に女の子を作れる自信はミジンコ程もない。第一、ナンパとか出来ない。ならば言うしかない。


「あっ、あのだな。さっきの話。あれ。いいぞ。」


「へ?」


桜木は目をパチパチ。長い睫毛にのる涙の雫を地へと落とす。


「それって…その。」


信じられないと言った感じ。俺とて自分で何を言っているのか信じたくない。だが、それしか手がないのだから仕方がない。それに別にコイツの事は嫌いではないのだ。


「はぁ~。取り敢えず。写真撮ってくれないか?記念ってことで。」


「うっ、うん。やった!やった!僕、嬉しい!うわぁーーーーん。」


全力で泣く桜木を見て俺は少し心が痛んだ。

 自分の見栄の為とはいえ俺は彼に最低なことをしてしまったのではないのだろうか?


 その日。映った写真で俺は笑ってはいなかった。


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