~河戸隆二の場合~
もし、このクラスの中で最強の奴は誰かっていうアンケートをしたなら、間違いなくぶっちぎりの一位はこの俺、河戸隆二になるだろうね。
なぜなら、この俺のすごさはクラスの奴なら誰もが知ってることからだ。
俺は今まで一度も喧嘩と名の付くものに負けたことがねえ。
いわゆる常勝不敗の男ってやつだ。
まあ、実際の殴り合いの喧嘩はしたことねえけど、それはしょうがねえ。
何しろ 俺がボクシングジムに通ってるのは同学年の奴等ならみんな知っているからな。
誰もビビって喧嘩なんて吹っかけてこれねえのさ。
今はまだ遊び半分でやってるボクシングだが、俺が本気出せば世界だってチョロイだろう。
俺には栄光に満ちた自分の将来がはっきりとイメージできる。
まずは17歳の最年少でプロデビューだ。そして、そこから俺の破竹の連勝街道が始まる。
すべての試合を一ラウンドKO勝ちした俺は日本チャンピョンになり、マスコミの注目の的になるだろう。天才だと。
そのまま勝ち続けた俺は、無敗のまま世界チャンピョンになる。
金も名声もすべてを手にした俺には当然、女もたくさん群がってくるだろう。
だが、俺には心に決めている一人の女がいる。
俺はちらりと左後ろを振り返って、そいつを見た。
そこには、マジな顔でノートをとっている篠原亜美がいる。
亜美はクラスで一番かわいい女だ。
だからこそ、この俺にふさわしい。
きっと将来は俺の女になっているだろう。
俺は、俺みたいなスペシャルな人間に生まれてきたことをマジで幸運だったと思ってる。
もし、ただの凡人に生まれてたりしてたら、くそつまんねえ人生を送るしかねえもんな。
例えば…、
俺はまた左後ろを振り返る。
そこには魂の抜けたような面でニヤニヤしてるモブオがいた。
本名は椎名伸夫。モブオってのは俺がつけたあだ名。
三歩歩いたら忘れちまいそうな地味顔のあいつにぴったりのあだ名だと俺は思ってる。
ダチ公もいなくて趣味はネットゲームという根暗な奴だ。
あんな奴に生まれなくて良かったと心底思うぜ。
……それにしても、退屈だ。
ちなみに、今は二時間目の数学の授業中。
先公の赤城が黙々とチョークで黒板に何か書いているが、俺にはどうでもいいことだった。
将来の世界チャンピョンに数学の勉強などクソの役にも立たない。
シャードーボクシングでもしていた方がはるかにましだ。
だが、さすがに授業中にシャドーボクシングは出来ねえ。
そういうわけで、俺は日課にしているイメージトレーニングをすることにした。