~椎名 伸夫の場合~ 3
「伏せろ! 皆、伏せるんだ!!」
伸夫は叫びながら、机の上から銃だけを突き出して応射する。
突如始まった銃撃戦に教室は再び大パニックとなった。
伸夫が机から顔を出して応戦しようとしても、激しい弾幕に阻まれてしまう。
机の陰から身動きが取れず、弾も残り僅かしかなかった。
敵は四人。しかも全員が戦闘のプロ集団である。
普通に考えれば伸夫に勝ち目はないだろう。
伸夫はここであえなく最期を迎えることになるのだろうか?
そして、亜美はテロリスト達によってその純潔を散らせてしまうことになるのだろうか?
否!
伸夫には起死回生の秘策があった。
その為に、弾薬を節約しながらずっと待っていたのだ。
そして、その“時”はついにやって来た。
突然、敵の銃撃がぴたりと止んだのだ。
刹那の静寂が教室を支配する。
伸夫は満を辞して机の上から顔を出し、銃を構えた。
〔リロード〕
どんなに優れたソルジャーでもその一瞬だけは無防備になる。
伸夫はすべての敵の残弾数を正確に把握していた。
そして、威嚇射撃を用い、ときに自らを囮として四人の敵が同時に弾を撃ち尽くすよう計算して戦っていたのだ。
それはまさに伝説のソルジャーだけが為せる技だった。
リロードを終えたテロリスト達が物陰から顔を上げた瞬間、彼らはこの世からおさらばすることとなった。
四人そろって伸夫のヘッドショットを喰らったからである。
もぐら叩きの名人もビックリの早技だった。
「し、信じられん。そんな莫迦な」
配膳台の裏からこの光景を目にしたリーダーは、ありえないという風に首を振った。
「さあ、これでもう勝ち目がないということが分かっただろう」
伸夫は銃を構えたままゆっくりと配膳台へと近づいた。
「観念して降参するんだな」
リーダーはよろよろと配膳台の陰から這い出てきた。
「お、お前は一体何者なのだ?」
リーダーがかすれた声で訊いてくる。
「おれか? おれの名はNOBUOだ」
「NOBUO!? そ、そんな……ま、まさか!」
リーダーはブルブルと震える手で伸夫を指差す。
「まさかあの伝説の…」
「そうだ、おれはかつてFPSゲーム〔GUNWORLD〕のハイスコアランキングで一位をとったあのNOBUOだ」
伸夫はリーダーに銃口を向けて言った。
「これで、ゲームオーバーだ。武器を全部捨てな」
リーダーは生気を抜かれてしまったようにぐったりすると、腰に装備していた武器を伸夫の方へ放り投げた。
「ふっ、ミッションコンプリート」
伸夫がキリッとした顔で言うと、床に伏せていたクラスの全員が立ち上がり、わっと歓声を上げた。
「キャー! 伸夫くーん、めちゃくちゃかっこよかったー!」
「ノブオ~、お前ってすっげえ奴だったんだなー!」
クラスメート達から賞賛の声、羨望の眼差しが伸夫に注がれる。
だが、伸夫には一人の女性しか見えていなかった。
―亜美ちゃん
亜美は胸の前で手を合わせ、まっすぐ伸夫の方を見ていた。
二人の視線が重なり合う。
「伸夫君…」
亜美が伸夫の方へと一歩足を踏み出した瞬間、突然背後に立った何者かの腕が亜美の体をがっちりと拘束した。
「キャー!!」
突然の出来事に女子達の悲鳴が教室に響き渡る。
「き、貴様!」
「はっはっはっは。甘いなNOBUO! ハッピーエンド直前のどんでん返しはお約束だぜ!」
降参してへたり込んでいたはずのリーダーが亜美の頭に拳銃を突きつけていた。